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【全年齢版】公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します  作者: 市之川めい
第二部

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来襲

「レオン……」と甘い響きで言おうとした声は、目の前に現れた人物のために沈黙せざるを得なかった。

 着飾って美しい令嬢が集まる夜会でさえ、一際目立つ美貌を持つ女性。その隣にいる、装飾品を付けすぎて重そうな服を着た小太りの中年男。ラファエルが歳を取ったらこういう感じになるんだろうという見本のようなこの男は、ヴァランの王太子だろう。王女とは、本当の親子なのかと疑いたくなるほど似ていない。

 王太子はこの場での共通語であるイリュダ語で挨拶をしてきたが、想像通り傲慢な様子もそっくりだ。次に娘を紹介した。


「レオン様。お初にお目にかかります。ヴァラン王国国王の孫、ニナでございます」

「ニナ王女殿下、レオン・ドトルと申します。お目にかかれて光栄でございます」

「レオン様。よろしければあちらでお話など、いかがですか?」

「ジルベール様もご一緒でしたら、かまいません」


 この言い方は大丈夫なのか?

 いくらヴァランはグレンロシェに比べ小国とはいえ、英雄で大国の歴史ある四大公爵家の子息とはいえ、一国の王女に対する態度としては少々冷たい――どころか不躾だ。実直で温厚なレオンは、自ら進んで相手を不快にさせるような真似はしないはずだが。

 実際に王女は一瞬間を置いてから返事をしたが、俺の同席を断りはしなかった。


「ええ、もちろんですわ」


 王女の可憐な振る舞いに、気が付くと周りにはイリュダの若い貴族子息達の人垣ができていた。その者達からの羨むような視線を浴びる中、レオンは手を差し出し、ニナ王女はそれに満足気に応えた。人々を掻き分け歩き出した二人を、従者のように付き従う。まさに父上に暗示された立場を明確に知らされているようだ。

 壁沿いに置かれているソファーまで行くと、王女は優雅に腰を下ろした。


「レオン様。あなたもお座りになって」

「いえ、私は危険からニナ王女殿下をお護りする立場ですので」

「あら、こんなに平和で素敵な夜会ですのに。おもしろいことをおっしゃるのね」


 レオンは俺に気を使ったのだろう。自分だけ座るわけにも、俺も座っていいか王女に許可を取るわけにもいかない。王女はお目当ての英雄と話せて嬉しいかもしれないが、こっちの惨めな身にもなってみろよ――と心の中で悪態をつきながら、ふとヴァランの王太子がいないことに気が付いた。

 自分の娘とレオンをくっつけようと画策しているのならば、残って後押しをしそうだが。それほどまでに王女の美貌に自信があり、二人の距離が近付くために自分は不要だと思ったのかもしれない。

 実際に恐ろしくつまらない二人の会話を背景音楽にし会場内を見回していると、先ほどの小太りの男性がイリュダの王妃らしい女性と話しているのが目に入った。そういえば彼らは兄妹(きょうだい)だった。



 苦痛な時間だ。貴公子然として佇みながら、王女がレオンを解放するか、またはローズ王女が戻ってきて俺達を呼ばないかと強く願った要求は、別の原因によって解決された。

 いや……解決ではなく別の問題が生じて会話が終了したと言うべきか。


 女性の悲鳴のような声と男性達の叫び声のために会場内が緊迫したものに変わったからだ。音は紛れもなくテラスの奥にいるローズ王女達の方向から聞こえてきた。外を見ると、澄んだ夜だったはずの空気は一瞬にして(もや)がかかり視界を遮っている。


 俺達の任務はローズ王女をお護りすることだ。フェリーが一緒にいるとはいえ、すぐに向かう必要がある。だがニナ王女は恐怖からか(どさくさに紛れてか)レオンに抱きついている。さすがに振り払って行くわけにはいかない。


「レオン。俺はローズ王女の方に向かうから、おまえはニナ王女を」

「はい、ジルベール様」


 何が襲ってくるか分からない。周囲に注意を払いつつ駆け寄ると、人影が見えた。

 敵――いや、ルーク王太子だ。周りを数人の護衛に囲まれている。王太子は無事のようだが、ローズ王女はいない。


「ルーク王太子、何が起こったんですか?」


 イリュダ語で尋ねる。通常であれば俺から話しかけてはならないが、今は緊急時だ。


「突然大蛇が私達の前に現れて、襲ってきたんだ」


 さすがは王太子。ルークはこのような状況にも冷静で混乱せず、他を見捨てて逃げ出したりもしていない。

 

「魔物ですか?」

「いや、断言はできないが異能だと思う」


 なら襲ったのは人間だ。ヴァランか?

