第1章
・・・話は、事故の数年前にさかのぼる。
ところも、アンデスからずっと離れた『ウルグアイ』。
アルゼンチンとブラジルという、巨大国にはさまれ、小さいが、平和で文化的な国。
見渡す限り平野で、牧畜が盛んである。
・・・山は、ぜんぜん無い。
その首都の『モンテビデオ』。
ここに住む上流社会の人たちが、子供たちに、厳格なカトリックの教育を受けさせたいと考えて、1950年代に、アイルランドから、厳しい戒律と修行をもって知られる、『クリスチャン・ブラザーズ』という集団の僧たちを招いた。
その『ブラザーズ』が、『ステラ・マリス大学』を創立したのである。
事故機に乗っていた若者たちは、ほとんどが、この大学で鍛えられ、成長した。
彼らは、この大学の運動場で、クリスチャン・ブラザーズがもたらした一番はげしいスポーツ・・・すなわち、『ラグビー』を学んだ。
南米では、どの国もサッカーが、熱狂的人気を集めている。
・・・だから、彼らの『ラグビー』は、目立った。
そして、それによって養われた『敢闘精神』は、親たちの地位と財産のうしろだてとともに、将来、彼らを全員、国のトップクラスに押し上げるはずであった。
この大学の卒業生たちが中心になって、『オールド・クリスチャン倶楽部』をつくり、毎週、日曜日の午後に、OBや在校生が集まって、ラグビーの練習をするようになった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
周囲を緑の林に囲まれた、閑静なレストラン。
・・・ここは、『オールド・クリスチャン倶楽部』の部員たちが、試合や練習のあとなどに、よく、飲んだり会食したりした場所である。
彼らはしばしば、フィアンセを連れてきた。
ここで彼らは、いつも楽しく談笑していたから、チリのサンチアゴに遠征に行こうと相談をしたのも、ここだったかもしれない。
サンチアゴの、ある大学のラグビー倶楽部から、招待がきていた。
モンテビデオからサンチアゴは遠いので、彼らは飛行機で行くことにしたのである。