第16章
「・・・私たちがアンデスに入ってから、ほぼ一週間になりました。
ガイドのグアハルトは、あと三日で、事故現場に着くと言っています。
私たちは装備も良く、しかも、いちばんいい時期を選んで登っているのに、進み方は遅く、歩行は困難を極めました。」
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生存者たちは、『仕事』のあと、狭い機体の中で話し合ったり、救助されたら食べたいと思うものを数えあげたり、思い出をたぐったりして過ごした。
中には、遺書のつもりで、家族に宛てた手紙を書く者もいた。
カルロス・ミゲル・パエスが、事故の十日後、母親宛に書いた手紙を、ここで紹介してみよう。
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「・・・お母さん。いまの僕は、元気がなくて、よく書けませんが、ただ・・・誰よりもお母さんがなつかしいので書いています。 お母さんがそばにいてくれたらなと思います。
ダチ公がいるから、まだなぐさめられます。『ダチ公』って言葉を、お母さんは嫌いでしたね。仲のいい連中、みんな元気ですよ。
・・・だんだん、腹がへってきました。お母さんが、金曜日ごとにつくってくれたご馳走がなつかしいです。
残念ながら今日、僕たちは、トランジスタラジオで、捜索が打ち切られたことを知りました。
でも、生存者二十八人、希望を捨てないでがんばっています。ラグビー精神と神の御恵みによって、僕たちはきっと、このいまいましいアンデスから脱出できるでしょう。
もしそうでなくて、最悪の事態が起こったときのために、僕は前もって、僕や妹たちにしてくださったことを感謝しておきます。
・・・お世話になりました。あなたほどいい母親がいるとは思えません。
いま、僕は、お母さんをひと目見たくて泣いています。お父さんにも、妹たちにも会いたいと思います。
・・・いろんなことを、なつかしく思い出します。妹たちが服を取り合ってケンカしたことやなんかまで。
お母さんたちも、きっと僕のために、つらい思いをしているでしょう。お母さんにもらった、ロザリオが役に立っています。僕の誕生日は、みんなで楽しく祝ってください。僕がみんなといっしょにいなくても、神の御許にいると思ってくださればいいのです。
・・・うまい文章が書けなくて、すみません。悲しくて、いい言葉が出ないのです。
あなたを心から愛する息子、カルロス・ミゲルより」




