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9:魔王、ふわもこになる。


 突然の猫化という予想外の事態を受け、森でのお散歩はすぐさま中断。ノクティスたちは魔王城へ戻るなり、身体に異常がないか――エミリアが調べると言い始めた。


「さて、魔王様? 魔力などを調べますね?」


「にゃあ! (任せた。隅々まで調べ、どうなっているのか教えろ!)」


「では、まずはお風呂に入りましょうか?」


 エミリアはそう言うと同時に、ノクティスへと腕を伸ばす。


「は? いや、魔力を調べるのに、なぜ風呂に入る必要がある?」


「うーん――そうですね〜。お風呂は命の源ですから!」


「どういうことだ!?」


「は〜い。じゃあお風呂行きましょうね〜!」


 そう言って、彼女はノクティスを優しく抱きかかえる。だが、いつもは平気な風呂だというのに、この時ばかりはなぜか嫌な予感がして、彼は必死に抵抗を試みる。


「にゃああああ!? フシャー! (おい待て、私に触るな! お前、良からぬことを企んでいるだろ!? 離せ、離せぇぇぇ!)」


 だか結局のところ、彼女から逃げることは叶わず……。機嫌良さそうに連れ出されてしまった。


 その道中、廊下でばったりと部下である魔族に出くわしてしまう。


「ごきげんよう、エミリア様。そちらの猫は?」


 声をかけてきたのは、ウェアリザードのようなトカゲの魔族。


「あ〜この子はまお……」


「にゃ! (おい、お前は何を言おうとしている!?)」


 その質問に、エミリアは平然とした顔で正直に答えようとしたのだが――ノクティスがすぐさま勘づき、ペシペシと彼女の身体を前足で叩く。


 それだけで何を言いたいのか理解したエミリアは、にこりと微笑むと、さらりと嘘をつく。


「帰る途中に拾ってきたんです!」


「あ〜そうなんですね! 可愛いですよね、猫! でも気をつけてくださいよ? 魔王様は無類の猫嫌いなので! その子を見つけると、八つ裂きにしちゃうかもしれません!」


「え〜!? 魔王様って猫が嫌いなんですか!?」


 エミリアはひどく驚いた様子で、声をあげ――なにか含みのある視線を彼へと向ける。


(こいつ……なにか企んでいるな……)


