第3話:整形疑惑
サヤカの指差した先、巨大なスクリーンに映像が投影された。
会場の照明が少し落ち、プロジェクターの光だけが白々しく輝く。
映し出されたのは、一枚の写真だった。
背景はどこかの中学校の教室だろうか。そこに写っているのは、丸々と太り、目は糸のように細く、歯並びの悪い、どんよりとした表情の少女だった。
誰が見ても、今の私とは似ても似つかない。
「……誰?」
私がポツリと漏らした言葉は、会場のざわめきにかき消された。
「みんな、驚いたでしょ?」
サヤカの声が弾む。彼女はマイクを握りしめ、勝ち誇ったように私を見下ろしていた。
「これ、ミオの中学時代の写真なんだって。私、苦労して入手しちゃった」
会場のあちこちから、息を飲む音が聞こえる。
「え、嘘だろ?」
「全然違うじゃないか」
「あんなに美人なのに……作り物だったってこと?」
ひそひそとした囁き声が、さざ波のように広がっていく。
それはすぐに、好奇心と蔑さげすみを含んだ視線となって私に突き刺さった。
「ちょっと、待ってよ!」
私は椅子を蹴る勢いで立ち上がった。全身の血が逆流するような感覚。怒りで指先が震える。
「サヤカ、何の冗談!? これ私じゃないわよ! 誰の写真を勝手に……!」
「往生際が悪いよ、ミオ」
サヤカは冷ややかな目で首を振る。
「ユウジくんにも隠してたんでしょ? 『私は天然美人です』って顔して、ずっと彼を騙してたんだよね。私、許せなくてさ。友達だからこそ、真実を暴くのが愛だと思ったの」
「ふざけないで! 事実無根よ!」
私は叫んだ。こんな馬鹿げた話があるか。すぐに否定しなければ。
私は助けを求めて、隣にいるユウジの腕を掴んだ。
「ユウジ、何か言ってよ! こんなの嘘だって、あなたが一番分かってるでしょ!?」
彼は私の顔を知っている。私の両親にも会っている。私が整形なんてしていないことくらい、彼なら笑い飛ばしてくれるはずだ。
そう信じていた。
しかし。
ユウジは私を見なかった。
彼はスクリーンに映った不細工な少女の写真と、私の顔を交互に見比べ、わざとらしいほど大きく目を見開いてみせたのだ。
「……ミオ、これ……本当なのか?」
時が止まった気がした。
ユウジの声は震えていた。ショックを受けた男の、悲痛な声。
だが、私の目は誤魔化せなかった。彼の口の端が、微かにピクリと引きつっているのを。
――演技だ。彼は今、「騙された悲劇の新郎」を演じている。
「は……? 何言ってるの、ユウジ」
「そういえば、ミオは昔のアルバムを見せてくれなかったよね……。あれは、こういうことだったのか……?」
「違う! アルバムなら実家にあるって言ったじゃない!」
「ごめん、僕……ちょっと混乱してて……」
ユウジは片手で顔を覆い、がっくりと項垂うなだれた。
その姿は、会場の誰から見ても「事実を知って絶望する夫」そのものだった。
「ひどい……」
「新郎がかわいそうだわ」
「やっぱり整形女だったのね」
会場の空気が、決定的に変わった。
疑惑は確信へと変わり、祝福の場は一瞬にして断罪の法廷へと変貌した。
味方はいない。誰も私の言葉を聞こうとしない。
スクリーンの中の知らない少女が、私をあざ笑うように見つめている。
私は立ち尽くしたまま、ただ呆然と周囲の敵意に晒されていた。




