後日談4-3:魔王、捨て猫として拾われる!?
「えへへ~魔王様、次は何して遊びますか〜? 猫じゃらしがいいですか? それともお着替え?」
「うなあぁぁぁぁぁあ! 俺の身体が何も言わないことをいいことに、好き勝手しやがって!」
そう叫び大声をあげるノクティス。
しかし、なんの打開策も浮かばない。必死の攻防も無駄に終わり、ぐるぐる回り続ける嫉妬と羞恥で、ついに屈辱的な言葉を口に出した。
「わかった! 私が悪かった! もう二度とせん! だから早く元に戻してくれぇぇぇ!」
それを聞いたエミリアは、満足げな笑みを浮かべながら、彼を見下ろしニマリ。
「ふふっ、最初からそう言えば良かったのに……でも、まだもう少しだけ、楽しませていただきますね?」
「な、なにぃ!? まだ続けるつもりか!? もう十分だろう!」
猫は焦りを滲ませながら、必死に訴える。
しかし、エミリアの笑みは優しくもどこか妖艶で、彼を逃がすつもりなど微塵も感じさせない。
「魔王様、私がどんな気持ちで魔王様の浮気現場を見たかわかりますか~?」
言いながら、猫の姿になったノクティスを抱き上げ、その目をじっと覗き込んだ。
「いや、だからそれは……っ! 誤解だと何度も言っているだろう!」
「いいえ。魔王様が高級クラブ――いわゆるキャバクラという場所に足を踏み入れた時点で、アウトです。反省しているなら、それを態度で見せてください♪」
可愛らしい笑顔とは裏腹に、意地悪く微笑むと、彼をそっと床に下ろし、中身猫のノクティスを再び撫で始める。
そんな彼女に甘えモード全開で、ノクティスは幸せそうに目を細め、彼女のぺったんこな胸に顔を埋めたり、スンスンと匂いを嗅いだりともうわやくちゃ。
「や、やめろぉぉぉ! もう充分だろうが! 俺の身体でなんて顔をしているんだ!? いや、そもそもそこに顔を埋めるな! いくら平地だからと言って、それは完璧アウトだろ!? お願いだからやめてくれ! 頼む、このとおりだ!」
瞬間、エミリアのまゆがぴくりと動く。
「魔王様、平地とはどういうことでしょうか?」
猛吹雪の幻覚を背景に、エミリア氷のような鋭い視線を彼に投げつける。
そして、その視線とともに、十度ほど彼女の周りの温度は低くなり――ノクティスは自身の軽率な発言に後悔した。
「い、いや、違うんだ! そこの猫が悪い! 俺は断じて悪くない! そこの猫が、お前の、お……胸に顔を埋めるのが悪いんだあぁぁぁぁ!」
必死に弁解の言葉を連ねていると、エミリアは一瞬だけキョトンと目を瞬かせる。
そしてなにか理解すると、軽く口角を上げニンマリ。
「も〜魔王様、嫉妬は良くないですよ?」
「はあ!? いやいや、これほどまでに屈辱を味わわせるこいつに怒りはあれど、なぜ俺がこんな下劣な生物に嫉妬などせねばならぬ! 断じて嫉妬などせぬわ!」
「あ〜まだ意固地になるんですね? ならばもっと甘やかしちゃいましょう!」
エミリアはそう言うと、ノクティスをもっともっと甘やかし、もう周りから見れば相思相愛にしか見えないほど、二人の世界へと入り込む。
「もう可愛いですねぇ〜。魔王様、今日はせっかくですし子作りでもしちゃいますか? 今なら百人……いいえ、二百人ほど産めそうです!」
「変なこと言うなああああああああぁぁぁ! どういう理屈でそうなるんだ! やめろ、やめろ! そもそも人の体で一気に百も二百もポンポン産めるかぁぁぁぁぁ!」
「もう、猫さんはちょっと黙っててください! 私は今、魔王様を口説き落とそうとしているんです!」
「その魔王が俺だ! もう本当に勘弁してくれ! お願いだ! 当分、エクレアの言うことを聞いてやる! だから、もう本当に……」
