第8話 メドウ
「んー、やっと着いた〜」町についてすぐ、アンナさんは馬車を降りて大きく伸びをした。
「やっぱりずっと座ってるのもしんどいなぁ。ね?」
「そうですね、ちょっと休憩したいです」ティナさんがアンナさんに続き、沙耶姫とぼくも馬車を降りる。なんだか久しぶりに地に足をつけたからか、大地のエネルギーが体に入ってくるような気がする。
メドウの町は、王都へ行く途中の宿場町の役割があるらしく、いつも行商人たちで賑わっているそうだ。今日も多分に漏れず。
「では、宿に荷物を置いて、腹ごしらえしながら魔道具屋の場所を聞こう。そこの店主に用がある」
みんなで定食屋に入り、テーブルに着く。店内は混んでいて、お客さんの話し声、店員さんの注文を取る声、厨房からの大きな声に、フライパンがカンカンする音。いろんな音が、お腹の声を隠してくれる。料理の匂い、店内に染み込んだ油の匂いに、ぼくは唾を飲み込む。
席に着いた沙耶姫の様子がおかしい。どうしたのだろうか。周りをキョロキョロして、まるで子どもみたいだ。
「沙耶姫、どうかしましたか?」ぼくは恐る恐る尋ねる。
「うさみん、察してよ〜。お姫様ですからね、こういう大衆的なお店に入ることはないわけよ」
「なるほど」確かに王族がここにいるのは、言われてみれば違和感だ。
「沙耶姫様の好奇心が溢れ出ている感じ、素敵です」沙耶姫教の信徒がいる。
「いろいろなメニューがあるのだな。素晴らしい」壁に貼られた手書きのメニューたちを眺め、目が輝いている。こんな一面があるとは。こうして見ていると、ティナさんの言葉に共感する。
沙耶姫は、あれもこれもとたくさん注文し、本当に食べられるのか心配になったが、楽しそうで止められなかった。
「あ、そうだ。この町に魔道具屋があると聞いたのだが、場所を教えてもらえないだろうか」注文を終えた沙耶姫が、思い出したようにおばちゃんに尋ねる。
「あー、魔道具と言ったらツァウバーさんとこだ。昔からやっていてね、国王とも面識があるらしいよ。町外れの丘の麓にあるわよ」
「ありがとうございます」ぼくたちもお辞儀し礼を伝える。
「簡単に見つかりそうだね〜」
「そうですね、よかったです」アンナさんとティナさんは顔を見合わせ、ほっとした表情だ。
「うわぁ、すごいな。皆、好きなだけ食べてくれ」テーブルを隙間なく埋める……なんならちょっとハミ出している料理を目の前に、両手いっぱい広げる沙耶姫。……いや、こんなに食べれないって……。
「あの、沙耶姫もう少しゆっくり食べた方が……」すごい勢いで口に運んでいて、ちょっと怖い。
「温かいうちに食べた方が美味しいぞ。拳、成長期なのだから、たくさん食べてくれよ」
「は、はい……」
それからすぐ、沙耶姫のペースは急激に落ちた。100mの走りをマラソン大会のスタートでかましてきたみたいに。沙耶姫、なんでですか……。
アンナさんとティナさんは、どうだろう。
……自分のペースで食べているようだ。だけど、この感じは、そんなに減らなそうだ。となると、分かっちゃいたけど、やるしかない。
「ほらー、うさみん、ちゃんと歩いてよ〜」
「若いのだから頑張れ、拳」
優しさは、ないのか。あんなに食べたのに。頼んでおいて残すのは良くないから、雑用係だから、頑張ったのに……。2人の言葉とティナさんの汚物を見るような目も相まって、鍛錬よりもキツい……。
やあやあ言われながら、なんとか魔道具屋に着いた。が……。
「開いてませんね。沙耶姫様が訪ねてきたというのに」
ドンドン!
「ごめんくださーい!」アンナさんはドアを叩き大声で呼びかけた。
「……もうじき日も暮れる。また明日来よう」
「そうですね。そうしましょ」アンナさんは沙耶姫に同意し、みんなで宿へ戻る。魔道具屋の先は丘に続いていて、丘の上から見る景色は気持ちいいだろうなと、眺める。ん? 丘の上に小さく影が見える。立ち止まり目を凝らす。
「拳、行くぞ」
「あ、はい」ぼくは振り返り、小走りで皆の元へ。
宿に戻り、布団に横になると、そのまま眠ってしまったようで、起きたら、ちょうど太陽が昇るところだった。部屋が空いてなかったたのと、ぼくのことを気にするのはティナさんだけなのとで、4人1部屋だ。女子と同じ部屋で寝るなんて……と思っていたが一番に寝てしまったようだ。良いんだか悪いんだか……。
寝ている3人を見ると、浴衣が少しはだけていて、心臓がドッキンドッキン早鳴る。急いで着替えて外に出る。食べ過ぎてよかったかもな。じゃなきゃ眠れなかったかも。
初めての町の、朝の空気。ぼくは大きく伸びをして、息を吸う。町の周囲に広がる草原の、緑の匂いが鼻腔をくすぐる。すると口角が引っ張られ、心が跳ねる。
その場で軽く準備運動をして、走り出す。朝のロードワークは気持ちよくて好きだ。昨日通っていない道を選んで町の中を縫っていく。昨日も思ったが、知らない土地を歩くのって面白い。実家から出たことがなかったから、知らなかった。これからたくさんの初めてが待っているかと思うと、胸が高鳴る。
まだ眠っている町の中を、風を切って走りながら、地面の硬さを足の裏に感じる。鳥の声が聞こえると、町が目を覚ます匂いがした。
気持ちよく走って宿に戻ってきた。併設された厩に足を運ぶ。
「おはよう、大王。昨日は疲れたでしょう。よく眠れたかい?」ぼくたちを運んで、一番ハードだったはずだ。でも、幼い沙耶姫が付けた名前に恥じない貫禄だ。その名を聞いたときはセンスを疑ったが、早くもしっくりきていて驚いている。
「拳、大王、おはよう」振り返ると沙耶姫がいる。
「あ、沙耶姫、おはようございます」
「よく眠れたようでよかったな」
「は、はい。片付けなどもせず寝てしまい、すみませんでした」皮肉っぽさは微塵もなかったが、たじろいでしまった。
「いや、まあ、私が食べさせ過ぎたのもあるからな。こちらこそ、すまなかったな。ついつい楽しくてたくさん注文してしまった」あ、沙耶姫わかってたのか、ならよかった。じゃあもう……。
「はは。旅は楽しまなきゃですもんね」
「そうだな。うむ、今日も楽しもう。まずは朝ご飯だな、食べたら魔道具屋に行こう」
「はい!」今日は開いているだろうか。
「大王はもう少しゆっくりして、充電満タンにしておいてくれ」厩を後にし宿に戻る。お腹空いたな。けど、腹八分目くらいにしたいや。できるかなぁ。お願いします。少し前を歩く沙耶姫に、心の中で願いを込める。
次回、『第9話 歌に乗せて』
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