表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/172

エッシャーの城>>闘争>>6

「3時の方向、お待ちかねのヘリだ」

 機種不明のヘリが5機。無線を通して、張り詰めた熱が伝わってくる。

「ジャミング開始、消防隊に紛れ込め!」

 幸い消防隊は、採掘場内に前進していた。機銃轟く火の海に、自ら飛び込もうというのである。夜空にたなびく、消火剤の白い帯。エンジンが吸い込まないよう、イワンは全速力でかいくぐった。赤外線ジャマーのお陰で、ミサイルの狙いは定まらない。このまま対地攻撃を行えば、半分以上は消防隊に当たってしまう。

「中央の機体からだ。バトゥ、お前が撃て」

 了解。応答とほぼ同時に、消防車の陰から光が飛び立った。誘導弾の筆致には、微塵のためらいも狂いもない。夜空の上に突きささり、一筆書きに赤い炎を引いた。一度見えなくなった後に櫓の根元で再び砕け、轟きとともに膨れ上がる、炎。消防車から集中砲火を受けても、一向に収まる気配がない。

「ハズレか。お前ら、もうミサイルは使うなよ」

 編隊を組みなおし、残ったヘリは消火剤の散布を始めた。ミサイルが一本無駄になったが、ここは素直に命拾いを喜ぶべきだろう。どれだけ上手くやったとしても、攻撃ヘリが相手ではこちらも無傷で帰れまい。大惨事を前に喧騒が広がる中、突入組から無線が入った。

「こ……エカチェリ……病棟の……したわ……順調よ……されずに……」

 相変わらず電波は悪いが、順調の一語が聞こえれば十分だ。ニコライは陽動部隊に、迷わず撤収を命じた。

「よし、ここはもう用済みだ。切り上げるぞ!」

 集油管も炎に包まれつつあり、消火は後手に回っている。ケツまくるにも、早いにこしたことはねえ。撤収を命じられ、森の方へと頭を向ける猟犬たち。それでもイワンには、もう一つだけ片付けておかなければならないものがあった。

 炎を纏った採掘場の奥、オレンジ色の巨大なブイが、夜の中に浮かんでいる。採掘した原油をまとめておくための、貯蔵タンクだ。サルーキごとタンクに向き直り、イワンは背中の対物ライフルを風防の凹みにかけた。凡そにして1200m。強装弾なら、届かない距離ではない。目盛りは上から3本目、コッキングレバーを引き、トリガーに指をかける。煙を引っ張る横風が僅かに途切れる一瞬を、イワンは待ち構えた。5秒、10秒、15秒。遠ざかるボルゾイのエンジン音。構わずスコープを覗き続けていると、やがてふと黒煙が身をくねらせた。

 今だ。指にトリガーが食い込み、機械のかかる衝撃が根元から跳ね返って来た。マズルブレーキから放たれた光と、エアダンパーを突き抜ける衝撃。耳を塞ぐ銃声と入れ替わりに、燃え上がる親タンクと、左肩の痺れが浮かび上がってくる。

「タンクの破壊に成功。本隊に合流する」

 これ以上ない駄目押しだ。貯蔵タンクが炎上した今、消防隊に山火事を防ぐ余力はない。駐屯地の地上部隊は避難誘導に、近接支援隊は山火事の相手に追われることになる。焼け石に水を注ぐ消防隊を横目に、イワンは仲間の下へ向かった。増槽にも、まだ少し燃料が残っている。山を越え、撤収するには十分だろう。薄闇を裂き、木々を掠めるガスタービンの咆哮。山火事を迂回し、斜面を登り始めると、消防車のサイレンが消え入り、作戦の終わりが見えてきた。後はこのまま、峠を越えるだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