赤いりんごは毒りんご?
ある村にはたくさんのりんごの木がありました。
木には毎年りんごがたくさん実ります。
その村に一人の旅人が来ました。
旅人はそのりんごの木を見て言いました。
「美味しそうなりんごですね。一つ頂きたい。そうだ、あそこの木になっているりんごをください。」
旅人は特に真っ赤でたくさん実っているりんごの木を指さしました。
それはただ一つだけ丘の上にある木で、りんごの木の中で特に目立っていました。
旅人がその木を指さしたのを見ると村人は慌て始めます。
「だめです。あのりんごは赤いのです。」
旅人は首を傾げました。
「どうして?りんごは赤いものです。他の木になっているりんごもみんな赤いじゃないですか?」
「あのりんごの木だけは特別なのです。」
村人はすべてを説明しました。
「この村には三種類のりんごがあるんです。一種類はただの普通のりんごです。丘の上にある木以外はすべてそれです。もう二種類のりんごはあの丘の上の木に実ります。一つは毒りんごで一つは幸運のりんご。毒りんごはたちまち毒にあたって死んでしまいますが、幸運のりんごは食べた人に幸運をもたらすと言われています。二種類のりんごのうち一つは真っ赤なりんご、もう一つは金色に輝くりんごです。私たちはどちらも口にしたことはありません。」
旅人は納得したように頷きました。
「なるほど。では、あなたたちはあの赤いりんごが毒りんごだとお思いなのですね?」
「そうです。金色のりんごはとても美しい。幸運のりんごと呼ばれるのにふさわしいとは思いませんか?」
「確かに。では、なぜ金色のりんごも口にしないんですか?」
「それは、とても珍しいから口にできないのです。」
「そうですか。しかし、あの木に実ることは確かなのですか?」
旅人が尋ねると、村人は丘の上の木を眺めました。
「あの赤いりんごの中に毎年ひとつだけそれが実ります。」
「それはいつもどうしているんですか?」
「神様にお供えしております。」
旅人は話を聞くにつれて、その金色のりんごが食べたくなってきました。
「それを高値で売っていただけませんか?」
「だめです。」
村人は断固としてそれを断りました。
しかし、旅人はますますそれが食べたくなります。
それから旅人は毎夜、りんごの木に行って金色のりんごを探しました。
「まだ金色のりんごは実っていないようだな。」
旅人はいつもそう呟いてかえって行きます。
そして、ある満月の夜のことです。
「やったぞ、金色のりんごが実っている!」
真っ赤なりんごに囲まれて、ただ一つ満月に輝く金色のりんごを見つけました。
旅人はさっそく木によじ登り、そのりんごをもぎ取りました。
手に持つと、それはキラキラと輝きを一層ましたように思え、木から降りる前に旅人はそれにかじりつきました。
「これで、俺は幸運を手にしたんだ!」
旅人が喜んでいたのもつかの間、彼は突然苦しみだし、そのまま木の上から落下してしまいました。
旅人は頭から落ち、即死でした。
しばらくすると、旅人の死体の周りにたくさんの明かりが集まってきました。
村人たちの松明の光でした。
「運びなさい。」
長老と思える人物が一歩前に出てそう呟きます。
村人たちは死体を担ぎ上げ、山に向かって歩き出しました。
村人の一人、若い男性が不思議そうに呟きました。
「なぜ、旅人は死んでしまったのですか?」
長老が思い出したように若い男性に返事を返します。
「お前はこの儀式に参加するのは初めてだったね。説明をしよう。」
長老は若い男性の横に並び歩きます。
「赤いりんごにはもともと毒なんて入っていないのだよ。そしてあの木にはもともと金色のりんごなんて実らない。」
「なら、あの旅人が食べたりんごはなんなのです?」
長老は若い男性をちらと見ると話を続けます。
「金色の毒を塗った赤いりんごだよ。毎年この時期になると旅人にりんごの話を吹き込み、満月の夜に真っ赤なりんごの一つに金色の毒を塗っておくのさ。旅人はいつも強欲なんだ。幸運欲しさに毒が塗ってあるとも知らずにそれにかぶりつく。」
長老は少し笑いました。
「まあ、そのおかげで毎年神に捧げる人質を村人から選別しなくてよいのだがね。」
長老が喋り終わると、ちょうど山のなかのほこらに着きました。
村人たちは旅人の死体をほこらの前にある祭壇におろします。
長老が祭壇の前へ行き、神への言葉を唱え始めると村人たちはその後ろでその言葉を静かに聞きはじめました。
「……よし、これで今年もりんごがよく実るぞ。」
儀式が終わると長老は村人たちにそう言いました。
村人たちは安堵の表情を見せ、おのおの山を降りて行きます。
若い男性は祭壇の前に立つ長老に歩み寄って言いました。
「この旅人はどうなるのですか?」
長老は祭壇を少し見やると村の方へ歩き始めます。
「それはわしにもわからない。大方、この山の動物が食べてしまうのだろう。まあ、来年には必ずここから死体は消えている。そして、村にはりんごがよく実るのだ。」
若い男性は悲しそうに旅人の死体を振り返り、なにか呟くと長老のあとを追っていきました。
「金色のりんごなんて食べなければ助かっただろうに。毎年くる旅人は誰もが強欲なのだろうか。」
誰もいなくなったほこらの祭壇には一つのあわれな死体とその手に握られた金色のりんごが満月に照らされていました。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
短編小説は初めてでうまくまとめられたのか不安要素は残りますが、ご感想などよかったら書いてくださると嬉しいです。
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