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第10話(最終話):幸せの再定義



季節が二つほど巡り、街路樹の緑が鮮やかになった頃。

 私は、都内のホテルのラウンジで、大学時代の別の友人たちとアフタヌーンティーを楽しんでいた。


「乾杯!」


クリスタルのグラスが触れ合い、澄んだ音が響く。

 目の前には色とりどりのケーキやスコーン。優雅な午後。


数ヶ月前、怒号と悲鳴が飛び交う修羅場にいたことが、まるで前世の記憶のように遠く感じる。


「それにしても、ミオってば本当に綺麗になったよね。何か憑き物が落ちたみたい」


友人の一人が、紅茶を飲みながら言った。私は苦笑いしながら頷く。


「まあね。実際に『巨大な生ゴミ』を断捨離したから」


テーブルがドッと湧く。


私の「破談騒動」は、友人たちの間でもすでに鉄板ネタとして消化されていた。

 悲劇も、時が経てば喜劇になる。もっとも、当事者である彼らにとっては、まだ終わらない悲劇かもしれないけれど。


風の噂で聞いた話だ。


ユウジは結局、会社に居づらくなって自主退職したらしい。

 今は派遣社員として働きながら、借金返済に追われているそうだ。「ミオともう一度話したい」と、共通の知人を通じて連絡が来そうになったが、私が「次は弁護士を通します」と伝言したら、二度と来なくなった。


義母のトモエは、親戚中から「恥さらし」と絶縁され、今は小さくなって暮らしているという。


サヤカは……実家に連れ戻されたと聞いたけれど、その後はどうなったか知らない。興味もない。


「でもさ、怖くない? また恋愛するの」


心配そうに友人が尋ねてくる。


「あんな目に遭ったら、人間不信になりそうだけど」


私はフォークでショートケーキの苺を刺した。


確かに、傷つかなかったと言えば嘘になる。

 人を信じることのコストとリスク。それを嫌というほど学んだ。


でも。


「そうね……。でも、高い授業料を払ったと思えば、安いものよ」


私は苺を口に運び、甘酸っぱさを噛み締めた。


実際の「授業料(キャンセル料)」を払ったのは彼らだが、私は「時間」と「情」というコストを支払った。

 その対価として、私は「自分を大切にしない人間を切り捨てる勇気」を手に入れたのだ。


「次はもっと慎重に選ぶわ。私の人生を『ネタ』にしない、まともな感性の人をね」


「だねー。次は絶対、穏やかで普通の結婚式がいいよ」


友人の言葉に、私はふと悪戯心を起こした。

 ティーカップを置き、わざとらしく口角を上げてみせる。


「どうかなあ。次は私が仕掛ける番かもしれないし?」


「え?」


友人たちの動きが止まる。


「新郎が入場してきたら、落とし穴に落とすとか。誓いのキスの瞬間にパイを投げつけるとか。『愛を確かめるために』ね?」


私の瞳の奥が笑っていないことに気づいたのか、友人たちの顔がサッと青ざめた。


「み、ミオちゃん……? 冗談だよね?」

「目がマジなんだけど……」


沈黙が落ちる。


私は数秒間その空気を楽しんでから、ふっと吹き出した。


「冗談よ。ドッキリ大成功」


「もう! 心臓に悪いわよ!」

「全然笑えないから!」


友人たちが安堵して文句を言う。


私は声を上げて笑った。

 あの日、誰も笑わなかった会場で、一人取り残された私とはもう違う。


窓の外には、広くて明るい空が広がっていた。


結婚式というゴールテープは切損ねたけれど、人生というレースはまだ続いている。

 私は手帳を開き、新しい予定を書き込んだ。


そこにはもう、他人の機嫌を伺うための予定は一つもない。

 あるのは、私が私を幸せにするための計画だけだ。


もしまた誰かが、私の人生を土足で踏み荒らそうとしたら。

 その時は、笑顔で地獄へ案内してあげよう。今の私なら、それができる。


私は最後の一口の紅茶を飲み干し、席を立った。


「さ、行こうか。今日は私が奢るわ」


最高の気分だ。

 だって今日は、私の人生で一番、自由な日なのだから。


(了)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


理不尽なドッキリに巻き込まれながらも、きっちりと制裁を下し、新しい一歩を踏み出したミオの物語、いかがだったでしょうか?


少しでも「面白かった!」「スカッとした!」「ミオ、よくやった!」と思っていただけましたら、ページ下部にある【☆☆☆☆☆】をタップして評価していただけますと大変嬉しいです。(☆5つだと泣いて喜びます!)


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お付き合いいただき、ありがとうございました!

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