第4話 葛藤
学校での一件依頼、国の警備は強化された。それ自体は良いことだが、同時に魔物の出現も増えており、人々は不安を募らせている。そして、ぼくの出番も増えている。
この辺りは魔物の出現率が高く、最近もよく遭遇する。じいちゃんの道場からの帰り道、これからどうなっていくのかと、そんなことを思っていると……。
「た、助けてー!」大きなカゴを持った女性が、森から走ってきた。後ろから、オグルが追ってきている。
あれは、やばい。
サッと木の陰に隠れ、服を脱ぎリュックに入れ、マスクを取り出す。戦うたびに服が破けては困るので、最近は初めから脱ぐことにしている。そんなに服を買う余裕はないのだ。
マスクを被り、深呼吸をする。
「ふーっ。よしっ」
駆け出し、横から飛び蹴りを放つ。棍棒がぼくの蹴りを受け止めた。大きな身体に似合わず良い反応だが、棍棒は凹み、オグルは数歩後ずさる。
「落ち着いて逃げてください!」振り返らずに言う。
「は、はい、ありがとうございます」走り去っていく。
「ガッーー!」オグルが威嚇してくる。赤い身体に頭には角が2本、牙も鋭く筋骨隆々で大きな棍棒を持っている。
久々に骨のあるモンスターだ。いろいろ試せる。
オグルが棍棒を叩き下ろす。それを避けて、打つ。ジャブよりも早く、利き手で打つため威力も高い。
リードパンチ!
パンッ!
3メートルほどある巨体の足にヒットさせる。
怯ませることはできるが、リードパンチ一発ではそこまでダメージが入らないようだ。乾いた地面は足に力を入れやすいのだが……。
オグルが再び棍棒を構えるが、その挙動を見て、すぐさまリードパンチを繰り出す。足を打つことで動きを制限させる。モンスターの攻撃は強力だから、いかに攻撃を受けずに倒すかが重要で、一撃で倒すのが難しい相手には、リードパンチがやはり有効だ。そして、トドメはあれを使いたい。
またしてもオグルの動き出しを見てリードパンチを打つ。しかし、慣れてきたのか、今度は怯まず、棍棒を薙ぎ払うように振ってくる。ジャンプで躱すが、着地したところに口から火を吐いてきた。横に回転しながら避ける。魔法と武器のコンビネーション攻撃は厄介だ。隙が少ない。
だったら……。
オグルの視線と棍棒が被るように動く。ぼくの細かな動きにイライラしたのか、火を放ってくる。それを躱すと、棍棒の真正面に来た。オグルは最短距離で真っ直ぐ振り下ろしてくる。
だよね。
オグルが棍棒を振り切る前にジャンプし、棍棒を思いっきり蹴り上げる。棍棒は砕け、その勢いでオグルは仰け反った。
着地と同時に、右膝に三日月蹴りを入れる。
ボキッ!
膝が折れる音とともに、オグルの身体がガクッと前に傾く。膝と腕を曲げ、真っ直ぐ上に跳躍する。その勢いを拳に乗せて、下から顎を振り抜く。
兎昇拳!
バカンッ!!
前に傾いていたオグルの身体が、大きく後ろに仰け反り倒れ、霧散した。
決まった〜、自分で考えた技が決まるの気持ちいいな〜!
「さすがだな、安心して見ていられたぞ」後ろから話しかけられ、バッと振り返り身構える。
「さ、沙耶姫! な、なんで……」雷神の沙耶姫だ。兵を2人従えている。なぜこんなところに……。
「ふふっ、面白い反応だな。やはり、そなた強いな。その肉体が物語っている。強く清らかな魂は、強靭な肉体に宿るものだ」
「あ、ありがたきお言葉!」
「鍛錬はいつからやっている? 宇佐美拳」
「幼い頃からやっています。祖父の道場が近くにありまして……?」ん? 何か違和感が……。
「ん? え? あれ?」いまさっき、ぼくの名前を言ったのか? うそだろ、バレてる? え? いつ? なんで?
