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第二三話:狩り場

 兵治が主催する歓迎会は、いまだに続いていた。クラッカーではなく兵治が構えたP230が鋭い銃声を響かせ、色鮮やかな紙吹雪やテープのかわりに拳銃弾が放たれ、それを浴びたヤクザが鮮血をまき散らしながら倒れる。


「あの野郎をぶち殺せ!」


 指揮官のヤクザが構えた突撃銃を撃ちまくりながら、配下のチンピラにそう叫んだ。拳銃や散弾銃が大量の弾丸を吐き出すが、それが殺到する前に兵治は身を翻してさっさと角を曲がって射線から逃れていた。


「追え!逃がすんじゃない!」


 ヤクザがそう叱咤して兵治を追いかけにかかった。ヤクザが駆け出したところで、先程の角からまた兵治が姿を現した。駆け出したヤクザが立ち止まって銃を構えるよりもずっと早く兵治のP230が銃火を瞬かせ、たちまち二人が三二口径ACP弾を喰らって倒れる。


「こんだけやられてるのに逃げ出さねぇとは、連中ってやっぱり馬鹿の極みだよな」

「まったくだ。馬鹿はこれだから困る」


 兵治の足元に寄り添いながら走って逃げるガルが、呆れたようにそう言った。兵治もそれに応じながら、空になったP230の弾倉を捨てて、新しい弾倉を装填した。後ろに軽くスライドを引いて再装填を終える。


 全速力で走って商品棚が並んだ通路をいくつか進み終えると、ヤクザ達は完全にこちらを見失ったようだった。兵治は台所用品が並んだ商品棚の陰に隠れて、息を潜めてヤクザ達の様子をうかがう。


「すぐ隣の通路に団体さんが来るぞ。合図をしたらとにかく撃ちまくれよ」

「了解」


 ガルが小声で兵治にそう言ったので、兵治は膝を着いて右に並んでいる商品棚へとP230の銃口を向けた。左手でマカロフをポーチから取り出しておき、足元に置いておく。耳を澄ませて敵がやって来るのを待った。


 相変わらず音をまったく隠す気が無いらしいヤクザ達が、うるさい怒鳴り声と乱暴な足音を響かせて走って来るのが、兵治にもわかる。しかしここは優れた聴覚を持つガルの方が頼りになるはずなので、おとなしく合図を待つ。


「ぶっ放せ!」


 耳をピンと立てていたガルから指示が出たので、兵治は膝立ちの姿勢で上向きに構えたP230の引き金を立て続けに引き絞った。銃口はちゃんと人間の上半身があるはずの場所を狙って向けていたので、商品棚の向こうからすぐに悲鳴があがった。


 棚に並んでいた洗剤のボトルが爆発し、キッチンペーパーの詰まった袋が四散し、衝撃波で他の商品も揺れる。台所用品を貫通しつつ棚をぶち抜いた弾丸は、反対側の通路にいたヤクザも撃ち抜く。スライドが後ろに下がる度に排出された空薬莢が飛び跳ねる。


 P230の弾倉に残っていた32ACP弾を速射して撃ち尽くすと、ホルスターに突っ込んだ後にすぐ足元に置いておいたマカロフを手に取り構える。そしてスライドを後ろに引いて放すと、スライドが前に進むと同時に初弾を薬室に送り込んだ。


 兵治に棚越しに撃たれずに済んだらしい生き残りが、拳銃や短機関銃を撃ちまくって来た。しかし案の定、ヤクザは立ったまま撃っているので、弾丸は膝を着いて姿勢を低くしている兵治の頭上を飛び抜けていくだけだ。


 応射で相手の位置を確認した兵治は、マカロフの銃口をそちらへと向けて引き金を絞った。乾いた銃声が響き渡り、軽い反動が両手から伝わって来る。マカロフは九ミリ口径の割には反動が軽くて撃ちやすかった。


 兵治の反撃の九ミリ・マカロフ弾を浴びたヤクザが、棚の向こう側で鮮血とともにひっくり返る。容赦無く兵治はマカロフを撃ち続けたが、八発撃ったところでスライドが後退したままロックされた。自動拳銃の弾切れを示すこの状態をホールドオープンという。


 ホールドオープンした状態のマカロフのグリップ下部にあるレバーを操作して空になった弾倉を抜くと、兵治はポーチから予備の弾倉を取り出して装填。スライドを後退したままの位置でロックしているスライドストップを押して解除する。


 スライドストップのロックが解除され、スライドが前へと勢いよく前進する。その際に弾倉から初弾が薬室へと送り込まれるので、これでいつでも射撃可能となる。最初はスライドをいちいち手で引かないといけないのだが、弾倉交換後はそれをしなくても済む。




