第1話 曇りは始まり
─これは、ある独りの高校生の、最初で最後の物語─
「……また今日が始まった…高校行きたくないなぁ…」
僕はそう思いながら体を起こす。うざったい目覚ましを止めたのだが、僕の体はまだまだ寝足りないようだ。ベッドの眠気の魔の手が僕の体を掴んで放さない。
少し悩んだ後、もうちょっと寝ようかと考えた矢先
「電車の時間、間にあう?」
嫌な声が聞こえた。母親の声だ。
「……………」
その声を完全に無視しながら、僕は学校に行く準備を始める。時間がないので朝ごはんは質素な食パンだけで済まし、歯磨き、髭剃りを済まし、服装を整えた後色々な荷物をバッグに詰め込み、そして天気予報を見る。
「今日は金曜日ですが、残念ながら空模様はあまり良くなく、曇り時々雨の予報です。傘の準備を忘れずにしましょう。」
雨か、面倒臭いな。そう思って玄関に行き、靴を履く。
「そらくんおはよう。行ってらっしゃい。」
弟の声だ。そういえば僕は弟に名前呼びされているが、よく考えたら弟に名前で呼ばれてるのって異質だよなと感じながら、行ってくるとだけ応えて玄関を出て、自転車に飛び乗る。
田舎道を颯爽と自転車で駆け抜けるのは少し気分が良い。万緑の葉桜や農作業の光景に目を奪われ、自然の良さを堪能する。あとは天気が晴れなら完璧なのになぁ。
そうこう思っている内に駅についてしまった。
この駅は終点で一応有人駅だが、決して利用者も多くない。しかし、電車には途中の各停車駅で大量の人が乗り込んできて、いつも人間の群れと比喩できるぐらいの人間の渦ができる。僕は毎日窓際でその渦に押しつぶされていた。今日で今週最後の満員電車だから頑張ろうと極微量の鼓舞をして電車に乗り込む。まぁ、案の定今日もヘトヘトになるぐらいぎゅうぎゅうだったのだが。
精神を削られながらも目的の駅に着いた後、再び自転車で高校に向かった。僕は自転車から電車から自転車という中々にハードな登下校を行っているのだが、それは、僕の住む田舎には十分に勉強できるような高校はなく、ある程度、もしくはそれ以上の難関大学に進学するためには、市内の高校に通う必要があったためだ。お陰で足腰の筋肉はついたと思うが、この登下校はやはり面倒臭い。高校生でも車の免許とれないのかな…。そう思い、今日も1時間ちょっと時間をかけて高校にたどり着いたのだった。