 

「噛みつかれそうになったローズ王女をフェリー大隊長が護り、テラスから外の庭園に下りたのまでは確認した。だがその(あと)急に靄がかかったので、すまないが二人がどこにいるか分からない」

「急いで探します」

「ジルベール君、ちょっと待って。大蛇は今、我が国の兵士が応戦しているし、ローズ王女はフェリー大隊長といるからまずは大丈夫だと思う。ここの花壇を見て」


 見えづらいが辛うじて分かった。指で示された花が植えられていたはずの場所に、今は溶けたような黒い物体がある。

 

「大蛇が吐き出した液体がかかったんだ」

「毒ですか?」

「そうだと思う。ローズ王女を庇った時に、おそらくフェリー大隊長もかけられた」

「えっ……分かりました。早く二人を探さないと」

「毒に注意して。僕も一緒に探します」


 そう言った後、ルークは周りの護衛に命令した。


「アデルとタカは残って。他の者――君達は会場内にいる参加者達を安全な場所に誘導してください」

「はい」


 王太子の護衛達は駆け足で人々が混乱して騒いでいる室内へと急いだ。


 俺達も動き出したが、奥に行けば行くほど濃くなっている靄のせいで上手く進めない。レオンがいれば風で飛ばせるだろうが……呼びに戻るか? と思った時、少し先から唸り声がした。蛇ではなく人間のようだ。その声を頼りに行くと、イリュダの軍服を着た一人が蹲っているのが見え、すぐにルークが駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


 王太子だと分かり兵士が痛みで顔を歪めながらも慌てて儀礼をとろうとしたのをルークが()めた。ズボンの太もものところが溶け、見える部分の皮膚が黒ずんでいる。


「大蛇にやられたのですか?」

「うぐっ、は……い」


 ルークは振り返り、アデルに言った。

 

「アデル。この兵士を連れていって手当を」

「はい、分かりました」


 アデルと呼ばれた男は兵士を抱え上げ、来た道を戻っていく。


「靄が発生しているせいで周りが見えない。まずはその対処をする必要がある。タカ、頼めるかな?」

「はい、今すぐ行います」


 ルーク王太子にタカはどんな能力を使って靄を消すのか訊くと、「彼は物を温める異能を持っている。靄が特殊な――敵の異能の場合は分からないが、温度が上がれば消えるかもしれない」と言った。


「ルーク王太子。俺も火の異能を持っています。二次被害を防ぐため人がいない場所でしたら炎を出せます」

「分かった、試してみましょう」


 俺達は庭園に下り、タカは奥へと進んだ。俺はまず人の有無を確認する。いないことが分かると炎を出し、周りの温度を上げた。だんだんと霧が晴れ、周囲が見えるようになると場所を変え、再度同じことを繰り返す。

 何度か目の後、やっと全体が見えるようになった。夜といえど王宮なので、庭園でも一応の明かりは灯っている。だが王女とフェリーがいる気配はない。


「ルーク王太子。どこか隠れられそうな場所はありますか」

「この近くだと――向こうの奥に東屋(あずまや)がある」

「案内してください」


 走り出した王太子の後を追いたどり着いたが、やはり二人はいない。そして状況が悪いことに大蛇が出している「シューシュー」という音が耳に入った。


「大蛇がいる、気を付けて」

「はい」


 俺とタカが同時に返事をした。大蛇が来た時すぐに反撃できるよう炎を出しておきたいが、残念ながら靄を消すために今夜はすでに異能を何度も使っている。温存しておいたほうがいい。


「ルーク王太子、兵士の応援は?」

「こちらに応援に来るよう頼んだが、会場内にも別の異能者による攻撃があったようで、そちらの対応に当たっていて余裕がないようだ。グレンロシェの国王軍隊員達も応戦している」


 ルーク自身のか他の兵士のかは不明だが、グレンロシェにもいる通信系の異能だろう。助けが来ないのならば期待せず、三人で戦うだけだ。


「敵の正体は判明しているんでしょうか?」


 ルークは首を横に振った。

 

「だが魔物や魔王ではなく人間だ」


 ヴァランだと予想するが、イリュダ側がどこまで知っているか分からない。それに内乱や別の国という可能性――ましてや王太子とこの兵士を信頼してよいかも今のところ不明だ。とにかく敵に注意しながら王女達を探し出さなくては。


 右のほうで何かが枝を踏んだような音がした。振り向くと、子どもなら簡単に飲み込みそうな大蛇がこちらを威嚇するように舌を出している。奥に人影のようなものも見えるが、人物像までは掴めない。

 蛇が頭を上げ、そのまま突き出るように向かってきた。王太子が狙いなのか、彼が逃げた方を追うようにして這っている。先ほどの人物が俺達に目撃される距離まで近づいたのなら、遠隔操作はできないのだろう。蛇がいるのならこの近くに潜んでいるはずだ。


「ルーク王太子、敵がこの近くで操っているはずです。異能を使ってもいいでしょうか?」

「かまいません、お願いします」


 草や木が燃えてしまうが仕方ない。王太子の許可は得た。人物が見えた方向一面に、できる限りの量の炎を出す。火は瞬く間に広がり、辺りを明るく照らし出した。

 いない――どこだ? と振り返ろうとした瞬間、「うあっ」という呻き声が聞こえてきた。見るとタカが腹を噛みつかれ、蛇の口からはドロっとした液体が滴り落ちている。


「タカっ」


 タカがルークの目の前にいることから、自分の主人を庇ったのだろう。ルークが短剣で払おうとするが、胴体をうねらせて動くためなかなか当たらない。俺は蛇の動きを止めるため火を出し、その隙にルークは短剣を突き刺してタカから蛇を引き離した。

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