第22章
「・・・私はここで、どんな気持ちになるか、覚悟してきました。
人にも前もって言われましたし、自分でも何百回も考えてみたことです。
・・・しかし実際は、どんな『悪夢』よりも悲惨な現実でした。
私は、サン・フェルナンドで生存者がいたと知らされた瞬間から、このことは察していたのです。
こんなところに置かれたら、生きるためには、食べられるものは、ほかに無いのですから・・・。
セ・プルペタ長官は、『宗教的に考えるように。』と言ってくださったけれども、私は彼らが信仰だけで飢えをしのいだなどとは、最初から信じませんでした。
・・・あとで、息子の仲間たちと話してみて、彼らの口から真相を聞いたのです。
還らなかった人たちの親族はみな、私と同じ思いでしょうが・・・私はその話を聞きながら、息子が『二度目の死の宣告』を受けたように感じました。
それは、一度目の死よりもっと残酷で・・・『取り返しのつかないもの』として、私の胸に迫ったのです。
ほかの親たちと同様に、私も『恐怖』を克服し、事実を理解し、受け入れようと努力しました。
・・・彼らが人肉を食べようと決心するのは、容易ではなかったことも、よくわかります。
そうするためには彼らも、大きな犠牲を払わなければならなかったのです。
私の息子も、『生きるために、遠慮や嫌悪を捨てるべきだ。』と言っていたそうです。
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・・・真相は、こうです。
いちばん最初は、医学部の学生だったロベルト・カネッサがみんなに、『人肉を食べないと数日以内に、たんぱく質の不足で死ぬ』と説明したのです。
しかし、カネッサ自身は最初、死体を切り刻む作業に参加できませんでした。
それを実行できたのは、いとこどうしの『フィート・ストラウチ』、『エトワルド・ストラウチ』と、『ダニエル・フェルナンデス』の三人です。
彼らは、友の死体を掘り起こし、ときとして目をつぶって筋肉を切り取りました。
彼らが大きく切り取った肉片を、他の青年たちが受け取って細く切り、日に干して乾かしました。
最初は筋肉だけ食べたのですが・・・あとになって、肝臓や心臓、腎臓、脳や腸まで食べたそうです。
・・・救援がきたとき、彼らは、『肺臓』を食べはじめるところでした。
彼らは、それこそ、遠慮や良心の呵責、後悔などと闘って、克服しなければならなかったのです。
彼らは・・・苦しみ、悩みました。
いまでも、そのことのために苦しみ、悩んでいます。
『ヌーマ・トゥルカッチ』などは、どうしても食べられなくて『飢え死に』しかかったので、みんなが口に押し込んで、強制的に食べさせた、ということです・・・。」




