第2話:親友代表スピーチ
橘サヤカは、昔から「場の中心」にいないと気が済まない女だった。
大学のサークルでも合コンでも、彼女は常に話題を独占し、大きな身振り手振りで周囲を笑わせていた。
自称ムードメーカー。悪く言えば、空気が読めない目立ちたがり屋。
そんな彼女が、マイクの前に立つ。
ピンクのドレスは、主役である私よりも派手に見えた。
彼女は一度大きく息を吸い込み、とろけるような甘い声を出した。
「えー、ただいまご紹介にあずかりました、新婦友人の橘サヤカです! ミオ、ユウジくん、結婚おめでとう!」
パチパチパチ、と会場から拍手が湧き起こる。
サヤカは満面の笑みでそれを浴び、手元の手紙を広げた。
「ミオとは大学一年生の時からの付き合いで、もう腐れ縁ってやつです。ミオってば、昔からクールで頭が良くて、私みたいなバカとは正反対でしょ? いつもノート取ってくれたり、テスト勉強手伝ってくれたり、本当にお姉ちゃんみたいな存在で……」
序盤は、ありきたりな内容だった。
私の世話焼きエピソードや、ユウジとの馴れ初めを微笑ましく語る。
会場の空気は温かい。
私も、少し緊張がほぐれてきた。
サヤカなりに、今日はちゃんと場を弁わきまえてくれているようだ。
(なんだ、心配して損した)
私はグラスを口に運び、冷たい水を一口飲んだ。
しかし。
サヤカの言葉が、ふと途切れた。
「……でもね」
声のトーンが急に低くなる。
まるで怪談話を始める前のような、妙に湿り気を帯びた声。
会場のざわめきが、波が引くようにスッと止む。
「私、今日ここに来るまで、すっごく迷ったの。本当にお祝いしていいのかなって。だって、友達だと思ってたのに、大事なことを隠されてたんだもん」
サヤカが手紙から顔を上げ、私を真っ直ぐに見た。
その目は笑っていない。
いや、口元だけが三日月のように吊り上がり、瞳の奥は冷たく光っている。
獲物を見つけた猛獣の目だ。
「え……?」
私の口から、間の抜けた声が漏れる。
隠し事? 何の話だ?
私はユウジの方を振り向いた。
「ねえユウジ、サヤカ何言ってるの……?」
助けを求めた私の目に映ったのは、奇妙な光景だった。
ユウジは下を向いて、小刻みに肩を震わせていたのだ。
泣いている? サヤカの言葉に感動して?
いや、違う。
彼は顔を伏せながら口元を手で覆い、必死に何かを堪えている。
それは悲しみではなく、こみ上げてくる「笑い」を殺しているように見えた。
「結婚ってさ、信頼関係が一番大事だよね? 嘘の上に成り立つ幸せなんて、砂上の楼閣……あ、難しい言葉使っちゃった」
サヤカは一度おどけて見せた後、スッと真顔に戻った。
会場の空気が凍りつく。
誰もが顔を見合わせ、何が起きているのか理解できずにいる。
私の心臓が、嫌な音を立てて早鐘を打ち始めた。背筋を冷たい汗が伝う。
サヤカがマイクを握り直し、会場全体に響き渡る声で言った。
「だから私、親友として、ここでハッキリさせておこうと思うの。悪い膿うみは、今のうちに出し切っておかないとね?」
彼女の視線が、私を射抜く。
そして彼女は、新郎新婦の背後にある巨大なスクリーンを指差した。
「みんな、これを見てください」




