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エッシャーの城>>指向>>5

 翌日、アレクとイワンはニコライに呼び出された。アレクは内側から、イワンは外側から。施設の構造と警備態勢、周辺の地理を調査し、襲撃、逃走ルートと段取りを策定する。イワンは準備が整い次第、サハリンに発つ運びとなった。アレクも偵察に力を入れることが決まり、空いた時間のすべてを注ぎ込んだ。


「それで、毎日昼寝してるってワケ?」

 レフはコードのビニールを切り取り、段ボール箱に放り込んだ。

「ああ、休んでるわけじゃないぞ。念のため」

 ボルトに巻きつけた銅線をワッシャーで押さえ、6ミリのレンチでナットを締め上げる。アレクは額を手の甲で拭い、大きく息をついた。これで残るは4セットだ。油圧系統が複雑だということは、それだけバルブの制御が複雑だということでもある。この右前脚だけで、20基近くのサーボモーターをチェックしなくてはならない。

「しっかし、よくそんなに寝られるもんだねぇ」

 睡眠時間がアレクより長いのは、それこそ赤ん坊と病人くらいのものだ。

「最近コツがつかめてきたんだ。速く寝付く方法、コルレル先生に教わってさ」

 コンクリートの上に胡坐をかき、アレクは静かに目を閉じた。ハンガーに満ちた細かい金属の音、軽くて硬い、オイルの匂い。空気が沁みこむ度、体が膨らみ、また縮んでいくのが分かった。寄せては引き、寄せては引き、少しずつ眠りに沈んでゆく。

「おいおいおいおい、まだ寝ちゃ駄目だよ、アレクくぅん!」

 レフに揺すり起こされ、アレクはいつものハンガーへと浮かび上がった。

「とまあ、こんな感じだ」

 今日中に足を組まなければ、明後日の演習には間に合わない。欠伸を噛み殺し、アレクは作業に戻った。コードを接続し終わった後にも、まだカウルの取りつけが残っている。隙間から手を回し、裏側からボルトを差さなくてはならない難敵だ。案の定カウルの内側にボルトを落とし、他のペアに遅れること10分、二人は漸く脚を仕上げ、煤けたツナギを脱ぐことができた。

 以前は仕事があがるとその足で店に寄ったものだが、今のアレクにそんな暇はない。屋台で惣菜を買って帰り、部屋に戻ってかき込み、シャワーを浴びて横になる。エッシャーの城に、そして擁護センターに帰ることが、最優先になっていた。

 ニコライのリクエストは、施設内の見取り図だ。研究員を見張る中で、擁護センターの概形はある程度掴めていた。彼らが3,4階の個室から実験室のある1階に下りていくこと、廊下が緩やかに曲がり、部屋は皆その内側に並んでいるということ、正面入り口の直上が、ウッドデッキになっていること。ただ、肝心の子供たちは離れた病棟に捕らわれており、実験や診察のあるときしか研究棟にはやってこない。警備の交代する時間も研究員には無縁であり、彼らの扉を探しに行く必要があった。

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