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【全年齢版】公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します  作者: 市之川めい
第二部

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33/54

護衛任務初日

 町の中心地に見える一番大きな建物は、周りにある他の高級そうな宿が見劣りするくらいに立派な門構えで、前には品の良い男性二人が姿勢よく立っている。

 ローズ王女の宿泊は事前通知されているため滞りなく準備は整っており、すぐに中へ案内された。当然、一番大きく豪華な部屋が王女用だ。その両脇の部屋を侍女達と隊長達が使う。

 大隊長は個室を使うと思っていたので驚いたが、権力を笠に着て威張る人物ではないので納得だ。

 俺達隊員には、ひとつ上の階の部屋が割り当てられた。五人部屋が三つなのだが、残りの二十人という人数に対してベッドの数が足りないのは、夜間も交代で警護するためだ。



 王女の荷物を運び馬の世話をし終えたところで、王女護衛中の隊員を除いた全員がエディに呼び出された。


「皆、ここまでの行程は滞りなく順調に進んでいる。気を抜かずに警護を続けてほしい。ローズ王女殿下だが今夜はずっと室内でお過ごしになるそうだ。各自任務時間を再度確認し、間違いのないように頼む」

「はい」

「お食事の時間は現在侍女に確認してもらっている。ゼン隊員」


 呼ばれた炊事担当の隊員が返事をした。中堅くらいの年齢で、短く整えられた茶色がかった金髪と引き締まった体型で清潔感がある。


「他の者達の夕食はどのように?」

「はい。下拵えは先ほど済ませましたので、一時間後には出来上がります。もちろんローズ王女殿下のお食事についても問題ございません」

「分かった。では一時間後に、取れる者から順に一階にある食堂へ行ってくれ。私かドベル小隊長は部屋にいるようにするため、何かあればこちらまで来るように」

「はい」


 話が終わったのでそれぞれが自分の行動を取ろうと動き出した。ローテーションは五人ずつに分けられており、俺はレオンとケント、ティム、ダニーと同じグループだ。少し仮眠をしてから食事、そして未明に警護の任務がある。

 部屋に行こうとしたところで、レオンがいつものように後ろにいないことに気が付いた。さりげなく周りに視線をやったが見えない。背後からダニーの声が聞こえてきた。


「レオン君ならエディさんと話しているよ」

「あ、俺は別にレオンを探していたわけでは……」

「同じグループとしての報告だ」

「――ありがとうございます」


 中性的で作り物のように整った顔の口角が上がっている。ダニーは周りに興味がなさそうな第一印象と違い、ジュールのようなガサツで性悪な人が嫌なだけで実際は勘が良く、人のことを良く見ている。もしかしたらダニーの性格ではなく異能かもしれないし、正直俺達の関係まで気付いているのではないかと心配になる。


「エディさんにレオンだけ呼ばれたってことですか?」

「そうだね、小隊長の部屋に行ったみたいだ。でも内容までは分からない」


 王女の部屋での夜間警護についてか? やっぱりこの視察の目的はそっち…………?


 まさか四大公爵ギファルド家の嫡男である俺が、王女の警護の最中に色恋が理由で任務内容に口を出すことなど、できるわけがない。周りに知れ渡ったら羞恥心で生きていけない。

 部屋に入り()いているベッドに横になった。全く眠くはなかったが邪念を追い払い、少しでも仮眠しようと目を閉じる。寝不足や疲れが任務に影響を与えてしまっては、あっという間に今の所属を外され、閑職に追いやられる。

 ギファルド家嫡男だからといって優遇はされないし、むしろ公平で誠実な父上は、息子の不甲斐なさに落胆し、より厳しい処遇を与えるだろう。



 時間になり、起きた時にはレオンの姿があった。


「レオン、戻っていたのか」

「はい、先ほど目が覚めました」


 話がどのくらい続いたのかは不明だが、一応は仮眠が取れたようだ。漆黒の髪の間から覗く緑色の瞳に疲れは見えないが……ここで寝ていた――んだよな? 途中で起きて確認するのを忘れていた。

 いや、任務上の重要な事柄を失念したのと同等のように考えるって、俺、やばくないか? 後で二人になったら直接訊けばいい。レオンは誤魔化(ごまか)したりしない。


 五人揃って一階へ向かう。厨房の横に併設されている食堂に行くと、作り置きされた料理と皿が用意されていた。保温されており(これは今まで見たことがないから、ゼン隊員の異能っぽい)、どれも美味しそうで食欲が湧く。各自好きな物を盛り付けて席についた。


