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第4話:証拠という名の捏造



「口で否定するのは簡単だよね。でも、科学は嘘をつかないから」


サヤカがノートパソコンのキーを叩く。

 スクリーン上の画像が切り替わった。今度は動画だ。


先ほどの「太った少女」の顔が、CGによるモーフィング映像でぐにゃりと歪み、徐々に形を変えていく。

 骨格が削られ、目が大きくなり、鼻筋が通り――そして最後には、現在の「私」の顔へと完成した。


よくある美容整形のシミュレーション動画だ。

 だが、そのクオリティは妙に高く、まるで本当にそうやって顔を作り変えたかのような説得力を持っていた。


「うわぁ、すっげえ……」

「今の技術ってここまで分かるのか」

「原型ないじゃん。これ詐欺レベルだろ」


会場の男たちが、感心したように声を上げる。


違う。それは私が大学の研究で使っていた顔認識ソフトの技術だ。

 サヤカは私のパソコンからデータを盗み出し、悪意を持って加工したのだ。


「やめて! いい加減にして!」


バンッ! とテーブルを叩く音が響いた。


私の母、ユキだ。

 普段は穏やかな母が、顔を真っ赤にして立ち上がっていた。


「失礼極まりないわ! 娘は生まれつきこの顔です! 親である私が一番よく知っています! こんな出鱈目な映像を流して、何が目的なの!?」


母の必死の抗議。それは真実を知る者としての正当な叫びだった。

 しかし、今のこの異様な空間では、それさえも「演出」の一部として取り込まれてしまう。


「お母様、落ち着いてください」


サヤカが諭すように、しかし嘲笑を含んだ声で言う。


「娘さんを庇いたい気持ちは分かります。でも、過去を隠蔽することはお母様のためにもなりませんよ? これを見てください」


スクリーンに次に映し出されたのは、一枚の領収書のような画像だった。


『某有名美容クリニック』のロゴ。そして、高額な施術費用と、私の名前の署名。

 もちろん、私の筆跡を真似た偽造だ。


「これ、ミオの部屋から見つけちゃったの。お母様も、本当はご存知だったんじゃないですか?」


「なっ……!?」


母は言葉を失い、絶句する。

 あまりに堂々とした嘘に、反論の言葉が追いつかないのだ。

 その沈黙が、周囲には「肯定」と受け取られた。


「おいおい、親もグルかよ」

「とんでもない家と縁続きになっちまったな」


新郎側の親族席から、棘のある言葉が聞こえ始める。


その中心にいるのは、ユウジの母、トモエだ。

 彼女は扇子で口元を隠しながら、隣の親戚と深刻そうな顔で囁き合っている。

 その目は、汚いものを見るように私と母を睨みつけていた。


「違う、母さんは関係ない!」


私は叫んだ。喉が張り裂けそうだ。

 会場を見渡す。誰も信じていない。


友人も、会社の同僚も、困惑しながらも「証拠」のインパクトに飲み込まれている。

 真実よりも、分かりやすい嘘の方が、人の心には届きやすい。

 「美人が実は整形だった」というゴシップ的な面白さが、彼らの理性を麻痺させている。


「ユウジ……お願い、もう止めて」


私はすがるように隣を見た。


もう否定してくれなくてもいい。ただ、この悪夢のような時間を終わらせてほしい。

 あなたが「もういいだろ」と言えば、この茶番は終わるはずだから。


しかし、ユウジは私を見なかった。

 彼はスクリーンの領収書を凝視したまま、震える声で呟いた。


「……300万……? 僕との結婚資金だと言って貯めていたお金は……これに使ったのか?」


「はあ!?」


思わず素っ頓狂な声が出た。

 何言ってるの? 結婚資金はちゃんと口座にある。通帳だって見せたじゃない。

 アドリブ? それともこれも台本?

 

 ユウジのその一言は、火に油を注ぐには十分すぎた。

 金の問題が絡めば、それはもう単なる「隠し事」では済まされない。


ざわめきが、怒号へと変わり始める。

 新郎側の親族席で、誰かが椅子を蹴る音がした。


もう、後戻りはできない。

 会場の空気が、完全に「敵意」一色に染まった。

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