第6話:ドッキリ大成功
サヤカの手からバズーカ型のクラッカーが発射され、キラキラとしたテープが私の頭上に降り注いだ。
同時に、スクリーンの映像が切り替わる。
ポップな書体でデカデカと書かれた文字。
『ドッキリ大成功! ~真実の愛は試される~』
「はーい、皆さん! お騒がせしましたー! 今の全部、ドッキリでしたー!」
サヤカが裏返った声で叫び、スタッフが「大成功」と書かれたプラカードを持って走り出てくる。
……シーン……。
誰も笑わなかった。拍手も起きない。
ただ、不気味なほどの静寂が会場を支配していた。
床に座り込んだままの義母・トモエは、口をパクパクさせてプラカードを見上げている。
父は血管が切れそうなほど顔を赤くし、拳を震わせている。
母は、乱れた私のドレスを直そうと涙を流しながら手を動かしている。
この惨状のどこをどう見れば、笑えるというのだろう。
「あれ? 皆さん? 反応薄いですよー?」
サヤカが焦ったように客席を煽る。
しかし、返ってくるのは冷ややかな軽蔑の視線だけだ。
その重苦しい沈黙を破ったのは、他でもないユウジだった。
「あー、よかった! やっと言えた!」
彼は額の汗を拭いながら、満面の笑みで立ち上がった。
そして、まだ呆然としている私の肩を、馴れ馴れしく抱き寄せた。
「ごめんごめん、ミオ。怖かったろ? でもさ、あの写真も領収書も、全部サヤカちゃんが作った偽物だから! 安心して!」
ユウジは、まるで「サプライズプレゼントを渡した後の彼氏」のような顔をしていた。
私がどんな顔をしているか、全く見えていないのだ。
「……何が、したかったの?」
私の唇から、掠れた声が出た。
感情はもうなかった。怒りも通り越して、ただただ、目の前の生物が理解できないという困惑だけがある。
「え? だから、サプライズだよ」
ユウジはキョトンとして、説明を始めた。
「結婚式ってさ、ただイチャイチャするだけじゃつまらないだろ? だから、『どんな困難があっても、二人の愛は揺るがない』ってことを証明したかったんだよ」
彼はマイクを手に取り、会場に向かって語りかけた。
「皆さん、お騒がせしました! 僕たちは、たとえどんな過去があっても、どんな疑惑があっても、お互いを信じ抜くことができるか……それを確かめ合うために、あえてこんな過激な演出をしました!」
ユウジは私の顔を覗き込み、うっとりとした目で言った。
「ミオ、君が必死に否定する姿を見て、僕は感動したよ。君は整形なんてしていないし、僕を騙してもいない。僕は最初から分かってた。でも、君がどれだけ僕との結婚を大事に思っているか、改めて実感できたんだ」
……狂ってる。
この男は、本気で言っている。
私の恐怖も、両親の屈辱も、義母の暴走さえも、すべて「二人の愛を盛り上げるスパイス」だったと思っているのだ。
「さあ、お母さんも立って! ミオのお母さんたちも、ドッキリ大成功で握手しましょう!」
ユウジが能天気に手拍子を求めた。
ガシャンッ!!
その手拍子の代わりに響いたのは、私の父がテーブルを蹴り飛ばした音だった。
父の顔は、鬼のようだった。
「ふざけるなッ!!!」
父の怒声がビリビリと空気を震わせる。
会場の空気は、完全に「葬式」以下になっていた。
友人席の何人かは、すでにバッグを持って出口へ向かっている。
親戚たちは、軽蔑の眼差しを隠そうともせず、ユウジとトモエを睨みつけている。
ユウジの笑顔が、ようやく引きつり始めた。
「え……? お、お義父さん……?」
私は、肩に置かれたユウジの手を、汚い虫でも払うように振り払った。
「触らないで」
私の声は低く、冷たく、会場中に響いた。
ユウジが怯えたように後ずさる。
「ミオ……?」
「式は中止よ。全員、帰ってください」
私はベールを引きちぎり、床に叩きつけた。