「うまっ」

「ああ、めっちゃうめえ」


 ケントとティムが掻き込むようにがっつきながら口にした。二人はジュールがいなければ普通の国王軍隊員に見える。言葉遣いと食べ方も、男達が多い戦う集団の国王軍では許容範囲だ。


「本当に美味しいですね、凝っていますし」


 四大公爵家で育った俺だ。いくら王女への食事も担当に含まれているとはいえ、正直隊員である俺達の食事までは期待していなかった。


「ゼン隊員は、国王軍の炊事担当の中でも数少ない、高貴な方達のお食事と隊員の食事両方を最高レベルで同時にできる隊員だよ」

「ダニー隊員はゼン隊員と以前も組んだことがあるんですか?」

「ああ、何回かね」


 俺達のグループでダニーが実質リーダーみたいになっているのは、国王軍には珍しい要人警護の任務経験があるからか。


「レオン君。他の隊員達はもう食べているから、遠慮しなくて大丈夫だよ」


 すでによそった分を食べ終えたレオンにダニーが言った。


「ダニー隊員。お気遣い、ありがとうございます。もう十分いただきましたので大丈夫です」

「そっか」


 レオンが謙虚だから遠慮していると、本当にダニーがそう思ったわけではないはずだ。それにも拘わらず言ったのは、今日は訓練時と同じ――それ以上の運動量なのに、レオンがいつも食べる量よりも少ないことに気が付いたから。ダニーの意味にケントとティムは全く反応していないが、多分……レオンは先ほどエディに呼ばれた時に、すでに食事を取っていたんだろう。

 レオンが断れない理由――王女からの食事の同席の誘いか。


 まったく王女もレオンを気に入っているはずなのに、全然レオンの性格を理解していないよな。レオンは二回食べることになるし、仮眠の時間も減る。自分の護衛に任命したんだったら、レオンが万全の体調で任務に集中できるよう、配慮するってことは――うん、王女には無理だ。

 使用人達から配慮される側だ、俺と一緒で。俺もレオンを自由に呼び付けてるし、好きに扱ってるし。



 全員が食べ終え、交代の時間が近づいてきた。

 警護は王女の部屋の前、同じ階の階段前、正面玄関、裏門、一階の大広間の階段前に各一人ずつの配置だ。ちなみに俺は裏門の担当になっているのだが、それは緊急時に異能を使用した場合、俺の能力では二次被害――火災を起こしかねないためだ。

 当然俺の実力では火力を調節できる。だが相手が強敵だった場合には強い炎を出す必要があり、王女がいるこの屋敷内では不可能だ。

 ちなみにレオンは意外にも、王女の部屋がある階の階段前だった。部屋前がケントだ。レオンが部屋に入ったら必ず話題にするだろうから今夜は誘われないだろう。

 王女と何かしてるのでは? と疑心暗鬼しなくてすむのはいいが、万が一敵が来襲したら俺(と正面玄関担当のダニー)が当たり前だが一番に対応する。

 父上の采配だろうか。レオンを護るための……



 裏門の担当は直接話したことがない第十隊二班の隊員で、「状況変わりなし」という連絡事項以外は何も言わず交代した。

 貴族が多く訪れる町の高級宿とはいえ王都のように街灯はなく、辺りは暗い。昼間は暖かかったが今は温度も下がり、ひんやりとした空気が顔を刺激する。火種を出して暖を取りたい気持ちを抑え周囲に目を配り、持ち時間を過ごす。

 次の隊員が来たので先ほどの隊員と一語一句同じ文を伝え、部屋に戻る道を急ぐ。明日は朝の出発予定だ。早くベッドに入り寝なければ。

 そっと扉を開けると、室内には小さな明かりがついていた。


「ジルベール様、おかえりなさいませ。ご無事でなによりです」


 すでにケントとティムはベッドの中にいるため、俺にしか聞こえないくらいの小さな声でレオンが囁いた。同じくらいの音量で返事をする。


「ああ、だがまだ任務は始まったばかりだ。早く休んだほうがいいぞ」

「はい。ジルベール様もごゆっくりお休みになってください」


 ()いているベッドに入ろうとした時、ダニーも戻ってきたので簡単に言葉を交わした。明かりが消えると、部屋は暗闇に包まれたように何も見えない。時折ティムがいるベッドから大きな(いびき)が聞こえてきたが、疲れと緊張のせいか、次第に瞼が重くなり意識を手放していった。

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