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今日から始まる学園女神との同棲生活

作者: ねこラシ
掲載日:2026/03/07

「……気まずい」


 放課後、夕日が傾き生徒が一人もいなくなった教室で新高校一年生の川上清隆(かわかみきよたか)はポツリと呟いた。

 窓際の隅っこ、主人公席と呼ばれる座席で彼は頬肘を付いていた。


 清隆は放課後の学校の校門が締められる直前まで教室に一人残っている。それは現実逃避という年頃の男子高校生には不相応の理由だ。

 今日も一人、そう思っていたところに現れたのが隣の席の女子生徒、篠宮雪乃(しのみやゆきの)であった。


 入学して早々、学年、いや学校中の男子生徒を射止めた美貌の持ち主。


 学園の女神様と呼ばれるほどの絶世の美少女である篠宮雪乃。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、彼女を表す言葉は無限にある。性格は穏便で誰に対しても優しい。勉強が分からないと言えば嫌な顔ひとつせず細かく分かりやすく伝える。例えそれが自分に擦り寄るためと分かっていても。モテないはずがない。


 女神様やら天使様、御神体やらと幾つもの高名を付けられている。


 たまたま同じクラス。たまたま隣の席。そんなことだから日々、清隆への憎悪やら羨望やらの視線が絶えないのだ。


 崇高な存在である彼女は現在、くぅ、くぅと小さな寝息を立てながら眠っている。

 腰まで伸びた薄桃色の髪が風に靡かれる度に一つ隣で物思いにふけっている清隆の鼻腔をくすぐる。


 そのほのかな甘い香りにつられ、隣を見る。名前の通り雪のように滑らかで白い肌が腕枕によってムニュっとなっている。触れば雲のように柔らかい肌であることは見るだけで分かる。


「まぁ、声を掛けなきゃいいだけか」


 普通の男子生徒であれば、あんなことやそんなことを考えてしまうだろう。ましてや相手は学園の美少女。寝ている隙に、とやましい事をするに違いないだろう。


 だが清隆にそれは無い。彼女に興味が無いからだ。それは恋愛対象としてということだ。もちろん清隆とて雪乃が可愛いのは百も承知だ。だが、彼女に群がる烏合共と同じになるつもりはない。


 三階の窓、そこから見えるのは夕日を反射した黄昏時の赤海。

 清隆は毎日ここで日々の疲れを癒していた。というのも勉強に嫌気が差し、現実逃避をしているだけなのだが……。


 そうこうしているうちに時計の長針は六時を刺しそうになっていた。

 校門が閉まるのは六時。もう学校を離れ、現実に戻る時間だ。


 机サイドに掛けてあったスクールバックを取り教室を離れようとした時、不意に後ろを振り返ってしまった。


「……興味ないって断言したけどさ」


 やれやれと言った感じで清隆はたじろいだ。興味が無いと言ったものの、ここで起こさなければ彼女は先生に怒られる。彼女が怒られる理由に間接的に自分が含まれてしまうということを思えば戻るしかなかったのだ。


 小さく、消えるような寝息を立てながら上下する雪乃に声をかけようとした清隆であったがどうしたら良いか分からなかった。


 なぜなら女子との接点がほとんどない清隆にとっていきなり学園の女神様はハードルがあまりにも高かったからだ。


 いきなり肩をポンポンと触りセクハラと言われても困るため清隆は声を掛ける選択を取った。


「おーい」


「……」


 どデカい声を出してやろうかとも思ったが生憎とそれは清隆の専門外で出来ない。

 このまま呼びかけても起きないだろうなと思い、名前を呼ぼうとしたが肝心の名前を忘れてしまった清隆。


「名前、名前……」


 机正面に名前札が付いていることを思い出した清隆は正面にかがみ込んで名札を確認する。


「篠宮雪乃か」


 うんうんと小刻みに頷き。彼女へと視線を移す。しかし、本当に整った顔だ。アニメのような少女が現実にいるのかと清隆は思う。


 寝ているだけで人形のような美しさが際立つ雪乃。透明感のある肌が、華奢で小柄な身体が上下した時――

 

