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第10話◇氷の薔薇の増やし方は

「あの『希望のかけら』は一体何をどのようにして、あそこまで?」


意識して話題を変えた。

わたくしとしては、やはり薔薇のことはしっかり訊いておきたかったから。


あれだけ「いっそ薔薇のことは考えないようにしたい」とまで思い詰めていたはずが、自分から話したい気持ちがとめどなく沸いてくる。


「マクファーソン伯爵より頂いた手紙を頼りにして、魔法の教師についてもらい、庭師の協力も得まして。この土地の気候もありますが、そもそも私が近くにいるだけで植物は少しずつ魔力に当てられて弱ってしまいます。なので、当日帰宅後は泣く泣く母上に預けて保護魔法をかけてもらい、じわじわと近づくことから始めました」


ウィル様は右手の指先で宙に円を描く。

するとその位置に氷の粒が現れた。


ひゅう、とその粒を核にするかのように冷気が取り巻いて、氷は段々と大きく育つ。

やがて大人の男性の握りこぶし程度の大きさになった氷塊が、ピキピキと小さく鳴動しながら一輪の薔薇を形作った。


それは氷だから色も香りもないけれど、花弁の形など、完全に「希望のかけら」の特徴をとらえて再現してある。


「綺麗……」


宙に浮いたままゆるりと回転する花に、わたくしは思わず手を伸ばす。

すると再び氷の薔薇を、今度は柔らかな風が包み込んだ。


「冷気は中に閉じ込め、外側の外気とは馴染ませています。そのまま触ってみて。私の魔力が続く限りは溶けないので」

「わ……不思議」


ふわりと手に収まった氷の薔薇には刺々しい冷たさはなく、しかしほのかな冷気だけを指先に伝えてくる。

そして普通の氷のようには溶けてしまわない。

手のひらが水滴に濡れることは全くなかった。


何だか不思議な感覚だわ。

魔力操作を極めるとこんなことも可能ってことなのね。


「必死になって鍛練した結果、私はようやく正確な魔力操作を覚えられたのです。全て、貴女がいて、薔薇があったからこそできたこと。だからこそ、あの薔薇は私の『希望』で、貴女は私の宝物なんですよ」


手の中の薔薇はキラキラと日光を透過し、また反射して美しい。

それは一切曇りがなく、透明度が異様に高いからだ。


確かに彼が語る通りの、たゆまぬ鍛練の成果に違いなかった。

だが、そこでふと思い当たって訊ねる。


「え、でも、ここまで操作できるのに、たまに周囲に冷気が漏れているのは……?」


真意を探ろうとして顔を上げ、ウィル様としっかりと目を合わせると、彼は少々気まずそうに視線を漂わせた。

恥じたように。


「……それは、普段は周囲への威嚇のためと……貴女の前ではつい動揺してしまい、魔力が揺らいでしまうからですね。まだまだ未熟者です」


その台詞に合わせて、この手の中の薔薇が幾らか身動きしたように思われた。

まるでこの氷の薔薇も製作主と連動して恥ずかしがっているみたい。


それを悟ったわたくしは、思わずまじまじと薔薇を見て、それから横目でウィル様の表情を確かめつつも、ちゅっと軽く触れるだけのキスを落としてみる。


「っ、ぐう……っ!」


途端、ウィル様は左手で胸を押さえるようにして息を乱し、右手で顔を覆って何とも言えないうめき声を漏らした。


パキパキパキ、とわたくしの手元の薔薇は鳴動する。

そうして「育った」とも言える形で花は一輪から二輪に増えた。


それでも馴染ませた冷気が暴走したり花が溶けたり、という状況にだけは至らなかったのは、ウィル様なりの男の意地だったのかもしれない。


「あら。どうやらわたくし、さっそく氷の薔薇の増やし方も習得出来たようですわ!」

「……っ、これは、容赦ありませんね」


完全に音を上げた様子のウィル様、その耳の端まで赤くなったさまに、わたくしは声を立てて笑う。

そんなふうに素直に無邪気に笑えるのは、かなり久しぶりのことだった。


「だって。美しい薔薇を見ると、どうしても増やしたくてたまらなくなる、というのは、マクファーソンの娘としては当然のことですもの」


ずっとやられっ放しだったのがようやく明確に反撃できて、わたくしは嬉しくてたまらない。


そんなわたくしを眩しげに見つめて微笑むと、ウィル様は頬にキスの仕返しをしてきた。

あえてわたくしに意識させるために、わざとちゅっ、と音を立てて。


「いいでしょう。お望み通り、受けて立ちましょう。貴女の望むまま、いくらでも増やして見せますよ。私の愛の証としてね」


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