第8章
彼らのフェアチャイルド機は、雲の中に入ったとたん、はげしい乱気流に巻き込まれ、二度も『エア・ポケット』に落ちた。
それによって、急激に高度を失ったのである。
ラグラーラ中佐は、『ベルト着用』のサインを出した。
スチュアードのラミレスが、乗客に、「すこし踊りますよ。」と、冗談めかしていった。
飛行機はこの間、40キロメートルを飛ぶのに、6分もかかっている。
3時30分。
ラグラーラはサンチアゴ管制塔に、『現在、高度4500メートル、なお下降中』と報告した。
・・・雲に囲まれていて、まだ実際の位置に気づかなかったのである。
しかし数秒後。
とつぜん、ラグラーラは、目の前に雪と岩の壁を見た。
彼は、あわてて操縦桿を引き、全速で機を上昇させようとしたが間に合わなかった。
するとそのとき。
コンピューターによれば、百万分の一の確率でしか実現しないことが起こった。
ふつうの場合、山にぶつかれば、飛行機は一瞬にしてバラバラになる。
・・・だが、このときはそうならなかった。
まず、『右翼』が岩に当たって外れ、プロペラも地面をこすって、跳ね飛んだ。
機体は雪に突っ込み、そのまま、急な傾斜を『ソリ』のように滑降した。
最初は、時速300キロもあったが、雪がブレーキになって、ソフトに減速されたのである。
やわらかな深い雪がそこにあったから助かったのだ。
機体はこうして、2キロほども滑っていったが・・・途中に岩などがなかったのも幸運である。
機体が静止したとき、四十五人のうち、死者十七人、怪我をしている者多数であった。
衝突のときのものすごい音のあと、不気味な静寂がおとずれた。
生き残った二十八人は、痛みをこらえながら、呆然としたり、おびえたりしていた。
・・・彼らは、地上で最も恐ろしく、同時に、最も美しいところにいたのである。