BA5C-3624-sの日常
よろしくおねがいします。
無限に続くように見えるこの宇宙にも人々の縄張りがあり領土がある。帝国領は広く、暗礁領域を除く全ての領域には国家防衛軍の製造プラントとコロニーが存在する。
各宇宙域には少なくとも3〜10個のテラフォーミングされた惑星が存在し、それらを防衛するための防衛軍のプラントが資源を兵器へと転用し、コロニーでは兵隊が「生育」されている。
そんなプラントやコロニーはもはや空のキラメキの一つ。
広大な帝国領の第78宇宙域にある哨戒空域では周辺諸国との小競り合いが日々続いていた。
BA5C-3624-cは巧みに溶接された岩石群の中心で巨大な砲身を微調整しながら狙いを定める。
加速した実体弾は短期ワープに入り打ち出された瞬間に消滅する。
そこから1〜2分ほど経ってから先ほど打ち出された方向にきらめきが連鎖する。
狙撃特化型と言われているものの打ち出されているのは自動追尾式の縮退弾頭で短距離ワープ制御付きのしろものだ。
約2000万キロ先にある敵性国家の航空母艦に対して放たれたそれは半径2キロほどの物体を消滅させるこの宇宙時代には少々小振りな破壊兵器であるが、このように戦時下に帝国海域内に領海侵犯を画策する艦隊の航行計画に打撃を与えるには十分な威力である。
明滅する爆発光から処理が行われた画像とAIが算出した生成画像が言うところによると母艦と補給艦数隻が被害を受けたように見える。補給艦からは流れ出した物資と弾薬に誘爆し主力艦隊にも被害が出ているように見える。
こうして少しでも敵の足を鈍らせ、帝国領土への到達を鈍らせるのがBA5C-3624-sの任務だった。
「本国への報告をNF_70」
「はい、マスター」
腕を組みながらモニターに映る戦果の解析結果を見据える男と
その後ろで操作を行う女は事務的な会話を済ませる。
本部から通知が届く。
内容は大きく分けて3つ。
・報告の受理をしたという旨の記載。
・打撃後の敵部隊の動向の監視と追撃指示。
・1週間後に到着する交代要員連絡と同時に補給整備のためのプラントへの一時帰投指示。
だった。
再度砲塔へアクセスを行うBA5Cを中心にして100キロ四方にロボットポットが同じ方向をみて漂っている。
それらを量子通信でリアルタイムで制御することで200キロ四方の巨大なレンズのようにして情報を処理し、実に約2000万キロを超えて敵性国家の艦隊を監視しているのである。
「FN_70第二射用意」
「はい」
射出体制に入るBA5C。
「いつでもいけます。」
「よし」
次の瞬間先程の工程を経て、敵戦艦群の大型艦が1つ消滅する。
AIが戦果を報告する。
「敵大型艦が誘爆しています。
防御陣形を取っていた戦闘艦が幾つか巻き込まれ
本部想定の112%の損耗率を確認。
以降の監視業務を引き継ぎます。」
男は分かった。といってモニタ横のパネルを触り自立モードに切り替える。
「哨戒、打撃作戦終了。以降をAIへ委任し休息を取る。交信終わり」
シートに体を固定するベルトを外し、浮き上がる体を手で制しながら居住ブロックへ2人は進む。
「おつかれさまでした、マスター」
「あぁ」
二人は重力制御が切られたコックピットからハッチを抜けて
重力制御化にあるバックパックブロックへ入った。
そこには寝床や生活用品、食料などが置かれている。
もとは弾薬や部品類、とりわけ予備のロボットポットの機材などを格納するためのスペースを長期哨戒任務用に改修を行ったのが本機体となっている。
このような運用は珍しく、辺境であっても大体は小型の輸送艇を母艦として改修したもの、もしくは攻撃艇に増築を施した艦を主軸に5機ほど編隊を組んで哨戒任務に当たる事が通例である。
辺境の小競り合いも1年の間に敵影を見れば多い方。
チームで数ヶ月をともにし、家族のようなあるいは兄弟のような絆の中で平和な辺境哨戒任務を過ごすのである。
だが、このBA5C-3624-cにはそのような賑やかなコミュニケーションは存在しない。
ただ浮遊する1機のBA5Cに1人のパイロットとオペレータが存在しているのみである。
ありがとうございます