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合同訓練

 ロード隊長から、次の国王軍との合同訓練が一週間後にあるとの発表があった。


「班は前回の模擬戦の時と同じだ。今回は国王軍第三隊と第四隊に同行するが、前回のような模擬戦ではなく実際に隣国との国境付近に最近出没している魔物の征伐になる。レベルは低いとの報告が上がっているが基本は国王軍が攻撃をし、君達は実際の戦闘がどのような様子かを見ながら補佐に当たってくれ。では今から班ごとに担当の隊員を紹介する。彼らには明後日、時間をもらっているからそれまでに訊きたいことがあれば、班ごとに確認しておくように」




 前回の訓練は対国王軍の模擬戦だったので基本的に安全の保証はされていたが、今回は弱いとはいえ魔物が相手だ。そのため、遠征は前回よりも緊張感が漂っている。隊長以下国王軍の隊員達に連れられ、俺達は魔物がいるという、北の国境へと向かった。

 王都の賑やかな街並みを過ぎると、ずっと先まで平野が広がっている。視界が開けているため、この道ではもし魔物が襲って来ても見つけやすいが、この付近での目撃情報は今までで一度もない。実際に初日の目的地であった直轄領まで問題なくたどり着いた。今夜は王家の城に泊まるのだが、ここは実質的に軍事宮が管理しており、国王軍の任務やハディード学園の訓練のために使われるため、城内は寮のように改装されている。


 通常、国王軍に所属しての勤務であれば夜間の警備も交代で回ってくるが、俺達はまだ学園で学んでいる最中という理由で免除されている。そのため俺達は、隊長からの話を聞くとすぐに部屋へ行かされ就寝するよう促された。明日は早朝に出発するため、寝不足ではその後の動作に影響するからだ。


 平野を抜けると、国境までは深い森が広がっている。ここからは魔物が現れる可能性が高くなり、緊急時には生徒達も能力を使うことが許可されている。ただあくまで危険回避のためであり、積極的に攻撃することは推奨されていない。

 数時間歩き続け隣国との国境まであと少し、という所まで来た時、先頭にいた隊員達からの報告が入ったらしい。引き継いだ隊長が皆に告げた。


「諸君。少なくともこの先に三匹の魔物がいる。気を引き締めてそれぞれ決められた配置につけ」

「はい」


 国王軍隊員と配下の班ごとに魔物がいる場所を取り囲むようにして布陣する。国王軍に人の意識の中で言葉を伝え合える異能を持つ隊員がおり、連絡はその者を介して行われているようだ。

 とはいっても俺達生徒は『見学』というのが主な理由で参加しているため、実際に今回の訓練でその能力を使わせてもらう予定はない。

 魔物がいるのに戦いに参加しなくていいのか? と思われるかもしれないが、難関の試験を突破し国王軍の厳しい訓練をこなしている精鋭揃いの彼らにしてみれば生徒達は足手(まと)いであり、国王軍の動きを観察して学びながら自分の身は自分で守るだけで十分なのである。そのため余程の緊急時を除き、今回のような遠征で隊員に身を守ってもらうような事態になった場合、退学を勧告されることも有り得るのだ。


 生徒達の熱い視線を浴びながら、国王軍の隊員達が連携し難なく一匹の魔物を倒した。次の魔物に関しては、一人の隊員が近付いて行ったと思った瞬間に木っ端微塵に吹き飛んで行った。国内でも珍しい、破壊する異能を持っているようだ。

 この分では残りの一匹も問題なさそう――誰もがそう思っていただろう時、バシャっと肉が避け飛ぶような音とともに(つんざ)くような悲鳴、そして咆哮(ほうこう)が辺り一面に響き渡った。


 少しの間を置き生徒達が次々に騒ぎ出し、経験を積んでいる国王軍隊員達も状況を把握できていないのか混乱している。

 俺は即座に仲間を確認すると、リューイは怪我人回復に備えるため、同じ異能を持つ隊員を探しているようだ。ラファエルとダッドは腰が抜けて座り込んでいる――予想通りだ。

 だが、なぜかレオンがいない。俺は周りを見回した。

 すると、上空に大きな人型の竜のような生物がいるのが分かった。


 最後の一匹の魔物? にしては今までのと違いすぎる……


 その時、頭の中に声が響いた。


『魔王だ! 魔王が現れた』


 周りの者達に動揺が走る。だがあまりの衝撃に叫ぶこともできないのか、魔王の雄叫び以外は静寂に包まれている。


『――国王軍隊員は作戦③の体制で防戦、生徒達は後方に下がり隊長の指示を待つように。軍事宮に連絡を取り応援を頼むので、それまで持ち堪えてくれ』


 その言葉を合図に、生徒達は一斉に駆け出した。足がもつれて転んでいる者もいる。俺もラファエルとダッドを何とか促し隊長がいる場所へと急いだ。

 だがやはりレオンが見つからない。確かにあの異変が起こるまではいたはずだ。


「ラファエル、レオンがどこにいるか知っているか?」


 ラファエルは口も聞けないくらい――いや、言葉も耳に入らないくらい正気を失っている。会話どころではない。それを見たリューイが俺の問いに答えた。


「レオンさんは――あの悲鳴が聞こえた後、国王軍の方に向かって……行きました……」

「――それは本当か?」

「……はい」


 俺はリューイの言葉が信じられなかった。危険な方へ行ったことに対してではない、隊長の命令が出ていないにも関わらず行動したことだ。真面目なレオンにしては軽率すぎる。いくらレオンが優秀とはいえそれは他の生徒達に比べてだ。国王軍隊員とははっきりとした力の差があるし、そもそも学園での成績も俺より下なのだ。それが分からないレオンではないはずだが……



