第6話 手紙
ジラン出発の日。
リューホは他の多くの騎士と共にジラン達派遣部隊の見送りをしていた。場所は帝国騎士団の宿舎の前だ。
「ジラン。くれぐれも無事に帰ってこいよ」
リューホはいつもの立派で厳粛な騎士というイメージからかけ離れた態度──思いっきりジランの肩に手をのせて心配そうな顔をしている。周りの騎士たちはその新鮮な姿に唖然としている。しかし、リューホはそんなことお構いなしだった。
「そんなに心配するなよ。俺は大丈夫さ。無事に帰ってくるから」
「……」
リューホはジランのその答えが何か気に入らなかった。それと同時に何か嫌な予感がしていたのだ。ただ、それをリューホはいつもの心配性のせいだと考えてそれ以上考えることをしようとはしなかった。
「じゃあ、行ってくる」
「ああ、行って来い」
リューホはジランを見送ってその後ろ姿が見えなくなると部屋へと戻って行った。
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それから1週間後。
すでにジランが出かけてから1週間をいう時間が流れており、リューホもここ2,3日の間はすでに心配している様子はなくなっていた。それは、ジランの強さを信じているからだ。ただ、そんなリューホの元には少し心配な情報が流れてくる。
それは……帝国の戦況は依然劣勢だということだ。一時は戦況は良くなったがすぐに連合国はその持ち得る限りのすべての魔導器を導入したことで再び帝国を追い込んでいたのだ。
そして、その影響は再び騎士団の元に帰ってきていた。
「くそおっ! 軍の連中また、騎士団から戦争に行けって、ふざけるんじゃあねぇ!」
リューホは騎士団長室の中で人知れずキレていた。それは、リューホを知るものなら驚くほどのキレようだった。
ことは少し前に遡るが軍の連中が戦局が悪化したので再び騎士団の中から優れた人材を戦争の前線に派遣しろと命令してきたのである。流石のリューホもこれには激怒した。
「くそくそくそくそおおおおおおおおおお」
騎士団長室にはリューホのキレた怒鳴り声だけだ響き渡る。といってもこの騎士団本部には今、リューホ以外にはケント副団長しかいないので人様の迷惑をかけているというわけではない。それが唯一の救いであった。
「うるさいですよ、団長」
そこに1人の男が入ってきた。騎士団の制服にワッペンは副団長を表すものが飾られている。彼こそが騎士団副団長でのケントである。
「……ケントか」
リューホはケントの名前を呼ぶ。突然部屋に入ってきたことが気に食わなかったのだ。部屋の中には緊迫した空気が流れる。しかしながら、リューホとケントの仲は本来ならば良好であり決して険悪ではない。しかし、今のリューホにはそれすらどうでもなるほど機嫌が悪かったのだ。
「団長。機嫌よくしてくださいとは言いませんが、せめて俺がいることだけは理解してください」
ケントは一言だけ言うとそのまま自分の副団長室へと帰って行ってしまった。
「……迷惑かけたな」
リューホはその言葉で頭を冷やして第2次派遣隊の人選を開始したのだった。
が、そんな彼のもとに不幸の知らせが届く。1通の手紙と共にだ。
コンコン
「どうぞ」
部屋の扉をたたく音がしたのでリューホは中へと人を通す。中に入ってきたのは伝令係の騎士であった。彼はとても息を切らしていたので重大な情報を持ってきたのに違いないとリューホは考えた。
「何ごとだ」
リューホは騎士から伝令の言葉を待つ。そして、彼の口からは信じられない言葉が出てきた。
「申し上げます。第1次派遣隊の全滅が報告されました。ジラン隊長も敵陣の中で見事な最期だったとのことです」
……えっ!?
ジランが死んだ?
「ほ、本当か?」
リューホはその言葉が信じられなかった。正確に言うと信じたくなかった。
「はい。軍からの報告であり間違いないとのことです。それからこれがジラン隊長からの手紙です」
そう伝令は言うとジランが書いた最後の手紙というのを渡した。リューホは伝令を下げさせるとその手紙を読み始めた。
リューホへ
この手紙を君が呼んでいるということは俺はもう死んだということだな。リューホ、君には今までたくさんの迷惑をかけた。すまなかったな。それに今回俺が死んでもお前のせいではないぞ。全ては俺の力が足りなかっただけの話だ。いいか、│連合国は強いぞ。この戦争はおそらく帝国が負ける。このままだとな。だから、これ以上俺みたいな奴が生まれないようにリューホは頑張ってくれ。大丈夫だ、君にならできるさ。
それと、1つ頼みがある。
故郷にいるサッキーのことなんだが。俺は彼女のことが好きだった。だから、せめて彼女に俺の気持ちだけでもいいから伝えてくれないか。君には辛いことだと思うが最後の願いということで頼む。
それじゃあ、今までありがとう。
大親友 ジラン
「……」
リューホはその手紙をくしゃくしゃにして泣いた。彼が泣くのはめったにない。それほどのことであった。リューホはこの後あることを決意した。
それが最強の男を作ったきっかけだった。