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【全年齢版】公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します  作者: 市之川めい
第二部

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国王軍入隊

 レオンはあれ以降俺に尋ねることはなかったが、おそらく俺が国王軍を希望したと知っているだろう。そうでなくても父上に訊けばすぐに解決する。

 レオンには『自分の好きにすればいい』と伝えたが、もちろん恭順なレオンが俺から離れないだろうということは計算済みだ。

 色々あったハディード学園での生活も、もう少しで終わりになる。国王軍に入れば泊まり込みの任務も増えるし、長期で国外へ行くこともある。

 父上は軍事宮はもちろん、最近はますます国王陛下の片腕として、王宮での執務や外国との交渉も任されている。多忙なためほとんど屋敷に帰って来ないので顔を会わせていない。今度はより交流がなくなっていくことだろう。


 シャンティエとクリスティーナとは以前にも増して三人で密に連絡を取り合っているみたいなのを、俺は知ってるけど。なんだよ、ギファルド家の後継者のための基盤作りってやつか?

 苛立つけど実子でない俺には不満を言う権利がないし、国王軍で活躍し父上に認めてもらうしかない。




 結局レオンは本人が言っていた通り、学園卒業後は俺と同じ国王軍に配属された。

 ちなみに――リューイ、ダッド、ラファエルという訓練時に何度もグループを組んだ者達も一緒だ。


 治癒能力を持つリューイは、軍事宮に所属して前線から送られてきた重症患者の治療、及び治癒速度や効果の研究という選択肢もあったが、一刻も早く負傷者を助けたいとの思いから国王軍に決めたと言っていた。

 だがリューイは元々戦いは得意なほうではない。俺は、レオンがいるからじゃないよな? あの、レオンが英雄だった時の、彼女のレオンを見る目は完全に恋する乙女だったし……という疑念が捨てられない。


 ダッドの異能、遠耳は戦闘向け――情報収集が主な任務なので妥当だろう。

 一方のラファエルは王宮での楽で優雅な勤務を希望していたらしいが、国王陛下から、『向いていない』と言われ許可が下りなかったらしい。血の繋がった伯父に断られるって、どれだけ無能力が高いんだ?



 さて、俺達――新しく入軍した者達は今、軍事宮内にある大広間に集まっている。夜会で使われることはないこの部屋は、軍の集会や荷物置き場としての役割が多いため飾り気はない。

 ここにいる者達は、ハディード学園の卒業生が大多数を占めている。王都の治安を守る警備隊員の中から見込まれて推薦された者も数人はいるだろうが、全て国王軍の厳しい訓練に耐えうると判断された若者のみだ。

 これから高官による挨拶があり、その後は各自決められた隊に行き、そこで小隊長の指示を仰ぐようにと伝えられている。


 数十人がひしめいている室内で物音を立てる者はおらず、これから待つ過酷な任務への覚悟と恐怖、期待が混ざり合った空気の中、扉が閉まる音に続いてコツコツという足音が響き渡った。

 大人数にも一人で対抗――どころか圧倒できる雰囲気を持つ高官が前に立つ。威厳はあれど柔和な感じも合わせ持つその人物を俺とレオンは見慣れているが、他の者達の多くはおそらくあの魔王襲来時以降二度目の対面だろう。


「諸君は本日から国王軍の一員となる。厳しい訓練や任務が待っているが、仲間のため、家族のため、グレンロシェ王国のため、国民のため、己のため、常に真剣に取り組み、誠実な行いを心がけてほしい」

「はい」


 一同の息の揃った返事の後、他の上官からそれぞれ名を呼ばれて自分が所属する隊を知らされた。

 国王軍は第一隊から第二百隊まであり、ひとつの隊はそれぞれ十人一組の班が五組、合計五十人という構成だ。

 学園時と違い国王軍ではリューイのような治療の能力を持つ隊員がそれぞれの班に入るのではなく、治癒隊や補給炊事隊、天幕などの設営担当隊という風に分かれており、遠征時には任務内容により数名ずつ戦闘部隊と共に派遣される。

 実際に王都とその周辺にいるのは第一隊から第百隊までで、その(ほか)の隊は国境や地方都市に配属されグレンロシェ王国の平和を維持している。

 学園の卒業生で、実家がある地方の国王軍所属を希望した者や、国境を警備する隊に配属されることが決まったダッドなどはそれぞれの任務地へすでに出発しているはずだ。

 そのためここにいる者達は全員、第百隊以内の国王軍に所属することになる。


 俺達は第九隊の中の五班で、レオンと一緒だった。通常は新人は班の負担になるため一人ずつしか配属されない。当然隊の数字は小さい順に強さを表す。学園を卒業してすぐの生徒は百番以降の隊になる者も少なくない。

 新人ながら第九隊、それもレオンと二人同時にというのは異例だ。俺達の能力が高いことを示しているのか、レオンが英雄としてすでに新人の枠を超えていると見なされたのか――