「お見事、馬鹿を一気に六人殺せたぜ。ただこっちへ向かって来るうるせぇ足音もたくさん聞こえるから、さっさと移動した方がいいな」

「もう三〇人以上殺しているのに、まだそんなにいるのかよ」

「外にいた見張りとかが応援で来たんだろ。俺様の耳を信じろって」


 急いでまた別の通路へと走りながら、そんな会話をガルと交わした。最初の焼夷爆弾で二〇人近く殺し、早川による狙撃やその後の銃撃戦でもすでに一〇人以上撃ち殺しているので、四〇人程度のヤクザの本隊は壊滅状態のはずだ。


 ところが、ヤクザはホームセンターの外で周辺の見張りや封鎖に当たっていた連中を増援として呼んだらしい。これだけ一方的にやられてるのに逃げ出さないとは、根性があるのかただの馬鹿なのか、兵治としてはとにかく理解に苦しむところだ。


「あの美人の姉ちゃんも頑張ってるみてーだな。撃ち合ってる銃声が聞こえてる」

「死んでないだろうな?」

「撃ち合う銃声が聞こえるってことは、まだ死んでないだろ」


 早川に対してひどく失礼な会話だったかもしれないが、まだ兵治は早川の腕前をそこまで信用していないので、仕方がない。どうやら早川は狙撃が出来なくなってからは、兵治と同じくホームセンター内でヤクザ相手に銃撃戦を繰り広げているらしい。


 兵治は中央の日用品コーナーを抜けて、ホームセンター入って左側の最初に兵治が隠れていたアウトドア用品の特設コーナーの後ろにある、カー用品コーナーへと入った。そこへ入る前に広い通路を横切ったせいで、数人のヤクザに発見される。


「いたぞ!あそこだ!」

「追え追え!」


 手にした銃をめったやたらと撃ちまくりながら、ヤクザが兵治を追いかけ回して来る。左右にカー用品が陳列された商品棚の通路を抜けて突き当たりに出ると、ヤクザの視界から消え去った兵治は素早く右側の棚を背にして待ち構える。


 兵治の姿を見失ったヤクザ達が通路へと突撃して来たが、すぐに先頭のヤクザが丁度足首の位置に張られていたワイヤーに引っ掛かり、派手に転倒した。他のヤクザもワイヤーや倒れたヤクザの体につまずき、たちまち狭い通路で身動きができなくなる。


 棚から身を乗り出した兵治が、構えたマカロフを速射する。反動が軽くて撃ちやすいので、連続して撃っても銃のブレが少なく、転ばずに済んでいたが立ったまま動けないでいたヤクザ二人を撃ち倒す。撃たれたヤクザの銃創から、どす黒い血が流れ出る。


 生き残ったヤクザが反撃して来る前に兵治は棚の陰に引っ込んだ。そのまま足音を忍ばせて二つ先の通路へと進み、そこを通って先程横断した広い通路へと戻る。そしてワイヤーの罠に引っ掛かったヤクザ達の背後を取ることに成功した。


 ようやく立ち上がり兵治が隠れていると思い込んでいる棚へと銃を乱射していたヤクザを、背後から兵治はマカロフで撃った。散弾銃を撃っていたヤクザの後頭部に弾丸を叩き込み、さらにその隣で拳銃を撃っていたヤクザの胸にも背後から二発見舞う。


 ここでまたマカロフの弾が切れたが、まだヤクザが一人残っていた。慌てて振り返ったそのヤクザは兵治を手にした拳銃で撃とうとしたが、その前に飛び掛って来たガルに押し倒され、鋭い牙で喉を引き裂かれた。鮮血がびしゃりと喉から飛び散る。


「相変わらずえぐい殺し方をする奴だ」

「悪いな、狼様の武器はこの牙さ。こいつで柔らかい人間の首を噛み裂くのはたまらねぇよ」


 これじゃどっちが悪党かわからないな……と内心で兵治はぼやきながらも、マカロフの弾倉交換を行った。少し余裕があったので通路に置かれた段ボール箱の陰に隠れて、P230の再装填も行っておく。


 弾倉交換を終えたP230は、ホルスターにまた戻しておいた。マカロフよりもP230の方が操作性などでは優れているが、なんといっても32ACP弾は威力が劣る。その点、マカロフはP230と同じ装弾数で口径が九ミリなので、威力ではこちらの方が優れている。


 段ボール箱の陰に隠れていると、また怒鳴り声と足音のセットが聞こえて来た。うんざりしながらも、兵治はあらかじめそこに隠しておいた茶色いボール紙の箱を手にする。広い通路をこちらへと駆けて来るヤクザの集団が見えると、箱をひっくり返した。


 箱の中に詰まっていたのは、スチール製のベアリングだった。無数の小さな球が走って来るヤクザへと転がっていき、それに足を取られたヤクザが転倒して罵り声を上げたが、すぐに兵治に撃たれて永遠の沈黙を強いられた。


 適当にヤクザに銃弾を叩き込んで三人を撃ち殺した後、兵治は即座に通路を通って後退した。ワイヤーといいベアリングといい、子供騙しだがこの状況下では充分に効果があった。あらかじめ爆弾以外にもあれこれ手を尽くしておいた成果だった。




