エッシャーの城>>潜在>>5
アレクが急いで戻ってくると、カルラは扉の前で待っていた。吹き抜けに満ちた薄闇の中、艶やかな黒髪は深い光を滲ませる。
「何かあったんですか? 血相を変えて」
カルラは手すりから立ち上がり、アレクに歩み寄った。
「カルラさん、やりました。イポリートはやっぱりクロでしたよ」
イポリートがユレシュの実験を再現していること、ユーリという男が連絡役を務めていること、そして実験が、オハの施設で行われていること。額の汗を拭いながら、アレクは成果をカルラに伝えた。
「オハ? サハリンに医学系の研究機関はなかったと思いますが……これは起きている間に調べた方が早そうですね」
病院や研究所のことなら、カルラの方が何倍も明るい。最初から狙いをつけて、城の探索も進めていたはずだ。
「じゃあ、それはカルラさんにお任せします。で、ユーリの方は俺が探すと」
アレクが歩きだそうとすると、細い指が手首を掴んだ。
「今日は私も探します。お陰様で、随分調子が戻りましたから」
無理しないでくださいよ。アレクたちは階段を下りて、一本ずつ他の階段にあたった。階段の突き当りに待ち受ける扉の中はいずれも行政局の秘書官であり、ラベンダー風呂に浸かったり、恋人と飲みに出かけたり、めいめいの夜を楽しむばかりだ。自分の上司が密かに進める計画など露知らず、仕事のことを思い出した時でも、会議の下準備やら、外出のスケジュールやら、表向きの用事しか出てこない。捻じれた廊下の周りを一通り調べ終わり、カルラはとぎれとぎれに尋ねた。
「突き当りの階段――あそこから上は――もう調べましたか?」
アレクが手を振ると、カルラは再び階段を見やった。左上に伸びた階段は左の壁際まで続き、細い通路に吸い込まれている。二人は縦に並んで通路に入り込むと、暗い通路の奥、うっすらと差し込んだ光を見つけた。
「あの右側って、外じゃないですよね」
両手を壁についたまま、アレクは通路を進んだ。
「宮殿の下側、螺旋階段のある方向ですよ……その先には、私の調べていた区画があります」
ああ、学者さんの? アレクはカルラを振り返ったが、頭をどちらに振ったのか見極めるには暗すぎる。ただ一つ明らかな答えは、細腕がわき腹に伝えた。いいから前に進んでくださいというわけだ。角の向うは、小部屋か大広間か。推されるままに角を曲がり、アレクは咄嗟に目をかばった。光だ。
「広い! アレクさん、大当たりです」