 ノクティスはそれを薄々感じながらも、好奇のようななんとも言えない視線が痛い。


「にゃ!? にゃあ!! (そんな目で見るな! 猫などいけ好かんのだ!)」


 バツが悪そうに顔を逸らし言い訳を連ねるのだが、エミリアはくすりと笑うだけ。


「じゃあ魔王様には秘密にしておいて下さいね?」


 そんな彼女に、トカゲの魔族は言葉を詰まらせた。


「も、もちろん! ですが……」


「バレた時はこっちで対処するので心配ご無用ですよ?」


「ホッ――あっ、私猫好きなんですけど、触ってもいいですか?」


「どうぞどうぞ〜!」


「シャー! (触るな! その汚らわしい手、噛みちぎってやるぞ!)」


 そう言って、威嚇するノクティス。トカゲはご機嫌ななめですね……。と苦笑しながらも、彼を触ることは断念。少し残念そうに、彼女と別れるのだった。


 そんなトカゲの背中が見えなくなった頃、エミリアはまるでなにかの悪戯を思いついたようにニマリ。


「魔王様は猫がお嫌いと……ふ〜ん?」


「にゃあ!? (お前、やはりなにか良からぬことを企んでいたな!?)」


 ノクティスは嫌な予感を覚えイカ耳で抗議の声を上げるが、その言葉は彼女には届かない。エミリアはノクティスに顔を近づけると、耳元で小さく囁いた。


「ふふっ。魔王様、安心してください? 私が猫ちゃんの良いところをた〜っぷり教えてあげますね?」


 その瞬間、彼の背中にぞわりとした悪寒が走り、思わずぷにぷにの肉球で彼女の頬を叩いてしまう。


 だが、ぷにぷにの肉球は癒されはするが凶器にはなり得ない。


 エミリアは彼の手を優しく掴むと、肉球に鼻をつけ思いっきり匂いを吸い込んだ。


「う〜ん、いい匂いですね!」


「にゃああああああ! (やめろ! 匂いを嗅ぐなこの変態が! お前はなぜそんなことを平然とできるんだ!?)」


 ジタバタともがきエミリアに反発してみせるが、出てくるのは猫特有の愛らしい鳴き声。必死の抵抗などまったく伝わらない。


「魔王様、大人しくしていないと手が滑って落としてしまうかもしれませんよ? そして、魔王様が猫化してるって口が滑っちゃうかもしれませんね?」


「にゃああ……(ぐぬぬ……)」


 脅しのような言葉に、さすがのノクティスも逆らえない。猫化してしまったとバレれば恥でしかないと言わんばかりに彼は瞬時に大人しくなった。


 しかし、不満しかないのだろう。しっぽをパタン、パタンと揺らしながら、ムスリと不快そうな表情を浮かべるのだった。


 ◇


 風呂場に着いたエミリアとノクティス。しかし、そこでも一悶着が起きてしまう。


「シャアー! (やめろ、なんだその手は! 俺を焼いて食べる気か!?)」


「もう~、食べちゃいたいくらい可愛いですけど食べませんよ〜。ちゃんと洗って綺麗にしないと原因も分かんないんですから、じっとしててください!」


「にゃにゃにゃ! (綺麗にするのと魔力を調べるのに、なんの因果関係があるんだ!? 触るなと言っているだろう!)」


 必死に毛を逆立て威嚇するが、彼女はノクティスの抗議を無視して浅く張った湯船に彼の体をそっと浸す。


「にゃっ!? (熱っ!?)」


「あ、ごめんなさい。猫の姿になると、お湯の温度にも敏感になるんですね~」


 エミリアはそう言うと、すぐさま適温に調整し、彼の体を再び浸した。


 最初こそ暴れ回っていたノクティス。


 しかし、次第に湯の気持ちよさを感じてきてしまったらしい。無意識のうちに緊張が解れて力が抜けていく。


(くそっ……なんだこの感覚は……。妙に落ち着くではないか……っ!)


 不覚にも湯船の温かさに目を細める彼。


 その隙にエミリアは猫用のシャンプーを泡立て、彼の被毛に馴染ませていく。


 どこかピリピリとする感覚。しかし、それが妙に心地よい。


「にゃにゃ……にゃっ……にゃあ……(や、やめろ……やめ、はあ……)」


 威嚇するように鳴いていたノクティスも、気づけばエミリアの器用な指さばきによって、最終的にはうっとりとした表情に変わっていく。


(だめだ、この女の手つきが妙に気持ち良すぎる……)


「ふふっ、魔王様がリラックスしてくれてよかったです~。シャンプーはこれで終わりですね!」


 シャンプーが終わると、抵抗する隙も与えられず、肌触りの良いシルクのタオルで体を拭き取られ、ノクティスはふわふわの毛並みをさらけ出すことに。


「うわぁ~! 魔王様、とってもふわふわで可愛いですねぇ~!」


「シャーッ!(可愛いと言うな! 私は魔王だぞ!?)」


「そうですね~。魔王様はとっても強くて恐ろしくて今は愛らしい猫様ですよ~」


「にゃっ! (そうだ! 私は強くて誇り高き魔王なのだ! ってちがあああう! 私は魔王だ!)」


 一瞬、肯定しつつ即座にツッコミを入れながらも、これで解放されると思いきや――


「さぁ、次はブラッシングですよ~!」


「にゃぁっ!? (ま、まだやるつもりなのか!?)」


 彼女は猫用ブラシを手に取り、彼の背中に優しくあて、ブラッシングをし始めた。


「にゃにゃんにゃ! (やめろ! 私に触れるな! そのブラシを今すぐどこかへやれ!)」


 抗議を続けるノクティス。しかし、滑らかな櫛が毛並みを整えるたび、彼の中で何かが崩れていく。


「にゃ、にゃん……にゃあ……(くっ……そこ、そこだ……いや、そこじゃない……)」


「魔王様、随分と気持ちよさそうですね~。それにしても、やっぱり魔力が感じられないですね。魔力が封じられているんですかね?」


 エミリアはさりげなく、ブラッシングを続けながらノクティスの身体を調べていたらしい。


 だが、今のノクティスからすればそれどころではない。


「シャーッ! (触るなこの変態が! どこを触っている!? 私の腹を撫でるな!)」


「あはは、魔王様ったらお腹弱いんですか~? 可愛いですねぇ~!」


「にゃ、シャーッ! にゃあ……(だから可愛いと言うな! これでは俺の威厳が……)」


しかし、次第にノクティスも抵抗が無駄だと悟ったらしい。


(はあ……もういい。どうせ何を言っても無駄だ。ええい! どうにでもなれ!)


 半ば投げやりに腹を見せると、不本意にもゴロゴロと喉が鳴り始めてしまう。


 それを聞いたエミリアは可愛いですね〜! と一言、楽しげに笑いながらブラッシングをするのだった。


明日も20:00頃に更新予定です!


よろしくお願いいたします!

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