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魔王様は今日も暴走スパハニ幼女に|溺愛《お世話》されます。〜俺はそんなもの頼んでいない! もうほっといてくれ!〜  作者: 塵芥


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22:エクレア消失、魔王呆然。


 温泉から戻って数日後。


 エミリアはノクティスの居室で、椅子の上で丸くなって寝ている彼を眺めながら、小さくため息をついていた。


「魔王様、最近お父様がちょっと変なんですよね〜……今日も急に呼ばれちゃったので、私ちょっとだけ人間界に戻りますね?」


 寂しそうに、そして少し困ったように事情を説明するエミリアだったが、ノクティスは半ば夢の中。夢現(ゆめうつつ)でその言葉を聞き流してしまう。


 返事代わりにしっぽをパタンと振り、そのまま深い眠りの中へと落ちていく。


 そんな彼の背中を一撫ですると、エミリアは静かに居室を後にした。


 ◇


 しばらくして、ノクティスはふと目を覚ます。だがどうしてか、部屋がいつもと違うように感じる。


「ぬわ〜ん? (エクレア、どこに行った?)」


 寂しげに首を傾げながら、部屋の中をキョロキョロと見回してみる。しかし、どこにも彼女の姿は見当たらない。


「うにゃにゃんにゃお〜ん!? (おい、まさか俺を置いてどこかに行ったのか!?)」


 イライラした気持ちを抱えつつ、ノクティスは部屋の中をうろうろし始める。ベッドの下や棚の裏、ソファの後ろまで探したが、彼女の影も形も見当たらない。


「ぬわ〜ん! (エクレア!)」


 仕方なく、甘えた声を上げて彼女の名を呼んでみるが、やはり返事はない。いつもと違った静寂に、彼の心は徐々に寂しさが募っていく。


(エクレアの奴……俺を置いてどこに行った? 俺の世話係と豪語していた割には私を置いていくなど断じて許さん! こうなれば高級鰹節とやらを勝手に食い漁ってやるわ! ……って違う! 俺は魔王だ! 高級鰹節など要らぬわ!)


 そんな一人ボケツッコミをしながらも、苛立ちを込めて再びぬわ〜ん! と鳴き声を上げると、その声を聞きつけた外交担当魔族――悪魔族のマッキャローが不思議そうな顔をして部屋へと入ってきた。


「あれ、ニャクティス様どうしました? そんなに寂しそうな声を上げて」


 そう声をかける彼は、黒い結膜に赤く冷えきった瞳でノクティスを見下ろしており、何故か身体が小刻みに震えている。


 もしかすると、マッキャローもノクティスと同じく、猫嫌いなのかもしれないが、彼は特に気にも留めず声を上げた。


「ぬわぬわ〜ん! (おいマカロン! エクレアはどこに行ったんだ!)」


 必死に問いかけるも、当然ながらマッキャローには猫の鳴き声しか聞こえない。それに加わり上目遣いの高貴な黒猫。


 マッキャローはそんな彼の姿に理性が崩壊してしまったのか――先ほどまでの冷静な態度はすぐに消え失せ、でろんでろんに頬を緩ませノクティスを優しく撫で始めた。


「にゃあ〜ほらほら大丈夫でちゅよ〜、寂しくないでちゅからね〜」


「フシャー! (急になんだ! 気色の悪い声を出すな!)」


 突然の変わりように、ノクティスは威嚇の声を上げるが、言葉の通じない相手には、何を言っても無意味に終わる。


 マッキャローはもしやしなくとも、かなりの猫好きなのか、彼の撫で捌きは猫好き特有のソレ。力加減も絶妙で、気持ちの良い部分を的確にとらえてくる。


 最初は抗うように抵抗していた彼だったが、次第にその気持ちよさに屈してしまい――


「うにゃ〜ん うう……ゴロゴロ……うみゃあああにゃうみゃ! (そこだ、そこがいいぞ……もっと撫でるのだ……って違あああう! そうじゃない!)」


 喉をゴロゴロと鳴らしながらもハッ! とし、慌てて体勢を整えた。


 しかしそんな彼にお構いなく、マッキャローはノクティスを抱え上げ頬ずりすると見た目とギャップのありすぎる言葉遣いで頬ずりし始める。


「う〜ん! ニャクティスさまはほんと〜に可愛いでちゅね〜!」


「うなうにゃうみゃうみゃ! フシャー! (可愛い言うな! そしてなんだその気色の悪い顔と声は! いつもと雰囲気が違いすぎるぞ! 今すぐそれを辞めろ! でなくばその肉を食いちぎるぞ!)」


