後日談4-2魔王、再び!?
次の瞬間、ノクティスは目が眩むような強烈な感覚に襲われる。
(な、なんだ!?)
状況を把握できないまま目を開けると、視界が妙に低い。
(どういうことだ……?)
訝しげながらも視線を落とすと、なぜかちんまりとした黒く小さな二本の前脚が。ノクティスは、再び猫の姿へと変えられたことを理解する。
(猫だ。また猫になっている。だが……問題はそこではない)
ノクティスは、ゴクリと唾を飲み込む。そして、若干瞳を揺らすと、これは本当に現実なのか? と一瞬怪訝する。
だが、前足に軽く噛み付けば痛みが走る。すなわち、これは夢ではないということ。
彼はそう理解すると同時に絶叫した。
「う、嘘だろう!? なんだこれは……俺の体がなぜそこに!?」
目の前にはなぜか自分の体がある。それに前回と違い人語を話せている気がする。それに、猫になった身体から若干、自分の魔力を感じるあたり、これは魔力が枯渇したわけではなさそう。
(どういうことだ……? いや、俺が猫になっているのに、なぜそこに俺が……?)
ノクティスは困惑を極めつつ、瞳を揺らしながらその理由を解明しようと熟考する。
そんな彼とは裏腹に、目の前の自身は堂々としている割には威厳など皆無で、やたらとだらしなくエミリアの膝の上で寝そべっている。
(俺は今、猫だ。そして、目の前にいる俺は俺ではない……つまり――)
そこまで整理すると、一つの答えが導かれる。
「も、もしかして……いや、もしかしなくとも猫と体が入れ替わっているということかああああああ!? おいそこの下劣な生物よ! 私の体を今すぐ返せ!」
焦りながら叫ぶも、なんせ相手はただの猫。意思疎通などまったくもってできたものではない。
「おい! なんでもいい、なんでもいいから俺の身体で恥ずかしい真似をするな!」
猛抗議するも、中身猫のノクティスは、軽くフッと鼻で笑うような態度で目を細め、目の前にあるお酒や料理を勝手に味見し始めたり、猫を抱きしめてゴロゴロ転がり出したり――
「やめ、やめてくれぇぇぇぇ! 俺は酒が飲めないんだ! そして抱くな! 私の体が猫臭くなるだろうが!」
そんな中身猫に翻弄されていく。しかし、ノクティスは確実に彼を追い詰めようとしているのか――エミリアに抱きついて頬ずりを繰り返し、猫の精神がガッツリと削られていく。
「ふふっ、魔王様はと〜っても甘えん坊さんですねぇ〜。こ〜んなに大勢の人がいるのに、大胆ですねぇ〜」
エミリアは楽しそうに微笑みながらノクティス(中身猫)の頬を優しく撫で続けた。
「やめろおおおおお! 恥を知れ、このバカ猫がああああああ!」
「魔王様、私がいつもこうして撫でてあげても、あんなに嫌がるじゃないですか~? でもこの子は素直ですねぇ、ほら~」
エミリアは、言いながら指先で頬をくすぐると、ノクティス(猫)は、嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らし、さらに彼女の頬を舌でぺろっと舐めてしまう。
「やめろと言っているだろう! 誰がそんなことを許可した!」
そう怒号すると、ノクティスは一瞬だけピクリと身体を震わせ、シャー! と彼を威嚇する始末。
「ん〜。可愛いですねぇ〜! あっ、魔王様? 高級鰹節あるんですけど食べますかぁ?」
エミリアは、悪戯っ気を交えながら、高級鰹節(マタタビ入り!)と書かれた袋をそれとなく出してシャカシャカと振ってみせる。
瞬間、ノクティスは、目をキランキランに輝かせ、寄越せ! と言わんばかりに彼女にじゃれつく。
「魔王様……酔ってる? なんか、趣味が独特すぎませんか……?」
「ちょっとヤバイかも、これ以上関わったら巻き込まれそう……だし避難しよ……」