「んぅ……」


 小さな呻き声を出しながら顔を上げる雪乃。少しうるっとした瞳とピンクを宿した頬を覗かせた。

 

「……っ!」


 目が合った。まずい。清隆は現在、雪乃の机の前にしゃがみ込んでいる。傍から見ればずっと観察していた変態だ。


「篠宮? もう閉門するらしい」


「ぁ、はい。ありがとうございます」


 まだ少しうるるっとした桃色の瞳を袖で拭いながら雪乃はフラフラと立ち上がった。

 役割を果たした、そう思った清隆は雪乃に背を向けた。のだが、


「グスッ……」


「?」


 背後から聞こえた鼻をすする音。涙をいっぱいに溜め込んでいた瞳を清隆は見逃さなかった。泣いていたなんてことは想像に容易いが相手は学園の女神様。順風満帆な生活を送っているはずの彼女が泣くことなんてあるのだろうか。


 が、そんなことは聞こえていないかのように清隆は歩き出す。

 その間も雪乃は小さく聞こえないように努めていたが音が漏れてしまっていた。


「はぁ」


 小さなため息とともに、清隆は誰もいない廊下を歩くのを辞めた。後ろを振り向き、華奢な体をゆっくりと動かす雪乃に声を掛ける。


「なんで泣いてるんだ」


「泣いて、ないです……」


 涙をハンカチで拭いながら彼女は清隆の意見を否定する。その発言には少しの警戒心が載っかっていた。当然といえばそうだろう。


 清隆は素っ気ない。普段自分から彼女に話しかける事は無い。彼女が話しかけても清隆は一言で済ませるのだ。二人のやり取りを見ている男子が清隆にどのような感情を募らせるかは言わずともしれている。


 そんな清隆が話しかけたのだ。互いのことを深く知らないため他の男子と同じような男だというレッテルを貼るかもしれない。


「彼氏と喧嘩でもしたのか?」


「彼氏なんていません」


 じゃあなんで、そう言いかけた時清隆はとあることを思い出した。清隆が一人で教室にいたのは現実逃避だ。それは勉強という『親からの強制』からの逃避も含まれている。


 もしかしたら雪乃もそう思ったのだ。


「親と何かあったか?」


「お気遣いはありがたいのですが貴方には関係ないので……。さようなら」


 やはり彼女に群がる烏合の男どもと同じように接点を作ろうとしていると思われたのか雪乃はそそくさとバッグを抱きしめて歩き去った。


 通り過ぎる瞬間、女神とは対照的な悲観的な暗い顔が清隆には見えた。

 先程と同様、清隆にも些かの良心はある。泣いている女子生徒を放って起きたいが、自分と同じ境遇の人間を見捨てるほど男は腐ってない。


 が、出来ることは少ない。慰めは耳に届かないだろう。ならば自分にできることは……。


「受け取れ」


「え?」


 雪乃の前に立ちはだかり、一粒のチョコを差し出す清隆に対しどうしてという顔をしている雪乃。だが次の瞬間にはその表情は消え、警戒心がMAXになる。


「いりません。他人のお節介になるつもりはないので」


「これが学園の女神様かよ。危ないものは入れてないし、必要ないなら捨てろ」


 拒否して歩こうとする雪乃の手を無理やり取り、清隆はポンとチョコを乗せ、そのまま何も言わずに立ち去った。


「……なんで分かったんですか」


 足速に立ち去る清隆の背中に向けて雪乃はポツリと呟いた。



※※※



「ありがとうございましたー」


 某コンビニの音色と店員の挨拶を耳に入れながら清隆はポリ袋を片手に夜道を歩き出した。購入したのはエナドリに今夜の夜食、丸揚げくんだ。そして、先程渡したことで底を尽きた個包装になったミルクチョコ。


