第十六話 ~馬車内の男は~
「はぁ・・・。毎度のことながらアリーナには驚かせられるのう・・・。」
「そうですね。まぁ、ティクレスの王は、”周囲を動かす起爆剤”と言われておりますから仕方ないと思いますけど。」
「それはそうじゃが・・・アリーナの場合、性格の悪さがそれを後押ししとる気がする・・・。」
「それについては何も言いませんよ。」
帰りの馬車の中、古くからの友人でもある宰相と三年ぶりの会議について話す。一番の話題は勿論ティクレスのことだ。
”周囲を動かす起爆剤”。先人達はよくこれほど当てはまる言葉を考え付いたものだ。あの国の王はなぜか毎代何か一つは世界を動かす事柄を掴んでくる。他の王がいくら調べても分からない事を。
・・・アリーナがあの国の王になったのも必然だったのかもしれんのう。
昔のことを思い出し笑いが漏れた。
「思い出し笑いなんて気持ち悪いですよレグライ。これからの話をしていたの、聞いてたでしょうね?」
「お?すまんの。つい、昔のことを思い出してな・・・って、気持ち悪いじゃと!?気持ち悪いとは酷いだろうが!!」
「大の男がニヤニヤ笑っているのを見て気持ち悪いと思わない訳がないでしょうが。」
「うっ・・・!・・・すまんかった。」
確かに想像すると気持ち悪い。それに話を聞いていなかった自分の方が悪かったので素直に謝った。
「では、話を最初からしますよ。まず国の者達に透明色の騎士が召喚されたことと召喚された経緯を話す。その後、透明色の騎士がティクレスの騎士にもなったことを話す、といった感じで順を追って話してください。いいですか。くれぐれも飽きたからといって内容を省いたり、順序を変えたりしないでください。」
「むぅ・・・面倒じゃな。」
「レグライ?」
ヒッ!め、目が!目が『やらなければどうなるか分かっているな?』という目をしておる!
「わ、わかった!しっかりやるから安心せい!」
「ならいいです。」
友人の機嫌が戻ったのを確認してホッと生きをつく。長年の付き合いからこの友人を怒らせると碌な事がないのは分かっている。
話が切れたところで、会議が終わってからずっと考えていた計画を話すことにした。
「のう、シュアル。」
「何ですか。」
「我が国に入り込んだやつのことじゃがな。透明色の騎士殿に炙り出すのを手伝ってもらおうと思う。」
「炙り出し・・・ですか?」
そうじゃ。前に話した時に言っていたじゃろ?炙り出す時は第三者に承認したほうがいいのではないかと。となれば、透明色の騎士殿が立場的にも一番適任だと思うのじゃよ。」
「確かに言いましたし、透明色の騎士殿が一番適任だと思いますけど、王子が何と仰るか・・・第三者を介入させること自体猛反対してらしたじゃないですか。」
ニヤリ。
「それを何とかするの手ももう考えておる。」
「何だか不安なんですけれど。」
「そ、そんなことないわ!何はともあれ、もう一度ティクレスに行かねばな。」
「話を逸らして・・・。それに透明色の騎士殿が協力してくれるか分からないのも頭に入れておいてくださいよ。」
「うぐっ・・・わ、わかっとるわ!」
「はぁ。(これは忘れてたな・・・。)」
友人に飽きられた目で見られているのにも気づかず、騎士をどうやって説得するか考え始めた。さて、どうすれば彼女はわしらに協力してくれるかのう・・・。