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第1話◇婚約破棄?ふざけないで欲しいわね、薔薇返して!

「お前とは婚約破棄だ、アメリア・ローズ・マクファーソン!!今日これより、俺はこのファニーと婚約を結びなおす!!」


大声で宣言したのはオルコット伯爵家長男のルーカスだ。

ルーカスの横にはまるで小動物のようなつぶらな瞳の可愛らしい少女がいて、二人はこれ見よがしにベタベタする様を見せつけてきた。


「きゃっ、睨まれちゃってるぅ。あの人、こわぁい」


わたくしの視線を受け、わざと怯えたそぶりでルーカスの背後に隠れた彼女は、ファニー・エイミス男爵令嬢。

エイミス男爵家の庶子であり、昨年引き取られて正式に娘としてお披露目された子だ。

それをかばうようにして、ルーカスこそがわたくしを睨みつけてきた。


「その目つき!!本当にお前はファニーと違って、ちっとも可愛げがない女だな!! この悪役令嬢め!!また今も彼女を貶めようとしているんだろう!?」

「――はぁ?」


突然始まった茶番劇に、ついついこんなドスが利いた低い声が出てしまったとしても、仕方ないと思うのよ。

わたくし。


「人の薔薇を盗む令息に、人の婚約者を盗む令嬢。お似合いですこと。うちの薔薇を盗んだのは、ルーカス、あんたでしょう?」


ファニーの髪に飾られた薔薇。薄い黄色のグラデーションの花弁、その輪郭には鮮やかな、赤みの強いオレンジ。


見間違えるわけがない。

確かにそれは、一ヶ月前にマクファーソン家の温室から盗まれた薔薇。

わたくしの企画・監修で作られ、あとは王家の方々へのお披露目を控えるばかりだった、あの新種に、間違いなかった。


「ふん。またそんな言いがかりをつけてくるか。この薔薇はオルコット家で先日、正式に新種の申請も済ませたものだぞ?」

「アメリア様ってば。いくら私に嫉妬してるからって、オルコット家の薔薇を奪い取ろうとするなんて、酷いわ……」

「何ですって……!?」


自分たちが盗んだくせに、わたくしの方を罪人に仕立て上げようとするなんて!!


「皆様、この悪女は我が一門が作った薔薇を横取りしようとしているんですよ!!こちらの彼女にも執拗に嫌がらせを!!」


ルーカスは大声で誇示して、ファニーは嘘泣きをする。


「……ふざけないでちょうだい。わたくし、今までその子には一度たりとも会ったことがないのよ。知らない子だわ」

「ひどいっ……!!いくら私がアメリア様より身分が低い男爵令嬢だからって、眼中になかったなんて言い方……!!」

「ああっ、ファニー……!!見ましたか、皆様方!!これこのように、この女はいつも彼女を言葉で傷つけているのですよ!!」


はあああっ!?

今初めて会って名を知った人間に、わたくしがどうやって嫌がらせができるっていうのよ!!

発言全てが真っ赤な嘘なんて、何て酷い茶番劇なの……!!


二人への強烈な怒りで、自然とわたくしの全身が震えた。


マクファーソン家は代々薔薇を育てることを一番の産業としていて、そのミドルネームに「ローズ」を冠することを王家に認められている、唯一の貴族だ。


婚約者であるのをいいことに、ルーカスは新種の栽培をしているマクファーソン家の温室の、奥の奥の区画まで入り込んだ。

そして門外不出の苗を盗み出したのだ。


それを知らされたわたくしは、ルーカスが浮気相手と参加するという噂を聞いた夜会に足を運んで……そして、これだ。


この人たち、何をぬけぬけと……!!

それはわたくしが自ら手を掛け、庭師たちと日々相談しながら数年かけて作り上げた新種なのに……!!


わたくしがどれほど薔薇を愛しているか、知っていたくせに、ルーカスは平気で裏切った……。

家名の誇りもわたくし自身の努力も庭師たちの尽力も全て踏みにじる、そんなことを平気でする男が自分の婚約者だったなんて、最悪だわ!!


「まぁっ。やっぱり、悪役令嬢だったのね。アメリア様って」

「ハハハッ。見た目も性格も、キツそうですからねぇ……」

「マクファーソンこそ、元は土まみれの成り上がりじゃないですか。それが身分を笠に着て、他の子をいじめるなんて」


心無い言葉が耳に届いて、刃のように胸に突き刺さった。

ファニーを虐めた事実は絶対にないし、あの薔薇も間違いなく私のものなのに……!!




マクファーソン家がこの状況に納得できるはずはなく。

この日以降、オルコット家とは対立状態になり、やがて私とルーカスの婚約破棄が正式に決まる。

するとすぐにわたくしには別の縁談が持ち込まれた。


「わたくしたちとしては、これ以上無理はさせたくないのだけれど……」

「ただ、お相手は公爵家で、これは王命でもある。あの薔薇の件でマクファーソン側に瑕疵はない、と世に示したいというお話だった」


両親は、傷心の娘にこれ以上負担を掛けたくないと考えてくれたみたい。


ただ、これは王命である、と伝えられて逆らえるはずもない。

何より、王家と公爵家が組んでオルコットでなくマクファーソン側についてくれた、という証でもある。


わたくし自身も、もう結婚なんてどうでもいいと投げやりな気分だった。

大好きな薔薇の世話だけは欠かさずしていたけれど、気持ちはずっとどんよりと重かった。


「お父様、お母様。わたくし、その王命に従います」


いつの間にか、あっさりとそう口走っていた。


「何もせずに落ち込むくらいだったら、いっそ新しい環境に飛び込んで、気分を変えてやりますわ……!!」


ここでどんなに嫌がったとしても、貴族である限りは、いずれどこかに政略結婚で嫁ぐことになるのだ。

抵抗しても無駄なのなら素直に従っておこう。


わたくしはただそう考えた。


いくら薔薇のことしか興味がない「世間知らずの薔薇オタク令嬢」なわたくしにだって、王家に逆らわないのが一番だってことくらいは、分かってるんだから……!!


新連載開始しました。


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