第二話 無双はお片付けまでが無双です
街は今、最大の危機に瀕していた。
「誰か! 助けてくれ!」
叫び声が飛び交う中、1人の冒険者が静かに前へ出る。
「下がっていろ!」
その言葉と同時に、握りしめる杖には強大なマナがみなぎり
大気を歪めるほどの強力な波動。
放たれたのは極大魔法――ドラゴンブレス。
灼熱の奔流が魔物たちを丸ごと呑み込み
断末魔の声すら上げる前に消し炭になる。
やがて炎が消えると、そこにはもはや敵の姿はなかった。
「……終わったな」
冒険者はそう言い残し、人々の歓喜の声を背に街を去っていった。
今日も俺は自転車で現場までやってきた。
だが自転車を漕ぐ俺の足取りは重い。
トオルからの報告で何が起きたかを先に聞いていたからだ。
俺は精一杯ゆっくり現場に向かったが、とうとう着いてしまった。
「先輩、今日も遅刻ですよ、いい加減にしてください!」
相変わらず生真面目な男だ。
俺がサボった分を黙ってても勝手にやってくれる優秀な男だが
まるで姑のように小言が多いのがネックだ。
「お前、ドラゴンブレスを使った現場なんて早く来るわけ無いだろうが!」
極大魔法、ドラゴンブレス。
名前の通り、まるでドラゴンが火を吹くような広範囲を焼き尽くす
「被害が大きいってわかってるからこそ、私たち憲兵が率先して……」
「あーあー聞こえないー、そういうのはいいって」
そういいつつも俺はトオルの顔も見ないで手を伸ばした。
トオルは黙って書類を渡してきた。
「はぁ……やっぱり使用許可申請はなしか」
「まぁ今回は緊急事態ですし、仕方ないですよ」
「仕方なくはない! 俺達の仕事が増えるだろうが!」
治療費から始まって建物の保証申請受理、後片付け。
やることはてんこ盛りだ。
「そんなこと言ったって、街の人達が魔物に襲われて死者がでたほうが
もっと大変じゃないですか」
それはご尤もだが、結局ドラゴンブレスでやけどした住人や
消し炭になった数多の建物のことを考えると
我々の仕事はただ魔物に襲われたときよりも多い。
「で、その冒険者『様』はどこにいるんだ?」
「街を出ていったのを慌てて追いかけて呼び戻しました。
事情を説明して、今は宿屋に滞在してもらってます」
正直この瞬間が一番嫌なんだ。
「あー、いつもの感じか?」
「残念ながら……」
俺はため息をついた。
「街の人達を守るために必要なことだったんだ! 何が悪いんだ!」
これだから嫌なんだよこの手の仕事は……。
俺は書類に供述をメモしつつ言った。
「悪いも何も規則違反だ。 使用許可が必要な魔法だ」
すると冒険者は如何にも俺達を見下した顔つきで言った。
「ふん、これだからお前たちはお役所仕事だって言われるんだ。
そうやって書類だけ回してればいい、楽な仕事だよな!」
……この若造が。いっぺんわからせたろうか。
「まぁまぁ、冒険者様。我々としても今回のことが緊急性を要したことは
理解しておりまして、事後処理として申請書類を提出していただければ
それで……」
しかしこの若い冒険者は頑なにそれを拒否した。
「ふざけるなよ、申請のために一度3つも離れた街に戻って書類申請だけで
何日もかかる。どれだけ金がかかると思ってるんだ!
お前たちがそのお金を出してくれるのかよ!」
「いやー、それはちょっと……」
俺はトオルの肩を軽く叩いて、変われと合図した。
トオルは黙って後ろに下がった。
「いいか、そもそも申請は義務だ、お前の不備を棚に上げるな」
俺は極力冷静に話した。
「なら申請にはそのうち行く。だが通りかかった時にする。
それでいいだろ?」
……。
「ならお前を拘束する。法律違反者だからな。せいぜい罰金をとられるか
牢屋にぶち込まれてるがいい」
冒険者は激昂した。
「ふざけるなよ! 私がした行いが間違いだったっていうのか!
この街の人々が犠牲になってたらお前は責任を取れるのか!」
「ほう……責任といったな、じゃあお前は責任を取れるんだな?」
「責任だと? 私になんの責任があるというんだ」
「着いてくればわかる」
俺は強引に冒険者の胸ぐらを掴むと引きずるように宿屋から運び出すことにした
「はぁ……はぁ……なんで私が一体こんな事を……」
「お前がやったことだろう……が!」
俺達は町中の崩壊した建物の瓦礫の処理をしていた。
その処理を冒険者にも手伝いをさせることにしたのだ。
「先輩……こんなことしたらまた怒られますよ?」
そういいながらもトオルはせっせと働いている。
俺はめんどくさくなって休憩に入った。
「おい、お前! 私にこんなことさせておいて、何自分は休んでるんだ!」
俺はそれを無視した。
そこに街の住人っぽい老婆が冒険者に向かって歩いてきた。
「冒険者様、この度は街を救っていただいた上に、
復興まで手伝っていただいて本当にありがとうございました」
「え……ええ、これも力あるものの務めですから……ははは」
「それに比べてあの役人ときたら、ろくに働きもしないでぐーたらと……」
老婆もといババアは俺をみて睨んでいたが俺は気にせず休憩してた。
後日、俺はこの事がバレて減俸処分となった。




