20:魔王、抱き枕と共に真相に着く。
「……というわけですね、魔王様!」
エミリアが得意げに胸を張って話を締めくくると、ノクティスは小さな猫の身体で、彼女をジト目で見上げ声を上げる。
「にゃうにゃうにゃ……にゃ、にゃぁぁぁ!(なるほど……って、いやいや、それはどう考えてもおかしいだろう!)」
「え、何がおかしいんですか?」
「にゃおおおん!? にゃにゃにゃにゃ! (お前はそれをただの交流目的だと信じているのか!? 明らかに俺を貶めるための刺客だろうが!)」
「え? 何言ってるんですか魔王様。私、魔王様と仲良くするために遠路はるばるやってきたんですよ?」
エミリアはキョトンとした顔で首を傾げる。その無邪気さに、ノクティスは呆れと怒りを通り越し、悟りの境地に達する。
(あっ……(察し)この女……危機管理能力やらなにやらが完全に欠落しているのだ……)
もはや諦める方が早いというもの。しかし、ある疑念が彼の頭をよぎった。
(待てよ? そうすると俺のこの猫化現象も、こいつの父親絡みの可能性があるな……)
ピンッと閃くと、ノクティスはすぐさま真相を追求すべく、エミリアに鋭い視線を向ける。
「にゃいにゃおおおおにゃ、にゃにゃおにゃおにゃお!? (おいエクレア、お前の父親の術式のクセとか、覚えていることはないのか!?)」
「え? どうしたんですか急に?」
「にゃあああ! にゃああああ! (いいから早く言え! 言わぬなら噛み殺してくれるわ!)」
「もう~、滅相なこと言っちゃメッですよ?」
エミリアは頬をぷくりと膨らませながらも、少し考え込み――
「うーん、そうですねぇ……お父様は字を書くのがすごく下手っぴで、よくミミズのような――蛇みたいなクネクネした線を書いてましたね? 私でも読み取れなくて〜ほんと、どんな術式よりも難読ですね!」
「にゃ……にゃあ? (ミミズ? 蛇みたいな線だと……?)」
それを聞いた瞬間、ノクティスの脳裏には先日、プロンティアーモが得意げに言った言葉が蘇る。
(そういえば、プリンアラモードが『蛇みたいな部分を理解できれば簡単だった』と言っていたな……。そしてミミズ――それは俺があの術式を見て思ったものだ。つまり……)
「にゃああああああ!? (犯人はお前の父親かああああ!?)」
思わず声にならないにゃけび声をあげ、絶句する。
「え~、お父様が犯人? なんのことですか魔王様?」
エミリアは理解し難い様子でキョトンとしているが、ノクティスの中ではすでに犯人がほぼ確定している状態。
(エクレアの父親が首謀犯だったのか……しかし、なぜ俺を狙った?)
その疑問の答えを探すように、ノクティスは何かヒントはなかったかと一生懸命、脳をフル回転させる。
だが、すぐには見つからない。
(何か……何かあったはずだ……確か――チョコ……いや違う。ショートでもなく――うーん)
そう唸っていると、とある場面を思い出す。
『ま、待て! はやまるな! 私はただ命令に従っただけだ!』
『命令ですか? それは一体、誰からの?』
『それが……知らないんだ! 紺のフード付きローブで顔を隠し、誰かも分からない! 我はただ、そいつからノクティスの魔力を枯渇させる術式を教えて貰っただけに過ぎないんだ! だから殺さないでくれ!』
そこまで思い出すと、ノクティスはハッとした。
(なるほど。つまり、私がパニックになって受けてしまったあの白い光線は、そもそもエクレアに当てる予定は一切なかったと……多分だが、チーズケーキをうまいこと操って、自分は素知らぬ顔を決め込む予定だったんだろうな)
彼はぐぬぬと苦虫を噛み潰したような表情を見せながらも、ぶつぶつと小さく呟き、思考の整理を続けた。
そんなノクティスをじっと見つめながらも、エミリアは明るくにこやかな態度で言葉を発する。
「まあでも、魔王様が気にすることありませんよ? お父様も悪気があってやったわけじゃないでしょうし!」
この世に悪意があることを知らない様子で、エミリアは言い切るが、そんな彼女の言葉に説得力など一欠片もありはしない。
「にゃう! にゃにゃんにゃうにゃわフシャー! (いやいや待て! 悪気がないわけがないだろう! どう考えても俺を消そうとしているだろうが!)」
「いやいや! ちゃんと言質取りましたし! 魔王様と仲良くなりたいって言ってたのに、消そうとするわけないですよ!」
「にゃあ……(お前な……)」
ノクティスは盛大に溜め息を漏らすと、香箱座りをしながら熟考する。
(エクレアの父親が私を排除しようとしていることは分かった。しかし、それならばなぜ普通に討ち取って来いと言わなかったんだ? それに、魔力を枯渇させるのは本当に、俺を排除するためなのか?)
堂々巡りする思考の中で、ノクティスは突然ハッとした表情を浮かべ叫ぶ。
「にゃああああ!? (まさかお前の父親は、俺の魔力が枯渇すると、猫になることを知っていたのか!? そして、俺をオモチャにして、精神的に追い込む狙いがあったのか!?)」
「え~、魔王様ったら自意識過剰ですよ〜。お父様はそんな陰険なことしませんよ?」
そうクスクスと笑い声をあげるが、ふと何か思い出したらしい。パチンと軽く手を叩くとあっ! と声をあげて続ける。
「ただかなり昔、お父様の曾々々――数百年前くらいのおじい様が子供だった頃、猫の魔族さんを保護しちゃったらしくてですね! その猫魔族さんがどうやらお魚を盗んで去っちゃってとても激怒していた! というお話が!」
それを聞いた瞬間、ノクティスの目が点になった。
(あの少年はあれからもずっと、魚の件を恨んでいたということか? いや、意味がわからんのだが――どういうことだ? あっ、きっと気のせいだ。魚ごときでうん百年も……いやしかし、あの少年なら……)
そんな感じで彼の思考は深々と沈み込み、ますます混乱していく。その様子を見つめながらエミリアは呑気に笑うばかり。
「ま、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ〜。魔王様が悩んでもどうにもなりませんし、猫のままでも可愛いですし!」
「にゃあああああ! フシャー! (誰が好き好んで猫でいるか! お前は少し黙ってろ!)」
そう文句を連ねるが、エミリアはもぅ、魔王様メッ! ですよ? と、むすりと頬を膨らませノクティスをなでなでの刑に処するのだった。




