エッシャーの城>>闘争>>4
扉の場所が変わったのは、人間関係のせいだとカルラは言っていた。ノンナたちの下からレフたちのところへと、アレクは流れてきたのだろうか。弧を描いた廊下を進みながら、アレクは扉を見比べた。このあたりの扉がレフやラーニャのものだとすれば、その先に整備班の面々、コルレルやニコライの扉が続き、隊員達の扉はさらにその外側ということになる。藪蛇をつつかぬよう少し離れた扉を選んで、アレクはノブに手をかけた。ところどころペンキの剥がれた、錆だらけの取っ手。ドアが開くにつれて隙間から冷い風があふれ出し、ゆっくりとアレクを包み込んだ。
「……ちらモーゼス。火災は順調に拡大中。州道まであと5kmってとこっす」
アレクの手元に、ざら付いた無線が灯った。ここまでは予定通り作戦が進行しているようだ。他の隊員からも次々に連絡が入り、放火の成功が告げられた。アレクの持ち場も既に炎に包まれ、松の枝葉が爆ぜる乾いた音が聞こえてくる。熱い霧雨が陸風に乗り、夜を木立の奥へと追いやっていくのをアレクは汗を拭いながら見つめた。
「こちらイワン。延焼を確認。あと2km程で採掘場に到達する」
どうやらこれは、イワンの扉のようだ。多少離れた扉を選んだのが、功を奏したということか。汗ばんだグリップを押し込み、イワンはサルーキを少し歩かせた。ボルゾイよりも小柄な車体は、ガスタービン特有の鋭い音を響かせる。
「少し、早すぎるかもしれねぇな」
予定より発見が早まれば、襲撃と協力者の到着がずれてしまう。イワンは梢の隙間から熱帯夜を見上げ、遠吠えの中からサイレンを拾おうとした。数キロ先では、採掘場のガスフレアが妙に大きくたなびいている。一人目の通報者は、恐らくあそこから出るだろう。
「今更止めらんだろう。突入も同じだ。連中が騒ぎ出してからでは遅い」
木々の間に敷き詰められた長い松葉の絨毯を、じりじりと炎が塗り替えてゆく。ここも潮時だ。押し寄せる熱と煙を避け、イワンは再びサルーキを進めた。赤く照らされた土の上には梢と煙の影が渦巻き、風に合わせて揺らいでいる。
「ま――あく――かし――で待てば――じゃ――」
場所が離れているせいだろう。エカチェリーナの返事は、半分以上砂に埋もれている。
「しっ……来ましたぜ、姐さん」
聞きつけたのは、一番南を担当しているバトゥだ。ほどなくしてイワンの下にも、火の粉を散らす木々を飛び越え、サイレンの音が届いた。数台の消防車が、市街地から近づいてくる。
「こちら――班。と――開――!」
これで後は、見つからぬよう撤収するだけだ。西側の丘を登り、反対側で州道に出る。右手を引き、サルーキを回頭させようとしたその時、焼け落ちた枝が地面に当たって砕け、松葉が赤い尾を引いて散らばった。風だ。僅かに遅れて、迷彩服が足に張り付く。
「ニコライ、まずいことになったぞ」
頭上を火の粉が、右手に向かって飛んでいる。今回の作戦目標、オハ国立擁護センターの方向だ。




