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シックスパックラビット ―腹筋バキバキ、ウサギマスクの武が魔を挫く―  作者: よよ


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第5話 決意

煌大(こうた)、今日も放課後は軍の訓練?」

「あぁ、そうだ。早く、もっと、強くならないと」火宮くんが、広げた自分の右手を見つめながら言っているのを、ぼくは後ろの席から見ている。

「シックスパックラビットも沙耶姫も、めちゃくちゃ強かったもんなぁ。でも煌大だって、活躍してたじゃん」

「そうだよ、学生で煌大レベルはそういないって」

「いや、いまのままじゃダメだと痛感させられた……。この間の一件で、軍の訓練に参加させてもらえることになったのは、チャンスなんだ。おれは強くなる。シックスパックラビットにも負けないくらいに」拳を握り、自分に言い聞かせるように言う火宮くんを見て、ぼくの心が揺さぶられる。あの火宮くんが、シックスパックラビットを1つの目標にしている……。あの火宮くんが、ぼくを認めている……。揺れていた心が静止し、そこに火が灯る。ぼくも、火宮くんに負けたくない。いつの間にか胸に刺さった黒い棘は消えていた。

 

 明日は、沙耶姫との約束の日だ。母さんに、なんて言おう……。

 台所で洗い物をしている母さんに話しかける。

「母さん……あのさ、もしだけど、もし、ぼくが旅に出たいって言ったら、どうする?」

「……あなたにとって、それが必要なことなら、応援するわよ」こちらを振り返ることなく、さも当然のように言う。

「そ、そっか。うん、変なこと聞いてごめん。おやすみ」よかった、安心した。

「おやすみ」ぼくが自分の部屋に入るまで、背中に視線を感じた。


 学校が終わり、すぐに道場に向かう。

「おう、拳、早かったな。まだ沙耶姫は来てないよ」

「うん、そうみたいだね。待たせるわけに行かないと思って、ダッシュで来たよ」

「決めたのか」じいちゃんは、ぼくの心の内を覗くように目を見ている。

「うん、決めたよ」じいちゃんの目を真っ直ぐ見て言う。

 

 ――空気が変わった。沙耶姫が一礼し、道場に入ってきた。

「これはこれは沙耶姫様。お目にかかれて光栄です」じいちゃんが深々と礼をする。

「そなたは、宇佐美剛だな。『武匠』のスキル……拳の良い師なのだろう」

「はっ。率直に申し上げて、拳は私や息子をも超える才能を持っています。必ずやデーモン討伐のお役に立つことでしょう」

「そなたも拳の父も、軍での活躍は王から聞いている」

「左様でございましたか。いやはや、懐かしい思い出です」

 沙耶姫がぼくの方を向き、視線がぶつかる。

「拳よ、マスクをせずに会うのは初めてだな……。答えを聞こうか」

 

 鼓動が速まる。「はい……。沙耶姫様、ぼくをお供させてください。お願いします!」勢いよく頭を下げる。

「その返事を待っていた。よろしく頼む」沙耶姫は、最初からこうなることをわかっていたかのような、全てを見透かしたような微笑を湛え、ぼくを見ている。

「あ、あのぉ、ただ、1つお願いがありまして……」とても言いづらく、目が見れない。

 

「なんだ? 言ってみよ」これは予想してないよなぁ。

「その、どうしても、ぼくとシックスパックラビットが同一人物とバレるのに抵抗がありまして……。かと言って、ずっとマスクを被っているわけにもいかないので、例えば、荷物持ちとして同行させていただいて、敵が現れた時に変身して出てくる……なんてダメでしょうか」沙耶姫の胸の辺りを見ながら言う。顔は見れない。断られたらどうしよう。その不安で息が苦しい。

 

「……しかし、共に旅をするのだ。すぐにバレるぞ?」怪訝そうな顔だ。当然だよな。

「はい、ぼくもそう思うのですが、バレたら、その時はもう仕方ないと割り切れる気がして……」

「そうか、来てくれると言うなら、それで構わん」

「あ、ありがとうございます!」とりあえず第一関門突破といったところか。

 

「うむ。1週間後に出発する。それまでに諸々準備しておいてくれ。デーモン討伐まで帰ってくることはないと思っておいた方がいい」沙耶姫の綺麗な目は真剣だ。

「……はい」心臓がトクンとした。わかっていたけど、じいちゃんとも母さんとも会えなくなる。それが急に現実味を帯びる。


 沙耶姫が帰った後、じいちゃんといろいろ話した。じいちゃんの若い頃のこと、父さんの子供の頃のこと、軍にいた時のこと、父さんが死んだ時のこと。武道、武術、格闘技のこと、魔法のこと、スキルのこと。ちゃんと聞くのは初めての話もたくさんあって、充実した時間を過ごせた。

 

「ところで、あのウサギマスクはどこで手に入れたの?」

「あれは、昔の仲間に作ってもらったんだ。お前は赤ん坊の頃から、人見知りのシャイボーイだったし、物心ついた時から魔法とスキルのことで、いろいろ言われていたからな。」

「そうだったんだ……。お守りって言って渡された時は、どうしたものかと思ったけどね」笑いながら、ぼくは言う。

「ははは。確かにそうだよな。お守りでウサギマスクってな。でも、あれは大事にしろよ、特製のマジックアイテムなんだからな」

 

「えっ!? マジックアイテム!? ただのマスクじゃなかったの!?」マジックアイテムを作成できる人は多くなく、とても貴重な物だ。じいちゃんの昔の仲間……。ぼくの知らない交友関係がまだまだたくさんあるのだろう。人に歴史ありだな。

「あぁ、お前専用のな。あのマスクは、精神を安定させ、感覚を研ぎ澄ます効果があるんだ。だから、ピンチの時のお守りとして渡したんだよ」

「そっかぁ。でもそのお守りが、ぼくの人生を変える程の影響をもたらすとは思わなかったな」こんなに人生が急展開を迎えるとは、全く思ってもみなかった。

「まあそうだな。旅に出れば、本当にいろいろなことが起こるだろう。……仲間を信じること。パーティーでの戦闘で忘れてはならないことだ。そして、仲間も自分も生きていてこそだ。死んだら許さんからな」本気の目だ。強く優しい目……。父さんの目と一緒だ。

 

「うん、必ず生きて帰ってくるよ」

「あぁ、当たり前だ……。心配するに決まっているが、優さんにもしっかり伝えるんだぞ」

「うん、母さんとも今夜話すよ」母さんはどんな顔をするのだろう……。胸がキュッとなる。

次回、『旅立ち』

新キャラ登場で、ついに冒険の始まりです!


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