涙目で懇願する猫に、さすがのエミリアも良心がちくりと痛んだのか、にこりと微笑むと妥協案を講じた。
「魔王様、ほんと〜に、なんでも言うことを聞いてくれるんですか?」
その言葉はなにか含みがあるように思える。
しかし、それを深く考える余地など彼には残されていない。
「ん? ああ、魔王に二言はない!」
猫は、焦った様子でそう言い切ると、エミリアはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、あっさりと彼を元の姿に戻してやる。
「ふふっ。言質取りましたからね?」
満足気に笑う彼女にノクティスは、色んな感情を複雑に混じり合わせ、放心状態に陥ってしまう。
だが、そんな彼のことなど気にも留めず、エミリアはさらに追い討ちをかける。
「もう浮気は絶対しちゃダメですからね? 次はもっときついお仕置きにしますから!」
「あ、ああ。もうしない! もう二度とせぬ!」
そう言って、振り子時計のように顔を縦に何度も振り続けるノクティス。だか、ふと疑念が脳を過ぎった。
(ん? そういえば、俺はこいつのなんなんだ? ただの世話係に浮気などあるのか?)
首を傾げて訝しげるが、余計なことをいえば今度は何をされるかわかったものではない。
彼は大人しく口を閉じ思考を放棄すると、その疑問から目を背けた。
そんな一件があってか、彼は余計他者と関わることに消極的になってしまい、女性がいる場には絶対顔を出さなくなったという。
◇
それから数ヶ月後。
「もういい……。わかった……俺が悪かった。本当に心の底から反省している。だから、もう勘弁してくれ……」
ノクティスはこの数ヶ月間、散々エミリアに甘やかされという地獄を味わい、恥もプライドも捨てて必死に懇願していた。
エミリアは彼の降参を聞くと、満面の笑みを浮かべ、胸の前で両手を合わせた。
「ふふっ、最初からそう言ってくれればよかったんですよ〜! でも魔王様? 次は二度とありませんからね?」
そして、彼女はにこにこ笑顔から真剣な眼差しに変えると、はっきりと告げる。
「魔王様、約束してください! 私にもう二度と、寂しい思いをさせないでくださいね? もし、また魔王様が他の女性に気を向けたることがあれば、次は私――魔界を滅ぼしちゃうかもしれませんよ?」
ノクティスはその言葉にゴクリと息を飲む。しかし、ここで弱気な態度を見せるわけにはいかないと、彼は顔を赤らめつつも強がって問い返した。
「ふんっ……! どうせお前はただの世話係だろう? 私が誰と関わろうが関係ないだろうが……」
それを聞いた瞬間、エミリアはぷくっと頬を膨らませて拗ねたような瞳を彼に向けて問い詰める。
「魔王様が他の女性に気を向けたりするからですよ。私はとても傷ついたんですから!」
「いや……え、それは本気で言ってるのか……!?」
「……っ! 本気も本気です! そもそも人間界の皆さんに、『エクレアは私のものだ!』って、あれは公開告白だったんじゃないんですか!?」
「はあ!? いやいや……どうしてそうなっている!?」
「どうしてもこうしてもないと思います! あんなに堂々と恋人宣言されて、そう思わない人なんていないと思います!」
「……ち、違う。あれは……その……ただの勢いというか、つまりだな……」
そう顔を赤らめモゴモゴしていると、エミリアはニマリ。
「ふふっ。ほら、勢いで言っちゃうほど私の事好きなんですよね? 素直じゃないと、私傷ついちゃいますよ?」
しかし、その表情はどこか不安げというか寂しげ。ノクティスは、そんなエミリアの瞳の奥に宿る、わずかな悲しみに気づき、胸の奥をチクリと痛ませる。
(……なんだこの痛み? いや、きっと気のせいだ。これはアレだ! 捨て魔族を見た時と同じアレなのだ!)
