エッシャーの城>>指向>>4
反政府組織のうち、最も消極的な団体の一つ、『子供の安全と幸福を守る会』。家族制度の復活を目指し、党内に潜伏しながら合法的に活動しているのだという。ニコライ達とは方針が真逆だが、『守る会』の持ち込む情報はアジートの生命線だ。
「子供が虐げられてるんだから、見過ごせないだろうとは思うの……って言っても、問題はどんな形で協力してもらうかなんだけど」
国防局の管轄に、他の部局が割り込む方法が必要なのだ。実現可能な作戦でなければ、誰も加担しようなどとは思わない。
「味方っても、民間人っしょ? 研究所でドンパチはできねえし」
スキンヘッドの隊員が、テーブルに顎を乗せた。アレクはあまり話したことがないが、確かモーゼスという若者だ。
「そこは警備を陽動するとして、何か口実がないことには……」
一旦作戦会議が始まってしまうと、アレクには出る幕がない。口をはさめないままに隊員たちを見守っていると、ニコライが荒い溜息を吐き出した。
「考えるだけ無駄だ。余計なことはせず、いつも通り爆破して終わらせりゃいい」
かかってるのは、お前らの命なんだぜ。一言で会議が打ち切られ、冷え固まるブリーフィングルーム。換気扇の音だけが深深と降り積もる中、今まで黙り込んでいたイワンが初めて口を開いた。
「火をかければいい」
冷ややかに聞こえる程、その口ぶりは平坦だった。
「山火事なら、護民局や厚生局にも動員がかかるだろう。駐屯地の兵員が消火にあたっている隙に、救助を名目に突入させればいい。連中の構成員がどういう連中か、俺にはさっぱり分からんがな」
あんたなら、多少は知ってるだろう。イワンは鋭い眼差しで猟犬のリーダーを睨んだ。護民局ならカルラの知り合いがいる筈だが、当然アレクに言い出せるわけがない。正解を抱えたまま、アレクは二人の結論を待った。
「何を言い出すかと思えば、ガキ共を助けるのに放火から入るたあな。相も変わらず、血の気の多いオヤジだぜ」
コンクリートを打っただけの薄暗い地下室に、イワンが示した具体案は驚くほど素直に馴染んだ。子供たちを助けるなどという、絵空事よりも、ずっと。それが証拠に、悪態をつきながら、ニコライも反対はしていない。見通しがついたことで、隊員たちの顔つきも幾分明るくなっている。
「いつも通りで結構なことだろう」
イワンはニコライの台詞を返したが、仏頂面では軽口にも皮肉にも聞こえない。二人が脱線させた会議を、エカチェリーナは仕方なく復旧した。
「……どう? 心当たりはある?」
だが、当のニコライはどうか。ニコライが知らなければ、知らないふりをすれば、それで話は終わってしまう。隊員たちの見守る中、リーダーはゆっくりと立ち上がった。
「……そんなことまで知るか。それこそ『守る会』に聞くしかねえ」
ニコライは、短い髪をかきむしった。見返りがリスクを上回ったのだ。これで少しは、作戦の輪郭が見えてきた。勢いづいた隊員たちを振り払い、ニコライは釘を刺した。
「まだやるとは言ってねえ。決めるのは、下調べが済んでからだ!」
ジャンバーの肩をいからせ、ニコライはエレベーターに駆け込んだ。逃げ出したようにも見えるが、間違いない。すれ違った折、一目見ただけでアレクにも分かった。
ニコライの目には、既に敵が映っている。