 あ、いざという時は俺がレオンを護るんだっけ。レオンが俺を護りたいと言うのとは違う方法で。

 父上は息子(レオン)を実際に戦闘をする必要があり危険度が高い国王軍でなく、管轄する軍事宮で自分の補佐につかせようと考えていたみたいだし。


 結局俺が国王軍を希望しレオンもそれに倣ったので、父上はせめて俺達を同じ班にしたのだろう。側にいないと緊急時に身代わりにさせられないから。国王軍を管轄している軍事宮の高官(父上)なら、隊員の配属先などいくらでも自分の好きにできる。

 落ち込む必要はない。どんな理由であれ、父上にとって俺は価値があるということだ。




 第一隊から第十隊までを束ねている大隊長へ挨拶をするため、同じ軍事宮内にある部屋へと向かう。

 出迎えてくれたのはフェリーという名の背の高い人物だった。隣にいるレオンも一瞬だが動きを止めた。どこかで会ったことがあるような既視感があるが、頭を回転させ記憶を辿ってみても思い出せない。国王軍の大隊長にしては品が良く物腰も柔らかいので、レオンを従者として一緒に参加した社交界で見たことがあるのかもしれない。


「エディ小隊長が君達の直接の上官になる。訓練は厳しいが優しい、公正な人物なので安心して励んでほしい。期待しているぞ」


 フェリー大隊長から親戚の子どもに接しているような目で見つめられながら言われた後、奥にある部屋まで案内された。

 室内にはざっと見たところ十人近くおり、自分達以外の隊員が集まっているようだ。


「新たに第九隊五班に配属されました、ジルベール・ギファルドです。よろしくお願いいたします」


 続いてレオンも挨拶した。


「同じくレオン・ドトルと申します。よろしくお願いいたします」


 他の隊員達がレオンの姓を聞いた際に僅かながらに見せた反応を、この若い小隊長は全く表に出さなかった。興味がないか――それとも前もって父上から何かしら言い含められているのだろう。おそらく……三十はどう見ても超えていなそうだ。二十五くらいかもしれない。その年で小隊長を任されるならば優秀なはずだ。


 この国では一般的に父側の身分を継承し、姓も父親のものを使う。父親が元々いない場合は母側の姓を名乗ることが可能だが、例えば――クリスティーナの両親のような、女性側の身分が高く男性側の身分が低い時、子に良い方の身分を継がせようとするような行為は通常国からの許可が下りない。

 そのためレオンも幼少期から母親の、正確にいえば平民の祖父から引き継いだ姓を使っているのだが、普通ならば四大公爵の子息と判明した時点でそちら側に変えると思うだろう。平民らしい姓と四大公爵家ギファルドの姓――どちらが良い待遇を得れるかなど、どんな馬鹿(ばか)でも分かる。


「よろしく。私が新しくこの班を率いることになったエディ・モリーダブンドロン。皆はエディと呼んでいるから君達もそのようにして欲しい。緊急時に長い名前は不便でね」


 モリーダブンドロンは確か伯爵家の姓だ。仲間(うち)ならば名前で呼ぶことがあっても、目上の人に対しては姓に敬称をつけることが普通だが、それを名前でかまわない――と言うなら細かいことにこだわらない性格なのだろう。実際に快活な話し方で、明るい雰囲気と目の覚めるような赤色の髪を持っている。


「君達卒業生の入隊と同時に何人かの移動もあったんだ。こっちにいるのが新しくこの班に加わったアーノルド。それとサラ、彼女は三年目だから君達の少し上だ」


 アーノルドは気弱そうに視線を下げながら落ち着かない様子でいる。 

 女性もいるならレオンの心配は杞憂じゃないのかと一瞬思ったがそれはサラに失礼だし、そもそも彼女は背が高く、肩で切り揃えた焦げ茶色の髪も相まって気が強そうな見た目なので、万が一襲われても逆にやっつけてしまいそうな雰囲気を持っている……あ、やばい――周りの隊員がどんな異能を持っているか分からないので、変なことを考えるのは危険だ。


 ガサツそうな性格とがっしりとした体格でいかにも粗野な軍人という見た目のジュールとケント、ユリウス、ティムの四人は仲が良いのか近くで固まっている。他には女性かと見間違えるほど中性的な容姿のダニーの、合計十人がこのエディ小隊長のもとで任務にあたる五班のメンバーだ。



 それぞれと簡単な挨拶を交わそうとした時、目の前にいる軽薄そうな男が言った。ジュールと紹介された男だ。


「なあ、おまえが英雄なんだろ?」

「…………はい」

「何でもっとアピールしないんだ? ギファルド公爵の息子って」


 それと同時に取り巻きの三人からもくすくすとした笑い声が上がる。長時間の任務を共にするため、良い仲間だとありがたい――と僅かながら期待していた気持ちは、早くも地面まで一気に落とされた。 

 ジュールは見た目から三十代半ばくらいだろうか。長く所属しているから上官の前でも遠慮がないのか、元々の性格かはまだ分からないが、場を凍りつかせるのに正確な理由は必要ない。結果だけが残るからだ。

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