「やはりそうか、宇佐美拳、そなたがシックスパックラビットか」沙耶姫は笑って言う。
もう観念する他ない。「……は、はい。でも、どうしてわかったんですか?」
「国の者全員のスキルは王府で管理しているのは知っているな?」
「はい……」生後すぐ、魔力解放の儀式が行われ、全員が王府の教会でスキルを授かる。もちろん、ぼくも。
「強いスキルを持った者をこの目で見て、私の判断でスカウトしているのだ」
「は、はぁ……だとしたら、なぜぼくに?」物心ついた時から、雑魚スキルと馬鹿にされてきたのだ、これも笑えない冗談なのだろうか……。
「宇佐美拳、そなたのスキル『武神』は神を冠する最強格のスキルだ。だから、ぜひとも会ってみたかった」
「え? 最強格? ぼくのスキルが? そんなわけ……」でも、それが本当なら、皆から一目置かれる存在になれるのかもしれない。
「確かに放出系の魔法が主流だからな、それが得意な者が評価されやすい。だか、実戦においては、必ずしもそれで片付くわけではない。火竜との一戦でも実感しただろう。」
「……」
それは確かに思った。武の力と魔法、組み合わせることで、何倍にも強くなるのではないかと。
「シックスパックラビットなる者が、徒手格闘でモンスターを倒す噂を聞いてな、『武神』のスキルが真っ先に脳裏を過ったよ。あそこで会えるとは思っていなかったが、宇佐美拳の年齢と学校にいたことも繋がったからな。道場に顔を出そうかと向かうところだったのだ」
「……」
何も言えず黙り込む。
「そなたの力、平和のために貸してくれぬか。私とともに来い、拳」沙耶姫が右手をぼくに差し出している。でも、ぼくの右手は微かに震えて動かない。
「……そう言っていただけるのは、とても嬉しいです。いままでずっと、上手く魔法が扱えないのがコンプレックスだったので、ぼく自身が認められたような気がして。でも、やっぱりぼくにはできません」誰かから認められることが、こんなに温かいなんて。でも、それでもブレーキがかかってしまう。
「お前の武の力は、デーモン討伐に必要だ。……頼む、この通りだ」沙耶姫がぼくに頭を下げるなんて。
「沙耶姫、おやめください」兵が止めるが、沙耶姫は頭を上げない。
「沙耶姫様、やめてください。ぼくには荷が重いです。沙耶姫様は、この国の希望です。もし旅に出たとして、魔法が扱えないことで足を引っ張ってしまうかもしれません。だから、すみません」深く頭を下げ、断る。胸の奥に黒い棘が突き刺さり、息をする度にズキズキと疼く。
「拳、本当にそれが本心か? そなたには力がある。それがわかっているから、人助けをしているのだろう? 目の前の人を助けられれば満足か? それは違うだろう。ともに世界を変えたくないか? そして、自分自身を変えたくないか?」沙耶姫の言葉に熱が籠る。
「……」
「1週間後、道場に顔を出す。その時まで、よく考えよ」沙耶姫はそう言い残し、去って行った。
ぼくにできるのか……。世界を救い、自分を変える……。どうしたらいいのだろうか……。
「そうか、沙耶姫からまた誘われたか……。拳、お前はどうしたい?」稽古終わり、昨日の話をじいちゃんに相談した。
「ぼくは……わからない。正体がバレた状態でマスクを被っても、意味がないかもしれないし、そんなんじゃ足手まといになる。でも、ぼくの力で誰かの役に立てるなら、平和な世界を作れるなら、やってみたい、とも思う」
「うむ、その気持ちがあるなら、お供すればいい。拳、お前は、強い。事実、モンスターを倒して人助けしているし、火竜も倒したじゃないか。そういう一つひとつの経験が自信に変わっていくんだよ。姫様との旅は、お前を大きく成長させることだろう。なりたい自分になるためには、一歩踏み出す勇気が必要だ」
「うん……。じいちゃんありがとう。もう少し1人で考えてみるよ」沙耶姫もじいちゃんも、ぼくを評価してくれている。それは、素直に嬉しい。だが、それでもまだ踏ん切りがつかない……。
例えば、火宮くんだったら喜び勇んで旅立つのだろうか。
次回、『決意』
ついに自分がどうしたいか決意を固めます!
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