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魔王様は今日も暴走スパハニ幼女に|溺愛《お世話》されます。〜俺はそんなもの頼んでいない! もうほっといてくれ!〜  作者: 塵芥


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19話:魔王の代わりは抱き枕!?


 ニャクティスファンクラブの術式解読騒動が、思わぬ魔王城の活性化を引き起こしてから数日。


 未だ猫の姿から戻れないノクティスは、どんよりとした瞳でエミリアに抱えられながら、深い深い溜め息をついていた。


「うにゃあああ……(もう駄目だ……どうせ俺は一生猫のままだ……このまま猫として朽ちてゆく運命なのだ……)」


 そう絶望しきり全てを諦めようとしているノクティスに、エミリアはメッと注意を促した。


「も〜、魔王様ったらまたそんなに落ち込んで! 可愛いお顔が台無しですよ?」


「にゃうにゃにゃ! (元凶が何を言う!)」


 不満の声をあげるノクティスだが、エミリアはそんな彼の言葉など特に気にも留めず、周囲を見渡してニコリ。


「それにしても皆さん、最近は本当に楽しそうですね〜!」


 そんな彼女の視界に映るのは、カードの裏に描かれた術式を解読している魔族たち。


「この術式を解けば、次は限定版のニャクティスさま抱き枕が貰えるそうだ!」


「それならば次こそ絶対に俺が解いてやる!」


 当初予定されていたニャクティスを1時間愛でる特典は、彼が疲労困憊に陥り、再び毛玉をげぽけぽと吐き出してしまう自体に陥り断念。


 その代わりとして、用意された代替案がこの限定ニャクティス抱き枕。


 しかしノクティスは不満しか覚えない。


(お前らいい加減にしろ! 私はその妙なグッズを量産するために呪われているのではないぞ!)


 そんなノクティスの心の叫びは届くはずもなく、魔族たちは自ら進んで魔術式解読技術の向上をはかる上に、魔界経済の活性化に貢献し続けていた。


「にゃ、にゃにゃにゃにゃ。にゃあにゃんにゃん──(ああ、エクレア。そういえばなんだが──)」


「エクレアじゃなくてエミリアですよ?」


 ノクティスが話をしている最中、エミリアはさらりと修正を入れるのだが、それが気に入らない彼は思わず毛を逆立て威嚇気味に声を荒げる。


「フシャー! にゃにゃうにゃにゃ! (そんなことはどうでもいい! 貴様、結局なぜ私の城に来たのか話していないだろう!)」


 それを聞いたエミリアは、ポンと手を叩き思い出したように口を開く。


「あ〜! そういえば、魔王様が冷めた紅茶は不味いと言って、話が途中で終わっちゃいましたね!」


「うにゃあにゃう! (私の責任のように言うな! エクレアが忘れていたのが悪いのだろ!?)」


「まあまあ〜。えっと――実はですね〜」


 エミリアはそう言うと、懐かしげな表情を浮かべつつ語り始めた。


(お前、懐かしそうにしているが、私の元に来てまだ半年ほどしか経っていぞ!?)


 そんなツッコミを胸の内で留め、ノクティスは彼女の話に耳を傾けるのだった。


 ◇


「エミリア様、旦那様がお呼びでございます」


 広々とした敷地にあるとある一角で、エミリアは魔術の訓練をしてた。


 どれだけ高位魔法を放ったのか、その一角だけ草木は一切生えず、マグマのようにドロドロとした赤黒い塊がそこら辺で湯気を立たせている。


 エミリアは突然呼び出しを受け、少し首をかしげながらも素直に屋敷の中へと戻った。


 広々とした屋敷内。彼女はメイドに導かれながらスキップで書斎へと足を踏み入れる。


 そこには、難しい顔をした人物が、エミリアを待ち構えていた。


 その人物は眉間に皺を寄せてはいるが、色素が白く抜け落ちた髪は綺麗に整髪され、どこか優しく紳士的な雰囲気が漂っている。


 しかし、それは表の面。優しさの奥に見え隠れする、不穏な影がひっそりと顔をのぞかせているのだが――エミリアは一切気づかない。


「お父様、お呼びですか?」


 屈託のない笑顔でいつも通り明るく尋ねると、父と呼ばれる男は重々しく頷いた。


「ああ、エミリア。実はお前にしか頼めないことがあるのだ」


「はて? それは私に務まることなのでしょうか?」


 彼女が興味津々な顔で問いかけると、父親は一瞬だけ視線を泳がせた後、小さく咳払いし答える。


「エミリア、お前も猫魔族……いや、魔王ノクティス・ヴァレンシュタインを知っておるだろう?」


 ゆっくりと、しかし重々しく紡がれる言葉。その“魔王”という単語を聞いただけで、若干温度が下がって行くような気配を感じさせるが、エミリアは特に気にも留めずケロリと返事した。


「はい、心得ています! あの人間界にまったく害がない、と〜っても可愛い魔族さんですね!」


 満面の笑みで答える彼女は、もちろん父親をからかってやろうという気持ちは一切ない。無害で可愛い魔族と認識しているからそう答えたまでのこと。


 だが、父親は目を大きく見開き、ぱちくりと瞬かせると一瞬唖然とする。


「は? いや、そういうことではないんだが……まあ、いい。その魔王をとうば……いや、魔王と仲良くしたくてだな。是非彼のそばで世話を焼いてやってほしいのだ」


 父親は何度か言葉を詰まらせながらも、エミリアにこのとおりだと頼み込んだ。


「あ、そんなことですか? 分かりました!」


 父の深刻そうな態度とは反し、エミリアは気楽な表情で微笑みまで浮かべている。


 そして、彼女は思い立ったが吉日と言わんばかり、行動を移すのがとても早い。


「くれぐれも素性がバレないようにな。魔王は決して甘く見てはいけない存在なのだぞ?」


 そう父が注意を促している時には、既に書斎を去っており、ピクニックにでも行くように準備を整え、魔王城へルンルン気分で向かっている最中。


 そんな哀れな父親に、傍で待機していたメイドが冷静な態度で口を開く。


「旦那様、申し上げにくいのですが――エミリア様は、すでに魔王城へと向かわれました」


 そう冷たく指摘され、父は盛大な声で叫びを上げる。


「な、なにぃぃぃぃ!?」


 父親の絶叫が響く中、エミリアはビューンッと風を切り、人間界から魔界へと一直線。


「……? なにか聞こえた気が……。ま、気のせいですよね! 引きこもりの可愛い可愛い魔王様♪ 私が人間の良さをたっぷりと教えて差し上げますね〜!」


 その声は楽しげで、しかし不穏な気配をたっぷりと含んでいたのだった。

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