第6話 旅立ち
「母さん、ちょっと話があるんだけど、いい?」ダイニングテーブルで本を読んでいる母さんの向いに座り、話しかける。
「うん、なあに?」母さんが本を置いてこちらを見る。悲しげな、でも誇らしげな、そんな顔だ。全部知ってるんだ……。そう感じたら、言葉がどこかへ行ってしまった。でも、母さんは、ぼくが話すのを静かに待っている。
「あの、シックスパックラビットって知ってる?」心臓をバクバクさせながら聞く。
「そりゃ、知ってるわよ。あなたでしょ?」
本当に知ってた……。そんな素振りも微塵も見せなかったはずなのに、どうして。
「でも、なんで? なんで知ってるの?」やっとの思いで口にする。
「ふー。あなたねぇ、私を誰だと思ってるの? 私は、あなたの母親よ。気づくに決まってるでしょ。ずっと心配してたんだからね……。でも、前より何だか明るくなったし、やっぱりお父さんの血を引いてるんだなって思ったら、止められなかった……」
「そうだったんだ……」母親恐るべし。そして、ずっと心配をかけていたとは、申し訳ない。いまから、もっと心配させることを言うってのに……。
「心配かけて、ごめん。……実はさ、沙耶姫様から直々に、デーモン討伐の旅に誘われたんだ。ぼくの力が役に立つなら、そのために使いたいし、ぼく自身、自分の力を試したい。もっと強くなりたい。みんなを守りたい。成長したい。これは大きなチャンスだから、一緒に行こうと思うんだ。ますます心配かけちゃうけど、ぼく頑張るから」言葉に、声に、想いを込めて、正直にぶつける。
「……そう。うん、こうなると思ってたけど、いざ言われると……。親としてはね、どうしたって心配よ。デーモンなんて、人間が束になっても勝てるかわからないじゃない。行かないでほしいって思いもあるよ……。でも、お父さんが願った平和な世界を実現するために、あなたが自らの意志で行動すること、誇らしく思う。必ず生きて帰ってくるのよ。死んだら許さないからね」
「うん、ありがとう。はは、死んだら許さないって、じいちゃんと同じこと言ってる」目を潤ませながら、笑みが溢れる。
「あら、これはもう、宇佐美家の呪いね」母さんは目に溜まった涙を拭いながら笑う。席を立ち、何やら持って戻ってきた。
「拳、手を出して。あなたにこれを渡しておくわ」差し出したぼくの手の平に、指輪が置かれる。
「この指輪はね、お父さんの形見なの。昔からずっとつけていてね。魔力のコントロールがしやすくなるんだって。きっと、あなたを守ってくれるから、連れて行って」
「うん、大切にする」右手の人差し指にはめる。金属なのに、とても温かく感じる。
城の前には、すでに沙耶姫たちが集まっていた。
「じゃあ、行ってくるよ」母さんとじいちゃんを交互に見る。
「あぁ、またな、拳」
「いってらっしゃい、拳」
ぼくは頷き、仲間の元へ向かう。
「来たな、拳。これで全員揃ったな」
「沙耶姫様、彼は何者ですか?」肩にかからないくらいの黒髪にメガネをかけた小柄な女子だ。ぼくより年下だろうか。
「あぁ、彼は宇佐美拳、シッ……」沙耶姫は自分の口から出かけた言葉を直ちに飲み込み、「シッ、しー、仕事のできる荷物持ち、雑用係だ」危ない危ない上手く乗り切った……って顔をしているが、ぼくの身体からは、コントロールできない大量の汗が流れた。
「う、宇佐美拳です。何でもします! よろしくお願いします!」ペコリとお辞儀する。
「雑用係、要りますか?」メガネの女の子は、ジトッと睨むように一瞥し、沙耶姫に意見した。
「長い旅になるからな、戦闘員だけでは厳しくなるだろう。拳、頼りにしているぞ」
「はいっ!」
「沙耶姫様のお気に入りってことですか」あからさまに嫌そうで、どうしていいか困ってしまう。
「まあまあ、ティナ、仲良くしようよ! 沙耶姫の言う通り長旅なんだから、ギスギスしてたらやってけないよ!」メガネのティナと呼ばれた彼女に笑顔で声をかける。2つの茶色いお団子を耳の下で纏めた彼女は、少し歳上だろう。身体にフィットした丈の短い服で、目のやりどころに困ってしまう。
「そういうことだ。皆、良い旅にしよう。出発だ!」沙耶姫の号令で馬車に乗り込み、王都を出る。
次回、『馬車に揺られて』
パーティーメンバーの紹介回です! お楽しみに!
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