 時間にして七時手前。何の連絡も無しにこんなことをしているため、親に怒られるのではと言いたいところだが清隆は一人暮らしだ。


 もっと広い世界を見て、自立しろと家から強制的に追い出されるという意味不な展開だった。そのため当たり前だが水道代や電気代諸々は親が払っている。定期的な仕送りもあるし、生活面において困ることはひとつも無い。


「何してんだ」


 暗い夜の公園。子供たちが去った場所に一人の美少女が暗がりに混じって一つの灯りの元、滑り台に座り込んでいた。桃色のロングヘアーに清隆と同じ学校の女子生徒のブレザー。篠宮雪乃だ。

 

 後ろ姿であるが故に何をしているのか不明だが、また泣いているのだろうと清隆は踏んだ。

 勉強しろと言うことを強制する以外は普通の家庭である川上家。


 困っている人は助けろと口酸っぱく教わった清隆は本日何度目か分からないため息をして歩み寄る。


「何やってんだ」


「……っ、貴方は」


「貴方はじゃないだろ。こんな暗がりに一人で襲われたいのか」


「貴方には関係ありません。心配してくださるのはありがたいのですが、先程も申し上げたように私は大丈夫ですので」


 ポリ袋を片手に持つ清隆に雪乃は冷たくあしらう。表情は先程と変わらず、無と警戒が混じったもの。元から綺麗な顔であるがため、そんな顔でも可愛いと普通なら思うのだろう。


「今日の買い足しだ。生憎と一人暮らしだからな」


「……そうですか」


 ほんの一瞬、雪乃が少し羨ましそうな輝きが瞳に宿った、と思ったがそうは無さそうだ。むず痒い。女子と話すことなんて滅多にない清隆は何を話して良いか分からず呆然と立ち尽くたままだった。


 だが、唯一の発見といえばやはり網膜が少し赤みを帯びていることだろう。袖は何か水分を含んでいるかのように湿り、頬には涙痕がある。


「お節介とか言うけどさ、女神様がなんで泣いてるんだ?」


「女神様と呼ぶのはやめてください」


「じゃあ篠宮でいいか? 早く帰れ、親が心配してるぞ」


「……そんなことないですよ」


 顔を逸らし、消えるような声量で雪乃は呟いた。フーっと大きく息を吸って吐く、という動作を数度繰り返す雪乃。桃色の瞳から涙が零れそうなのが薄暗い中でも視認できた。泣くことを堪えているのかその声は少し震えていた。


「家出でもしてるのか? 親と不仲なのか?」


「心配はご無用です。お節介になるつもりはないので」


「あのなー」


「こっちの身にもなってほしい。行く先々で泣いている人間がいるんだぞ。それに、時間が時間だ」


「だから泣いてなんか……」


「呼吸が深い、肩の力が抜けてる、瞼の腫れと充血した瞳。泣いたというこれ以上の証拠はないが」


「やっぱりジロジロと見ていたんですね」


 蔑みの眼差しを清隆に向ける雪乃。目を開ければ自身の前に屈んでジーッと見つめる男子がいればそのような考えになるのは当然のこと。


「誤解だな。名札を見ていただけで」


「そのようには見えませんでしたが……」


「ともかく、早く家に帰れ。さもないと攫われるぞ」


「攫ってくれた方がマシですよ(ボソッ)」


「マシ?」


「何でもないです。ご忠告ありがとうございます。もう帰りますね」


 そう言うと雪乃は立ち上がった。月光と街灯の光が彼女の薄紅色の髪を照らし、朗らかな香りだけがそこに置かれた。一人残された清隆はしばらく立ち尽くした後、


「なんで皆あんなのに群がるんだ?」


 クラスの男子が女神様に群がる理由を考えずにはいられなかった。これが二人の出会いなのだ。


 

