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エッシャーの城>>報酬>>3

 見た目通り、中の部品も殆どが使えなくなっていた。もはや修理前の点検ではなく、廃車後の物色だ。ボルトやバルブ、プラグなどの細々とした部品の小分けが終わると、アレクは弾痕だらけのカウルを見下ろした。

「古い車種らしいけど、まだ生産続いてるのか……?」

 手元に残ったのは、流用の利く部品ばかりだ。貴重なのも不可欠なのも、固有のフレームやカウルだというのに。油染みた軍手で口を覆い、青ざめるアレク。視界の端でブーツが立ち止まり、穏やかに答えを教えた。

「終了してるよ。その代わり、中古の部品が沢山出回ってる」

 汎走機初の量産車であるサルーキは、運用上の大きな欠陥を抱えていた。サルーキはあくまで市街地での非対称戦闘を念頭に置いたモデルであり、本格的な対戦車戦闘に堪えるだけの火器を積載、官制する能力は持っていなかったのだ。ガントラックや偵察車両の更新も兼ねてソ連全域への配備が進められた後、僅か5年でより大型の後継車種がロールアウトしている。

「そういうわけで、交換部品に心配はないよ。現役の車体も少ないしね」

 話が終わって立ち去る前に、班長はもう一つだけ言い残した。

「この後、ホールで祝勝会があるって」

 二人は歓声をあげ、大急ぎで廃材を片付けた。せっかくのパーティーに、この格好で出かける道理はない。自室に戻ってシャワーを浴び、アレクは着替えてハンガーに戻って来た。現場に人影はなく、シャッターの隣に開いた緑色の勝手口から淡いざわめきが聞こえてくる。扉の隙間からホールを覗いてみると、そこは既に会場と化していた。

「あー、来た来た。皆、アレクだよー」

 目ざとくアレクを見つけ出し、アグラーヤはこちらを射指さした。レフ達も手を挙げ、彼女の後についてくる。

「ラーニャ、凄い盛り上がりようだな」

 バザールの時と違い露店が出ているわけではないが、ホールにはテーブルがひしめき、仲間達が話に花を咲かせている。知り合いを探そうと会場を見渡していると、ドルマンスリーブを背中で重ね、タチアナが体を前に乗り出した。

「どっか、皆で座れるトコ探さない? アレクもお腹減ってるでしょ?」

 オハの研究所が見つかって以来、いつもの面子に加わることもめっきり減ってしまっていた。アレクが根を詰めている間、どんなことがあったのか、聞くことも話すことも、本当に山ほど溜まっている。

 ところが座席探しは、始まる前に取り上げられてしまった。

「ちょい待ち、さっき親方が探してたぜぇ。何かアレク君に、話があるみたいよ」

 ニコライの呼び出しが、これまで世間話に終わった例はない。レフに首を抱えこまれ、アレクは青白い泣き言を漏らした。

「せっかく終わったのに、また仕事が増えるのか?」

 それも今度は、飲んで騒いで眠って起きた暁に、全てが丸く収まっているかもしれないのだ。羽を伸ばす機会を返上してまで、一体何をする必要があるというのだろう。

「ご愁傷さま~~」

 萎れた背中でアグラーヤの声援を受け取り、アレクは首領の下へ向かった。会場の奥には工事用の足場で組んだ急ごしらえのステージが広がり、実働部隊の面々がその脇に陣取っている。その中でもひと際凄みのある大男が、声をかけるまでもなく立ち上がって手招きした。

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