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第三話 スローライフの適任者

辺境の村は、今日も穏やかだった。


澄んだ空気、ゆったりと流れる時間。

夕方には自給自足の食卓を囲む。


「戦いに明け暮れる日々はもう終わりだ」

元冒険者の男はそう言って、静かな暮らしを選んだ。


魔物討伐もない。

命の危険もない。

あるのは土の匂いと、素朴な笑顔だけ。


村人たちは男を温かく迎え入れ、

「ここでは何も心配しなくていい」と口々に言った。


男もまた、穏やかに笑う。


――これが、自分の望んだ人生だ。


誰にも縛られず、誰も傷つけず、

ただ静かに、生きていく。


今日も村は平和で、

何事も起きない――はずだった。






今日、俺は珍しく徒歩で現場に向かっている。

トオルも一緒だ。


「先輩、自転車じゃないの珍しいですね」

「誰が好き好んでこんな山ばっかりのところに自転車で行くんだよ」


当たり前だが、傾斜がきついところでは自転車は使いにくい。


そんな山奥の僻地にわざわざ赴いてるのは

歴戦の冒険者が、早期リタイヤして住み着いているというからだ。


俺達は早速その村に入り、地図を広げながら彼の家を目指す。


「なんか……村の人たちの目線が鋭くないっすか先輩」

「大方、なんで俺達が来てるのか察してるからだろ。どうでもいい」


一応いつもの制服ではなく、私服で来ているが

それでも田舎ではよそ者というだけで目立つ。


俺は目的地の家につくとガンガンとドアをノックした。


「どなた……ですか?」

「中央から来ました。国王陛下直々の招聘です。

 その伝達のために来ました」


しかし中からの返事がない。

1テンポおいてから回答が来た。


「誠に申し訳ございません、今は病の身でして……」


既に調査で彼は健康だとわかっている。嘘だ。

トオルは食い下がって言った。


「あのーでは、お顔だけでもお見せいただけませんでしょうか?」

「すみません」


あくまでも拒否だった。俺は苛ついてきた。


「わかった、あんたにもう用はない。

 代わりに、条件を満たしそうな若者を数名連れて行く」


そう言って俺はドアを離れた瞬間、勢いよくドアは、開かれた。


「あ、あんた、村人たちは関係ないだろ?!」


はぁ……これだからこの仕事は嫌なんだよ。


「それこそ一番わかってるだろ、誰かが務めを果たさなければ

 代わりに他の人間がそれをするだけ、ただそれだけのことだ」


一瞬の静寂。

そして男は答えた。


「わかりました。招聘に応じます。ですから村人は……」

「はなからそのつもりはない。あんたは応じると思ってたからな。

 今すぐじゃなくていい、『すべての準備』ができたら中央に出向いてくれ」




帰り際、俺とトオルは村人たちに鋭い目つきで睨まれていた。


ドッ!


俺の胸に拳サイズの石ころがぶつけられた。

「先輩、大丈夫ですか!」


「出てけ! お前たちなんかが来るからおじさんは!」


如何にも生意気そうなガキが俺に石を投げつけたらしい。

更に持ってる石を投げてくるつもりらしい。


俺はそのガキンチョを怒鳴った。


「黙れクソガキ、お前が強ければお前でもいい。

 なんなら大人で代わりに使えそうなやつがいるなら

 そいつが代わってもいいぞ」


俺の言葉にガキは周囲の大人たちを眺めるが

大人たちは顔を伏せるばかりだった。






帰り際にトオルは言った。

「先輩、僕達の仕事って、ほんとに嫌なことばっかですね」

「お前なにいってんの? 楽な仕事なんてねーんだよ」


トオルは俺より若い分、腐ってない。


「だけど先輩が同じ立場だったらどうしてましたか?」

「俺もあいつと同じだったよ」

「え……」


世の中はそうそう上手くいかないものだ。


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