第1話:人生で一番幸せな日
本日より全10話、一挙公開いたします。
人生最高の晴れ舞台である結婚式。
しかし、そこは新郎と親友が仕掛けた「最悪のドッキリ会場」でした。
自分の人生をエンタメにされた主人公が、容赦のない制裁を下すまでの物語です。最後まで一気にお楽しみください!
「純白のウェディングドレスなんて、自己顕示欲の塊みたいで恥ずかしい」
かつて私は、冷めた顔で友人にそう言い放ったことがある。
結婚式なんてものは、一種の集団催眠だ。
数百万円という大金をたった数時間のイベントに費やし、愛だの永遠だのを誓い合って、周囲に「幸せですアピール」をする。
冷静に考えれば、コストパフォーマンスは最悪だし、リスク管理の面でも褒められたものではない。
……はずだった。
「ミオ、大丈夫? ドレス、苦しくない?」
隣で新郎のタキシードに身を包んだユウジが、小声で囁いてくる。
私はベールの下で、緩みそうになる口元を必死に引き締めた。
「平気よ。ユウジこそ、汗すごいけど」
「いやあ、なんか緊張しちゃってさ。あはは」
人の良さそうな、少し垂れた目尻。
大学時代から付き合って数年、彼のこの屈託のない笑顔にどれだけ救われたか分からない。
多少空気が読めないところはあるけれど、根は善人だ。
私の理屈っぽい性格も「ミオちゃんは頭がいいなあ」とニコニコ受け入れてくれる。
この人と一緒なら、きっと穏やかで退屈しない人生が送れる。
チャペルの高い天井。
ステンドグラスから差し込む、嘘みたいに完璧な陽光。
バージンロードを一歩ずつ進む父・タケルの、ガチガチに強張った腕の感触さえ、今は愛おしい。
(ああ、私、今すごく浮かれてる)
かつての自分が聞いたら鼻で笑うだろう。
でも、認めざるを得ない。脳内麻薬がドバドバ出ているのが自分でも分かる。
披露宴が始まってからも、その魔法は解けなかった。
普段なら欠伸あくびを噛み殺したくなるような、上司の長ったらしい乾杯の挨拶さえ、聖書の一節のようにありがたく聞こえる。
「……ミオちゃん、本当に綺麗だ」
高砂席に座ったユウジが、またニヤニヤしながら私を見た。
今日の彼は、なんだかいつも以上に落ち着きがない。
視線が泳いでいるというか、私を見たり、会場の後方をチラチラ気にしたりしている。
「ありがとう。ユウジもかっこいいわよ」
「そ、そうかな? へへ、これからもっと驚くと思うよ」
「え?」
「あ、いや! なんでもない!」
ユウジは慌ててシャンパングラスを煽った。
サプライズでも用意してくれているのだろうか。
彼はそういう、人を喜ばせようとする――たまに方向性がズレることもあるが――子供のような無邪気さを持っている。
視線を客席に向ける。
母・ユキは、ハンカチを目元に押し当てて泣いている。
父は相変わらず仏頂面で腕を組んでいるが、目尻は赤い。
新郎側の席では、義母のトモエさんが派手な留袖を着て、周囲の親戚に何かを熱心に話しているのが見えた。
少し声が大きいのが玉に瑕きずだが、息子を愛するがゆえだろう。今日は彼女の過干渉すら許せる気がする。
そして、友人席。
大学時代からの友人、橘サヤカと目が合った。
彼女は派手なピンクのドレスを身に纏い、私に向かって大きく手を振っている。
彼女は今日の友人代表スピーチを担当してくれる予定だ。
(こんなに多くの人に祝福されて、隣には最愛の人がいて)
私は手元のグラスをそっと握りしめた。
完璧だ。
私の人生設計において、今日は間違いなく最高到達点。
これ以上の幸せなんて、もう一生訪れないかもしれない。
「続いては、新婦のご友人、橘サヤカ様よりご祝辞を頂戴いたします」
司会のアナウンスが響く。
スポットライトがサヤカに当たる。
彼女は自信満々の笑みを浮かべ、マイクの前へと進み出た。
隣でユウジが、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた気がした。
私は微笑みを絶やさず、サヤカを見つめる。
まさかこの数分後、この幸せの絶頂から、地獄の底へと突き落とされることになるなんて。
この時の私は、1ミリたりとも想像していなかったのだ。
お読みいただきありがとうございます!
幸せの絶頂から一転、次話から一気に突き落とされます……!
果たして親友のサヤカは何を語り出すのか?
全話一挙公開しておりますので、ぜひこのまま第2話へお進みください!




