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【全年齢版】公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します  作者: 市之川めい
第一部

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16/54

逃走の理由は

 沈黙が部屋を支配している。レオンはこの空気をさらに重くさせるのをためらいつつ、口を開いた。


「シャンティエさん。言い(がた)いかもしれませんが……あなたの能力で、その……」


 レオンが問いたいであろう内容は、人の心を読む異能がないアンドレにも分かったらしい。


「訊きたいことは――おまえ達の()に関してか?」

「……はい」

「驚いたぞ。正直初めはジルベールが立場を利用しているのかと懸念していたんだが……レオン、迎えに行きたいのだな?」

「はい」


 レオンが赤く頬を染め、少しだけだが珍しく感情を見せた。アンドレは少し考えるような仕草をしてから、ゆっくりと切り出した。


「焦る必要はないだろう。レオン、ひとつ用事を頼まれてくれるか」


 

 話が終わると、レオンは自分の部屋に戻った。翌日、アンドレと共に王宮へ行き伺候すると言われたが、様々な興奮や感情が頭を去来しなかなか寝付くことはできなかった。



 *  *  *


 

 レオンが英雄だと分かった翌朝、王都にあるギファルド公爵家の屋敷は騒然としていた。この家の子息、ジルベールが忽然と姿を消したからだ。

 前日に遠征から帰宅した際は、レオンが英雄だったということで屋敷内は少なからずいつもより浮き足が立っていた。大勢いる使用人達から見て急に微妙な立場になったジルベールだが、特に変わりがあるように見えなかった。

 それもそのはずである。ジルベールは周りの対して常に貴公子然とした態度を取り、自惚れや妬みなどの黒い感情を徹底的に隠していたため、実際の彼の性格を知っている者は三人しかいないからだ。


 その内の一人にして当の英雄、レオンだが――魔王を倒すという偉業を成し遂げこの国で四人目の英雄になり、当家ギファルド公爵の息子ということが判明した。それにも関わらず、遠征からの帰宅直後も何も語らず以前と同じく使用人として働き始めたため、使用人達がほんの少しだけ心配したジルベールとレオンの関係についても、何ら変化はなかったのだ。


 人々は表立って口にすることはしなかったが、皆、さすがはジルベール様(英雄のレオンに対して妬んだり、自分が嫡男であると主張して虐めたりしない貴公子)とレオン様(謙虚で驕らない、温厚篤実な好青年)だと再確認していた。


 であるから、前夜も就寝前にレオンがジルベールの部屋に呼び出されたのを知っている使用人は、いつものように仲良く茶を飲みながら一緒に勉強したり訓練についての話をしていると考えていたのだ。あの部屋でまさかジルベールがレオンを()()()下僕のように扱っていたなど、当主と筆頭侍従を除いて、誰も気付いていなかった。


 使用人達は初め、ジルベールが誘拐されたのではないかと疑ったほどだ。だが、ジルベールの部屋から鞄と服が数枚無くなっていること、裏門の鍵が焼かれていたことは火を使う異能を持つジルベールがやったと想像できる証拠でもあり、自ら失踪したと結論付けたのだ。

 彼らは直ちに筆頭侍従に報告したが、シャンティエは旦那様に伝えると言うのみで特に焦っている様子は見せなかった。当然ながら侍従とは常に冷静沈着に振る舞うことを求められる。

 だが使用人達は、彼の落ち着いている様子はそのためではなく、ジルベールが屋敷を出た理由をすでに知っているのだろうと想像した。


 それが確信に変わるのは、レオンが主人アンドレと共に王宮に向かってから屋敷に戻らなくなった後である。皆、アンドレが自身の後継者としてレオンを選び、社交や軍事宮での仕事についての教育を開始したため、王宮で預かってもらうことにしたのだと考えた。

 その推測は半分のみ正しかった。実際にアンドレはレオンに王宮へ行き、王女様に会うことを命じた。それはレオンが英雄だったということに加え、すぐにレオンの容姿を聞き込んだ彼女からの熱い要望であり、国王陛下からも言われたため、いくら四大公爵家のアンドレといえども断れなかったのだ。


 そして、ハディード学園の生徒は卒業したら軍事宮に所属することが一般的なため、少しばかり早く働き始めたとしても何の問題もなく、実際に国王軍には見当たらない珍しい異能を持つ生徒が手伝った例もある。

 だが、アンドレはレオンを息子だと認めはすれど公爵家の跡継ぎだと宣言したわけではく、より正確に言うならば、ジルベールのことも含め肯定も否定もしていないのだ。



 *  *  *



 目を覚ました。ベッドに寝ているみたいだが周りを見るとかなり質素で、一瞬理解ができなかった。


「気が付いたか?」


 若い男がいる。誰だ?