※※※



「……」


 気まずいという言葉が出かけた清隆はグッとそれを堪えた。昨日と同じ時間で同じ場所。学校の三階にある一年生のクラス。

 女神様が所属していると言われる一組は階の端にある。


 皆が部活へ向かったり、遊びへ行ったりする中黄昏時の夕陽を浴びる二つの影があった。

 昨日とは違い、何か考えているかのようにむっすりとした表情を浮かべる雪乃。


 成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗というこの世の全てを兼ね備えた雪乃は普段誰にでも優しく接しているのだが放課後の時間、一人となると一変する。

 チラッとふいに隣が気になって見れば机に足を乗せ椅子でシーソーをする清隆が目に入った。


「お行儀が悪いですよ」


「別に良いだろ。誰もいないんだし自由にさせてくれ」


「ダメですね。人がいなくてもそういうことをしてはいけません」


「お前は先生か」


 小さなため息とともに仕方なく上げていた足を下ろし、頬杖をつく清隆。満足そうに頷くかと思いきや雪乃はまだムスッとしたままだ。


 昨日の世話焼きを怒っているのだろうか。だが、昨日までの雪乃との関係を考えれば少し話せるようになった気がした。

 

 場に居合わせるだけで可愛いと言われる雪乃。綺麗な二重の眉尻が上がり、桃色の瞳が少し閉じられ何かを睨むような眼差しになっていた。それをクラスの男子が見れば「女神様に睨まれたぁ!」といってキュン死でもするだろう。


 すると、彼女は少し不満げに清隆に言う。


「普段から貴方に言いたいことがあるんですが」


「なんだよ」


「愛想のある顔とか出来ないんですか」


「俺にはいらないが女神様にはいるんじゃないのか?」


「それとも、他の男子みたいに自分を可愛いって認めて欲しいってことか?」


「そういうところですよ。私がこう言っているのはあくまで隣の席だから、ですから」


 今日に限らず学校の授業でペアワークをすることは多い。話し合い、意見の交換。問題の教え合いなど授業中において隣席の人ほど接点があるのは周知の事実。


 女神様の隣となれば男子は少しでも距離を詰めようとしてくるに違いない。の、だが清隆は機械のような応対しかしないのだ。


 答えを見せる時は「ん」

 話し合いをする時は「いいんじゃない」

 発表をする時は「よろしく」

 教える時は「これ」といって自分が書いたものを見せる。


 こう来たらこう返すというアルゴリズムが確立されているのだ。


「じゃあ運が悪かったとでも思うしかないな。生憎と俺は女神様ーって崇めるつもりは無い」


「私もそうしていただけない方が楽なのでありがたいです。あと、女神様はやめてください」


 整った顔立ち故か少し不満を載せた表情もまた美しい。ここにいるが他の男子であったら間違いなく死んでいた。


「そういえば、昨日何してたんだ?」


「昨日? 公園のことですか?」


「年頃の高校生、しかも女神様。変な男に襲われるから早く帰れ」


「だから女神様はやめてください。大丈夫です。護身術は身につけているので」


 清隆が「どんなのだ?」と聞くと華奢な身体を使い、どう対応するのか示した。彼女は小悪魔的な笑みを浮かべ、手を前に出しゆっくりと何かを握り潰すように握る。


「急所突きです。一撃で再起不能にさせる自信はあります」


「こっわ。それが美少女のやることかよ」


 雪乃は決して冗談で言っていない。女子高生、しかも小柄な体格で手が小さいとはいえ握力は平均よりも上を行っている。そんな彼女が爪を食い込ませ、男の大事な部分を握るというのだから清隆の背筋にヒヤリとしたものが走った。


