後日談4:魔王、キャバクラに行って大ピンチ!?
そんなガストンとのやり取りから数週間後――
「なんだ、この騒々しい場所は……」
何故か、魔界の要人と付き合いを深めるために出席を余儀なくされたノクティスは、珍しく外に出ていた。
そんな彼が訪れた場所は、魔界でも有名な高級クラブ――人間界でいうところのキャバクラのような場所。
派手な装飾が施された空間に、キラキラと露出度の多い衣装を身にまとった多種多様な女性たちが、次々と代わる代わる笑顔で挨拶してくる。
「魔王様~! ようこそおいでくださいましたぁ~! 私、アイラって言います♪ お隣いいですか?」
そう声をかけてきたのは、インキュバス。どこぞの誰かさんとは違い、ぷるるんとした胸を震わせ、肌露出の高い服で胸を強調する。
「アイスか。好きにしろ」
しかし、ノクティスは特に興味を示すことなく、さらりと誤認シリーズを増やすと、ふいっと顔を背けてしまう。
「アイスじゃなくて、“アイラ”ですよんも〜! 魔王様ったらクールですねぇ……じゃあもっと密着サービスしちゃおっかな?」
若干キレ気味に苦笑しながらも、アイラはノクティスの右隣に腰を下ろし、再び胸を強調するように彼の腕に絡みつく。
しかし、やはり彼は興味なさげに白眼視すら向けている。
アイラは内心で堅物すぎない!? いや、もしかしてムッツリ系!? と疑念を抱くが、この界隈は、指名やドリンクが貰えなければ、時給は雀の涙。
そのせいか、アイラが無理だとわかると、すぐに他の嬢たちが座りに来る。
「今日も素敵ですにゃ、魔王様~! あっ、私はテリーヌと申しますにゃ! 隣座ってもいいですかにゃ?」
次に彼の元に訪れたのは、ケット・シー。人型に化けているものの、そこまで変身能力が高くないのだろう。猫の耳に尻尾を生やしている。
そんなテリーヌを見て、ノクティスは苦々しい記憶を思い出し、若干眉根を寄せる。
そして、内心でゼリーかと落とすと、無愛想に言葉を返す。
「……好きにしろ」
「わぁい! 魔王様は何飲まれますかにゃ?」
アイラと違い、テリーヌは、にこにこと笑みを浮かべながらノクティスに酒を進め始める。
「好きなものを注げばいいだろ。いちいち私に聞くな」
「じゃあこれ入れちゃいますね〜!」
ノクティスの返事に、アイラが負けじと話を振り、黒服らしき人物に声をかけて酒を持ってこさせる。
しかし、終始不機嫌な様子で仏頂面を晒し続けるノクティス。そのせいか、話などまったく弾まない。
まあ、ノクティス自体、別に女性が苦手というわけではないが、根っからの引きこもり体質。こんな騒がしい場所を好むことはないのだからそれも仕方ないことだろう。
その後も代わる代わるドリンクを貰いに、店の嬢がワラワラと集まり――ノクティスは心底ウンザリした様子で燃え尽きてしまっていた。
(早く帰りたい……マカロンめ! 絶対あいつ仮病だろ!? この私にこんな場所へ向かわせるなどなんという奴だ! 今後数百年は減給にしてやる!)
そんな不満を内でこねくり回していると、誰かが彼の耳元で囁く。
「魔王様?」
その声は聞き慣れたモノ。しかしどこか冷たい声が響く。ノクティスは無意識にビクリと肩を揺らし、恐る恐る振り返った。
「エ、エクレア!? なぜここに――」
彼の視線の先には、にっこりと微笑むエミリアが立っていた。だが、その瞳には微笑とは裏腹に冷たい光が宿っており、ふつふつと怒りに燃えているのは一目瞭然。
「魔王様……私という者がありながら、他の女性にうつつを抜かすとはどういうことでしょうか?」
エミリアの冷たい微笑みに、ノクティスの背筋が瞬時に凍りつき、魔王だというのにカタカタと体が小刻みに震えてしまう。
「ち、違う! これはその……ただの外交上の接待だ! ていうか、そもそも俺はお前の所有物ではないし、俺がどこで何をしていようと勝手だろ!」
動揺を隠しきれないノクティスは必死に弁解を試みるが、エミリアは涼しい顔のまま首を傾げ、楽しげに目を細める。
「あ〜そうなんですかぁ? そんなこと言っちゃうんですねぇ〜。でも、人間の皆さんには、私のことを『自分のモノだ』と随分、声高らかに宣言されていましたよねぇ〜?」
エミリアはあっれれ〜? おかしいですね〜? と声を低くしながらも彼を見据え、再びにこりと貼り付けたような笑みを浮かべた。
「ぐっ……!」
逃れようのない言質を突きつけられ、ノクティスは視線をあちらこちらに飛ばしながら言葉を詰まらせる。
「ま、魔王としての威厳を見せただけだ! 本気でそう思っているわけがないだろう!?」
必死に言い訳を並べように虚勢わ張るが、エミリアはそれを楽しげに聞き流すと、唇に人差し指を当てて可愛らしく首を傾げた。
「ふふっ、魔王様にはちょっ〜とお仕置きが必要みたいですねぇ?」
「はあ!? 仕置きだと? ふ、ふざけるな! お前にそんなことをされる筋合いはない!」
そう抵抗を見せるも、エミリアはすでに何かの魔法の準備し始めているらしい。彼女の指先には淡く光る紫色の魔法陣が浮かび上がっている。
「ま、待てエクレア! ここは店だぞ!? そんな場所で一体何をするつもりだ!?」
「ふふふっ、ちょっとした躾けですよ?」
その不敵な笑みを見た瞬間、ノクティスは猛烈な悪寒に襲われた。
(これはなにか嫌な予感がするぞ!?)
ドクドクと鼓動を速めながら、彼はこのピンチをどうにか切り抜けれないか思考をフル回転させる。
だが焦りを覚えてしまっている中、これといっていい案など思いつかない。ノクティスは、切羽詰まったように慌てて言葉を紡ぐ。
「待て! 話せばわかる!」
「もう遅いですよ? 魔王様♪」
そう言ってエミリアが小さく何かを呟くと同時に、ノクティスの視界は白く染まり――