 隊長が隊員と話している間、俺達は待機を指示された。

 魔王の出現だが――場所は過去の例を見ても一貫性がなく予測がつかず間隔も曖昧だが、長い時は五十年以上現れなかったらしい。父上も参戦した隣国での魔王征伐は約二十年前、そして約七年前にも遠くの国に現れたと噂で聞いているので、高官達の間でも魔王の襲来はまだ先で、まさか生徒達を連れての遠征時に遭遇するとは想定していなかったのだろう。


 その間にもずっと戦闘が続いており、時折魔王がいる方角から攻撃音と苦痛を感じさせる叫び声が聞こえ、どう考えても状況は相当に緊迫している。

 俺はレオンのことが気になった。心配で堪らない。レオンに何かあったら……俺は……どう欲求を――処理すればいいんだ!


 一人の足を大きく負傷した隊員が二人に(かか)えられて運ばれて来た。治癒の能力を持つ隊員達が駆け寄り手当を行うが、聞こえたのは悲惨な内容だ。


「うあ、ぐっ……」

「少しの間だ、我慢してくれ」

「すまない――うっ」

「フレッド、知っているまでの戦況を話せ」


 それまで隊長と話していた隊員が尋ねると、顔を苦痛に歪ませ曇らせた。自身の痛みだけではないだろう。


「ズマとケビンと三人で魔物と対峙していた時――いきなり現れた魔王が閃光を放ちました。彼らは俺より前にいたので……おそらく……形も残っていない……と思い……ます」


 いく人かの生徒から悲鳴が上がり、それを他の生徒が(たしな)めた。


「通信能力を持つ隊員からの連絡が途切れている。原因を知っているか?」


 隊員が首を横に振り否定した後、ダッドが体を震わせながら隊長の前に進み出た。


「隊長……僕は遠耳の異能を持っています。その隊員ですが、魔王の攻撃で怪我をして意識を失っている……ようです」

「本当か?」

「――周りの隊員の名前を言ってもよろしいでしょうか?」


 隊長が許可し、ダッドが「ウィルとオーリーがそう話していたのが聞こえました」と言うと、再度隊長が苦悶の表情を浮かべながら頷き、そしてダッドを隊員に託し安全な場所で情報収集の任務を行うよう命じた。

 また一人、また一人……と次から次へと負傷した隊員が運ばれて来る。数名の生徒が治療を行う異能者の補助に回され、俺を含めて攻撃系の能力を持つ生徒は魔王がこちらに来た場合のみ、守るために反撃することを言い付けられた。

 空が一瞬暗くなり、稲妻が走った。味方側の異能か魔王の攻撃なのかすら不明だが、断末魔の叫びを発したのは人間の方だ。

 そして――常に気弱なダッドが狂ったような声で言った。


「魔王が来ます!」


 俺達は選ばれし学園の生徒ではあるが、動けない者と逃げ出す者もいる。すでに成績など関係ない、隊長でさえ生徒一人一人の動きを見る余裕はないため、正義感に駆られて応戦しても意味がないどころか致命傷をくらえば終了だ。逆に生きて帰りさえすればどうとでも言い逃れができる。

 しかし、ほとんどの者はそう計算する思考回路すらなく、ただ目の前の恐怖から逃れようとしているのだろう、ラファエルを筆頭にして。

 だが残念ながらその猶予すらなく、魔王が圧倒的なスピードで俺達の後ろ側に回り込み、立ちはだかった。振り返るとどこからか増えた魔物が十匹以上おり、すでに囲まれている。隊長以下国王軍隊員達が一斉に攻撃をするが、誰の目にも魔王の強さの方が上だと分かる。俺は四大公爵家子息として、そこに留まり自分の使命を全うしようとする。


 いくら成績が良く強い俺でも、現段階では魔王には敵わない。英雄になるとしてもまだ早いだろう。そこは冷静に判断し、魔物の退治に当たることにした。鳥を操る隊員が攻撃している一匹の魔物が隙を見せた瞬間、俺は火炎弾のようにして火を放つと、それは魔物の顔を捉えあっという間に倒した。


「若者、良くやった。次も頼むぞ」


 隊員に褒められ、俺は殊勝に頷いた。今ここでわざわざ名前を言わなくとも、この様子では問題ないだろう。心配しなくとも『さすがは四大公爵、ギファルド家子息が凄かった』と噂が広まるに違いない。

 その隊員と次の魔物の方に向かった。先程と同じように隊員が鳥で攻撃しながら撹乱させ、隙を見て俺が炎でとどめを刺す――だがなかなか機会が訪れない。この魔物の方がさっきのより強い。 

 周りを見ても手こずっているようだ。


 突然、離れたところから叫ぶ声が聞こえてきた。


「ジルベール様、危ない――」




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