「お前は? 俺はなんでこんな所に……」

「おい! 助けてもらった人に対してその言い方はないだろう。まあ俺もお前の返事を聞かずに勝手に連れて来たけどな。えっと……お前は昨日馬車を降りたが酔って死にそうだった。何も言わないし、そのまま意識を失いそうだったから俺が(かか)えて連れて帰り寝かせたんだが、調子はどうだ?」

「ああ……すまない、大分良くなった。えっと――ここは?」

「俺の家だ。俺はガイ、商人だ。お前は? 見た感じ旅慣れてないな、王都出身か?」

「俺は…………」


 ギファルド公爵家子息などと言えるわけがない。だからと言って本来の身分、料理人のトニーと同じく平民出身のクリスティーナの息子だなんて自己紹介するのはまっぴらごめんだ。


「まあいいさ。腹は減っているか? 食べられそうなら顔を洗って下りて来い」


 浴室を探したが見当たらないため階下へ行き尋ねると、薄茶色の目を細めて笑われた。少し癖のある髪の毛も同じ色だ。


「おぼっちゃまには、まさかあの小さい洗面所で洗うなんて想像つかないよな。ほら、ここのを使えよ」


 素性は言ってない。まさか四大公爵家とは思わないだろうが、凛とした高貴な佇まいで貴族だと分かったのだろう。


「助かる。洗面用具とタオルはここに置いてくれ」


 まだ笑っているガイを後目に、顔を洗った。着替えもしたかったが、それは後でいいだろと言われテーブルに着くと、簡単な食事と温かい茶を出してくれた 。


「名前は? 詮索してるんじゃなくて、呼びたい時に困るからだ。言いたくなければ何でもいいぞ」

「――ジルと呼んでくれ」

「じゃあジル、生まれは王都か? どうしてこの町に?」

「結局探るのかよ!」

「別に好奇心からじゃないぞ。もし事情があって帰れない――とかなら好きなだけここにいていいが……同じ家に住むのに、全く何も知らないってのはおかしいだろ? 犯罪者を匿う気はないし」

「犯罪者なわけないだろ、失礼だな」

「――だからそう思わないための納得できる理由を、少しでいいから教えろってことだ」

「……確かに王都から来た。もちろん法に触れることなどしていない。ただもう屋し――家にいたくなくて、空いていた馬車に乗りたまたまこの町に来ただけだ」

「家出ってことか。今後の予定はあるのか? 知り合いがいるとか仕事のあてがあるとか」

「――全くない」


 ガイは溜息(ためいき)をついた。


「まあそうだよな。そもそも労働者には見えないし。ジルがいいんなら俺の仕事一緒にやるか?」

「どんな仕事だ?」

「服を売る店をやっている。最近忙しいんで、おまえに店番をやって欲しいんだが」


 詳しく聞くと、ガイは物を移動させる異能があるらしい。王都まで赴いて直接服を買い付け、そのまま能力で直接この町にある倉庫に移すため運搬の馬車を手配する必要がない。そのため王都の流行りの服をすぐに、そして運送料が上乗せされず安く手に入れることのできるガイの店は人気で繁盛しており、ちょうど働ける人を探していたとのことだ。


「俺の異能はそういう商売には全く役に立たないと思うが、問題ないか?」

「大丈夫だ。では早速明日から頼むぞ」


 そういうわけで俺はガイに衣食住を提供してもらう代わりに、店で働くことになった。明日からの仕事のため今日はゆっくり休むこと、それと生活に必要な物の買い出しをしておけと言われたが、どうすれば良いのか分からない。


「どこでどうやって買えばいいんだ?」


 ガイが吹き出した。


「買い方が分からないなんて本当に箱入りのおぼっちゃまなんだな。仕方ない。仕事を急いで片付けて一緒に行ってやるよ」


 

 

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