 抗議のつもりで再び鳴くのだが、それも虚しくさらに抱き締められる。なんとか抜け出そうと部屋の出口へ駆け出すが、小さな体では逃げることなど不可能。


 語尾を甘ったるく変化させながら、マッキャローがノクティスの前に立ち塞がった。


「あっ、ダメでちゅよ〜ニャクティスさま! 最近の魔界は物騒なんでちゅから、お部屋でおとなしくしてまちょうね?」


「うななうにゃー! うにゃ! うにゃにゃわんにゃおんにゃわ! (そのでちゅでちゅをやめろ! 気色悪い! そもそもお前らが危険に晒しているんだろうが!)」


 怒りに震えるノクティス。しかし、そんな彼をよそに、マッキャローは彼を居室の中央に置き、扉に逃げ出し防止用の魔法をかけてしまう。


「私は職務に戻らないといけないので、ここで大人しくしているんでちゅよ〜! う〜ん、いい子でちゅね〜!」


「うにゃああああ! (お前まで俺を閉じ込めるのか! 許さん! 断じて許さんぞ)」


 マッキャローはノクティスの抗議に耳を傾けることなく、終始そんな感じで彼を愛でると、そそくさと執務に戻ってしまった。


「ぬわ〜! ぬわ〜ん! (エクレア、どこだ! 助けろ! 私の命令が聞こえないのか!)」


 その後も必死に彼女の名前を叫ぶノクティスだったが、いくら鳴いてもエミリアは戻ってこない。やがて疲れ果て、悲しそうな目でその場に倒れ込んだ。


「にゃうにゃううにゃ……(くそっエクレアのやつめ、帰ってきたらただでは置かないからな……)」


 しょぼんっと項垂れながらもノクティスは、ウトウトと瞼をゆっくりと閉じ――そのままスヤァと眠りこけてしまうのだった。


 ◇


 ノクティスが眠りに入ってからしばらく経った頃。背中に、ふんわりとした温かさと重みを感じ薄らと意識を戻す。


(……なんだ?)


 そう思いながら軽く視線だけを動かすと、ぼんやりと視界の中にエミリアらしき人影があった。


「にゃう〜ん……(エクレア、どこ行ってたんだ……)」


 寝言のように小さな声でゴロゴロと喉を鳴らすノクティスに、エミリアは小さく笑うと返事する。


「ふふっ。魔王様、ただいま戻りましたよ! 起こしちゃいましたか?」


 しかし、半分夢の中であるノクティスは、現実と夢の狭間で格闘しながらウトウト寝言を呟いてしまう。


「うな……(高級鰹節……)」


「ふふっ、お魚嫌いじゃなかったでしたっけ?」


 そう言いながら、エミリアは普段と同じように彼を優しく撫で続ける。


 静寂な時間はかなり落ち着くというもの。ノクティスはほぼ夢の世界へと旅立ち、幸せそうに彼女のナデナデをその身で受け続けていると、ふとエミリアが口を開く。


「魔王様、もしかすると私……人間界に帰らなきゃいけないかもです」


 瞬間、ノクティスの耳がピクリと動き、薄らと目を開く。


(は?)


 聞き間違いか? いや、そんなわけないだろ……。どういうことだ? と内心で訝しげながらも、寝ぼけた頭では理解など到底できない。ノクティスは目を細めながらもきっと夢だと結論づけしてしまう。


 そんな彼の意識が覚醒しかけていることなど知らず、エミリアは、ノクティスの頭を優しく撫でながら、独り言のように続けた。


「実は、お父様がお怒りで……魔王様にこれをつけさせるか、私が帰るかって……でも、こんなものを魔王様につけたくないですし……」


 そう言いながら小さな鈴のような装置を指で転がす彼女。その瞳はかなり寂しげで、本望でないことが伺える。


 そして、その鈴からはほんの少しばかり不穏な気配が漂っている。多分だが、これをつければたちまちドカーンッ! と爆発したり、何かしらの危険が潜んでいるのだろう。


 エミリアは、そんな物騒な装置を転がし続けたあと、答えを出したのだろう。その装置に魔力を流し込むと、破壊してしまう。


 そして、悲しげに口角をあげると小さく呟いた。


「だから私、帰りますね?」


 そこには、普段の明るい彼女は影を潜め、哀愁さえ漂っているように思える。


「うにゃ……(そうか……)」


 そんな彼女の呟きに、ノクティスは返事するように鳴きながら、しっぽをわずかに揺らす。


 エミリアは普段と変わらない彼の態度に、少し心を救われながらも微笑むと、ノクティスに問いかけた。


「ふふっ。魔王様ったら……。明日には帰りますから、それまでいっぱいナデナデしてていいですか?」


「うにゃ……(好きにしろ……)」


 ノクティスは、そう返事するとそっと目を閉じ、彼女に身を委ねる。


 その晩、エミリアはいつもと違う柔らかく愛おしむような手つきで、ノクティスをゆっくりと撫で続けた。


 そんな彼女の態度に、彼は微かな不安と温かさを感じながら、そのまま穏やかな眠りの中へと沈んでいくのだった……。

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