そんな熱々な二人の様子を見せられた嬢たちは、いつの間にか、かなり引いた様子で卓から離れ、要注意人物だと言いたげに去っている。
「おい待て! エクレア、早く戻せ! 俺はお前にこんな仕打ちをされる謂れはないぞ!」
そう必死で叫ぶも、エミリアはクスッと微笑み、高級鰹節の封を開ける。
それに焦りを覚えた猫が抗議のつもりで軽くその袋をペシッと叩いた。
すると、エミリアが手にしていた鰹節の袋がパサりと彼女の手に降りかかってしまい――
「にゃう〜ん♡」
マタタビに速攻力があるのか――ノクティス(猫)は、ベロンベロンに酔った様子で彼女にスリスリし始めたかと思うと、エミリアの手を奇麗に舐め始める。
「やめ、やめろぉぉぉぉぉ! お願いだ! お願いだからやめてくれ! 俺の尊厳があぁぁぁぁ! 俺の威厳があぁぁぁぁあ!」
顔を両前脚で覆いながら、猫は必死に叫ぶが、マタタビに酔ったのノクティス(猫)はやはりやめてくれない。
「ふふっ。魔王様、擽ったいですよ〜でも、とても可愛いですねぇ。今までこんな風に甘えたかったのに、意地を張っていただけなんじゃないですか?」
エミリアは悪戯っぽく笑みを浮かべながら、さらに中身猫の彼に手を差し出す。そんな彼女にノクティスは大満足で手についた高級鰹節を舐めとるように甘噛みしたりと、完全に甘えモード。
「う、うぐっ……エ、エクレア! 俺だって甘えようと思えば、こんな猫以上に甘えられるぞ!」
猫は、だから辞めさせろ! という意味で声を上げるが、エミリアは理解してか否か――彼の文句に耳ひとつ貸しやしない。
「ふふっ、それなら証明していただけますか?」
挑発的な言葉と含みのある笑みで畳み掛けてくる。
「い、いいだ……」
そこまで言いかけ、ノクティスは、はっと気づく。そうだ、これはエミリアの罠だ。こんなことで自分が折れるわけにはいかない! そう思うと同時に、毛を逆立て意地になって抗議を続ける。
「シャー! その手には乗らんぞ!」
しかし、エミリアは一向に気にしない様子で軽く肩をすくめ、くすり。
「なら仕方ないですね~。このまま猫ちゃんが魔王様の体のままでも、私は困りませんし~」
(こ、この女……私が本気で折れるとでも思っているのか……?)
そんな彼女の言葉にノクティスは顔を青ざめさせるが、当ノクティスは、エミリアに向かってさらに甘え、彼の余裕もどんどん奪われていく。
「ぐぬぬ……! 許さん! その身体から今すぐ離れろ! それ以上やるようならば、本気で魔法をぶっぱなしてやるぞ!」
怒りや羞恥心が頂点に達した猫は、毛を逆立てたままタンッと前足で軽く地面を叩く。
しかし、次の瞬間、エミリアが笑顔のまま冷酷に警告した。
「あ~魔王様、それは絶対ダメですよ? この子は普通の猫ちゃんですから。そんなことしたら……ふふっ、体がバーン! ですよ?」
「はあ!? そんなこと聞いてないぞ!」
「今初めて言いましたからね?」
ふふっ、と楽しげに笑うエミリア。そんな彼女に翻弄され続ける猫は、ぐぬぬと唸り声をあげるしかなく……。
徐々に追い詰められていく彼のプライドは、まるで崩壊寸前のジェンガのようにグラグラと揺れ動く。
(くそっ、ここで折れたら……負けだ……しかし……)
完全に手詰まりになった彼は、猫の身体のまま怒りと悔しさに打ち震えるしかない。
だがエミリアはそんな猫など気にも留めない。
「いっぱい舐め舐めしましたね〜いい子ですよ〜」
唾液でベトベトになった手を誇らしげに彼へ見せつけると、嫌味なほどの嘲笑を浮かべる。
(くそっ、エクレアのやつ、私にこんな辱めを受けさせたんだ。あとで絶対覚えていろよ……!)
彼はそう毒づきながらも、目の前のあまりにも甘すぎる光景に耐えきれず、徐々に理性が崩壊していくのだった。
4/6完結予定