そう自分に言い聞かせようとするも、どこか釈然としない。
そんな彼の態度に、エミリアは追い詰めるように言い放つ。
「とりあえず、皆さんに宣言したんですから責任をもって、私と結婚してください!」
「はああああ!? いやいや、エクレアとはこ、恋人関係でもないのだ! 話が飛躍しすぎているぞ!?」
ノクティスはその言葉を聞いた途端、耳まで真っ赤に染めながら動揺し、大雨やら吹雪やらを生み出し、魔力を暴走させ続ける。
だがエミリアは、そんなことなど気にも留めず、彼にさらに詰め寄った。
「……じゃあ恋人からでいいです!」
「いや、落ち着け? そんなヤケになって自分を安売りするな。そもそもお前は人間、私は魔王。種族が違いすぎるだろ!」
「そんなこと関係ありません!」
ドンッとテーブルを勢いよく叩くと、エミリアは強く言いきった。
「なんでもいいです! どうせコミュ障引きこもりの魔王様は一生孤独になるんですから、私に拾われてください!」
「いやいや、ちょっと待て! 俺は捨て猫かなにかなのか!?」
「はい!」
「そこは『はい!』じゃないだろ!? なぜそんなに強く言い切れる!」
そう必死に突っ込むも、エミリアはズイッと詰め寄り続けた。
「どんなに逃げようとしたってもう魔王様は私なしじゃ生きていけないんですから、認めちゃいましょう!」
尋問するような圧で言われ続けると、なぜか自分が間違っているような気がして仕方ならない。
「はあ……もう分かった。分かったから……!」
そう言ったが最後、エミリアはノクティスから少し距離を取るとにこりと微笑み――
「現実取りました!」
「は?」
「今日から、魔王様は私の恋人兼正式な甘やかされ係ですね!」
「いや、そんな簡単に……」
その言葉に同様しながらも、ノクティスは小さくも抵抗する意志をみせようとするが、彼女はそれを遮るように満面の笑みを浮かべた。
「ふふっ、いいじゃないですか、魔王様?」
そしと、ゆっくりとノクティスの頬に手を伸ばすと、優しく触れ告げる。
「魔王様、私を魔王様専属の溺愛係でいさせてくださいね? 私、一生魔王様のそばにいたいんですから!」
その言葉の意味を完璧には理解していないノクティスだが、潜在的にわかってしまったのか――顔を真っ赤にさせながらも、小さく吐息を漏らし、観念したようにポツリと返す。
「……仕方ない。お前がどうしてもと言うなら、許可してやる。だが勘違いするな! これは魔王としての寛大な温情であり、決してお前をす、好きなわけではないからな!」
しかし本心では、この関係性も悪くないかもしれないとは思っていたり……。そんな彼の心情を読み取るようにくすり。
「ふふっ、ほんと素直じゃないんですから♪」
エミリアは満足気に笑うと、ノクティスの頭を優しく撫でてやる。
こうして、ふたりは魔王としての溺愛係という建前はあれど、恋人のように甘くて騒がしい日々をともに――
「魔王様、今日の紅茶はLOVESTORYですよ〜。そして茶菓子には、特製のエクレアも用意しました!」
「またエクレアか……さすがに飽きたぞ……」
ノクティスは呆れながらも、嫌そうな素振りは見せない。むしろ、少しだけ口元を緩めている。
「むう! 素直じゃないんですから。でも、そこが魔王様らしくて可愛いですよ?」
「う、うるさい! なんでもいい。とっとと茶をよこせ!」
「ふふっ」
赤面しながら視線を逸らすノクティス。そんな彼を見て、エミリアは満足げに笑った。
(どこか釈然としないが……まあ、こういうのも悪くはないのか……?)
そう思いながら小さく息をつく。
「う〜ん。上目遣いでおねだりしてくれませんか?」
「はああああ!?」
(さっきのは前言撤回だああああああああぁぁぁ!)
いや、カオスな日々を送り続けるのだった。
《END》
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