「で、何してたんだ?」


「仲良くもない貴方にどうして話さないといけないんですか?」


「愛想を大事にしろって誰か言ってたんだが、知らないか?」


「……現実逃避ですよ。これで良いですか?」


「じゃあ今ここに残ってる理由は?」


「詮索してどうするんですか?」


 その時ふわりと風が窓を突き抜け二人を靡いた。ふわりと彼女の髪が仰がれ、花のような香りが辺りをピンクに染めた。


 その香りに思考が鈍り、答えが出遅れたものの清隆は頭を掻きながら不満そうに言う。


「親の教育だ。困ってる人間は絶対に見捨てるなって」


「そういう観点だけみれば素晴らしいんですが、机に足を載せるのは些か礼儀を欠いてますね」


「ほっとけ。で、何があったんだ」


「貴方には関係――」


「せっかく人が聞いてやってるんだからそこは可愛くしとけば良いんだよ」


 少し荒々しげに清隆は言葉を放った。

 厚かましいと思われても清隆は下がらない。親の教訓と過去の出来事を少し思い出しながら彼はやっと雪乃の方へと顔を向けた。


 見れば彼女は薄紅色の瞳を大きく開き、呆気にとられていた。口元を緩めた口角とは対照に瞳は少し下を向いて悲しげな口調で話し出した。


「両親と少し喧嘩してるんです。内容は言えませんが、家を早く出て欲しいと毎日言われてるんです。ですが行き宛てが無くて、でも帰ったらいつもみたいに出て行けと言われてしまう。どうしたら良いか分からなくて……」


 雪乃の横顔は清隆目線では確認不可能だ。しかし、声の節々と体がピクピクと動いているのを見るに泣くのを堪えていることは間違いないだろう。


 清隆は一人暮らしだ。それは親から強制されたもので自分で選んだ訳でもない。まぁ叔母と叔父は強く反対したが……。


 幸運か偶然か清隆の家は2LDK。彼が使っているのは一部屋のみ。つまり空きがあるのだ。とは言ったもののほとんど接点のない、しかも男という条件がある中で学園の女神様と同棲生活するのは清隆の身が持たない(男子生徒からの視線が)。


「じゃあ家来いよ」


「は?」


 そのまさかの提案に呆れたような声が漏れた。雪乃の心に真っ赤な光が宿り、ストップをかける。同級生の家に、しかも男子だ。そんなもの彼女が受け入れるはずも無いのは清隆も承知している。


「空きが一つある。人ひとり住む分には不自由ない広さだ。オマケにベッドやタンスつき、アレンジも自由だし自分好みに飾れば良い」


「私がその提案に乗るとでも?」


「ですよね」


 清隆は大きなため息をついた。これでは埒が明かない。というよりも自分は何をしている。相手は学園の女神様、自分とは反対の存在である少女だ。


 話し合うことが出来ていることすら奇跡なのに、一緒に住もうなんて何を考えてる。興味がないと言っているだろう。これではまるで自分が雪乃のことを好きみたいではないか。


 パチンと乾いた音が教室内に響いた。その音源は清隆の頬だ。


「まぁ家出少女が嫌ならそれで良い。無理やり家に連れ込んだなんて言われても困るしな。それじゃあな」


 不意に視界に入ったアナログ時計の長針は既に六を刺しかけている。清隆はバッグを拾い上げると、俯いて何も言わない状態の雪乃の後ろを歩いた。


 教室の敷居を跨ごうとした直後、ザッと雪乃が立ち上がった。気にせず清隆が歩き出そうとした時、


「……のります」


「うん?」


「その提案に載らせていただきます」


「は?」


 先程とは真逆に清隆から拍子抜けな声が出た。提案に載る、それはつまり、つまりだ。


「私、貴方の家に引っ越しますっ!」


 頬に朱を含ませ、両手をギュッと握りしめた雪乃がそのように宣言した。これには普段表情筋を使うことが少ない清隆も大きく口を開けたままだった。なんとマヌケな表情だろうか。


「本気か?」


「はい、本気です」


「……分かった。じゃあ今すぐ、と思ったが荷物とかの準備があるか。とりあえず今日までは我慢しろ」


「うう……はい」


「あと、これだけは言っておく。俺はあんたの寝込みを襲ったりしないからな。そもそも部屋に入るなんてことはしない。俺が変態でないことだけ覚えておいてくれ」


「は、はい」


 清隆の非変態宣言に雪乃は少したじろいでいた。一人残った教室で雪乃はボツリと誰にも聞こえないように、小さく、小さく呟いた。


「乗っちゃった……」




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