「て、てめっ!?」


 通路の角を曲がったところで、不意に三人のヤクザと鉢合わせしてしまった。ガルがすぐに一人に飛び掛かり押し倒して首に喰らいつき、兵治がさらに一人の眉間に二発撃ち込んで射殺したが、そこで弾切れとなりマカロフはホールドオープンしてしまった。


 そのヤクザが持っていたのは突撃銃だったので、即座に接近戦を挑んで来た兵治を相手にするには分が悪かった。兵治はマカロフを捨てると空いた右手で突撃銃の被筒を掴んで銃口を右に逸らし、射線から自身を逃した。


 慌ててそのヤクザは引き金を引いたが、当然銃弾は右の商品棚へと弾痕の列を刻むだけに終わる。兵治は左手で左足の太腿にベルトで縛りつけていた鞘からナイフを引き抜くと、ヤクザの脇腹に思い切り突き刺した。


 ヤクザが突撃銃から手を離して絶叫を上げながら仰け反った。兵治はさっさと奪い取った突撃銃を構えると、ヤクザの頭に至近距離から発砲。開かれた口へとライフル弾が飛び込み、脳幹を吹き飛ばして後頭部へと抜けていった。


「おい、大丈夫だったか?」

「余裕さ」


 血に汚れた牙を舐めながら話しかけて来たガルにそう答えながら、兵治は先程捨てたマカロフを拾ってポーチに放り込み、ナイフも回収して鞘に戻す。突撃銃を奪取したヤクザから、予備の弾倉をまとめて頂いておき、さらに突撃銃を点検する。


 見た瞬間から判っていたが、突撃銃はあのAK47だった。銃に詳しくない人間でも必ずテレビか何かで見たことがあり、名前を聞いたこともあるだろう、抜群に知名度の高い旧ソ連の傑作突撃銃。


 AKはアブトマット・カラシニコバの略であり、47という数字は一九四七年に旧ソ連軍が制式装備したことを示している。口径七・六二ミリだがライフル弾と拳銃弾の中間のような短小弾薬を使用し、フルオートでも撃ちやすい。


 AK47は、その単純な構造故に非常に頑丈で劣悪な環境下でも確実に作動し、安価で大量生産が可能だった。そのために世界中のありとあらゆる場所で大量生産され、紛争地帯や独裁国家の軍隊ではいくらでも見ることができた。


 なんとこのAKは派生型も含めると、全世界に一億丁以上が存在するという。日本の人口がこうなる前は一億人以上だったから、おそらく日本国民一人につき一丁持つことのできる量だ。その一部が、ヤクザにも流れていたというわけだ。


 先程撃ったのが最後の弾だったらしく、AK47のバナナ型に湾曲した弾倉は空になっていた。兵治はマガジンキャッチという銃から弾倉を外すための部品を押して、空の弾倉を外すと予備の充填された弾倉を装填した。


 AK47の機関右側にあるコッキングレバーを引いて、弾倉から薬室に弾を送り込む。コッキングレバーの後ろにあるセレクターレバーを連射のフルオートから、単発のセミオートの位置へと押し下げた。


 いつでも射撃可能となったAK47を構えたところで、先程ベアリングで転ばせた連中の生き残りが背後から現れた。撃たれる前に右へと跳んで転がり、通路に入り込んで射線から逃れた。先程まで兵治とガルがいた空間を大量の弾丸が通り過ぎていく。


 兵治は中腰の姿勢で棚の陰から身を乗り出すと、AK47をセミオートで撃った。やや重い引き金を三度絞り、三発の七・六二ミリ弾で一人のヤクザを射殺する。拳銃弾よりもずっと威力があるので、確実に相手を殺せた。


 慌てて残った二人のヤクザが兵治と同じように棚の陰に隠れたので、兵治はAK47をフルオートにセット。二人のヤクザが隠れた棚を狙ってフルオートで五発か六発に区切った連射を二回浴びせて、二人を棚越しに撃ち抜いて殺した。


 銃撃戦の際にどう動くべきか知り尽くしたプロの兵治と、銃を持っただけの素人のヤクザとでは、互いの力量に雲泥の差があった。このような屋内の銃撃戦は特殊部隊員だった兵治の得意とするところであり、ホームセンター内は兵治の狩り場と化していた。


 そこにうっかり入り込んだヤクザ達は、まさに狩り場の雉だった。これが全員で密集して行動していれば兵治も迂闊には手を出せなかったかもしれないが、ヤクザが数人の集団に別れてくれたおかげで、順調に各個撃破していくことができた。

今回も気合を入れて銃撃戦を書きましたが、次回以降も予定では派手なドンパチが続きます。

作者にようやく余裕が出て来たので、またこれから感想には順次返事をさせて貰います。


本当にたった一言でも貰えるとやる気が一気に出て書き進められるので、ご意見やご感想、なんでもお待ちしています。

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