表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/171

モナドの鏡>>拒絶>>14

「……痛い、です……」

 カルラは痛みに堅く目を瞑り、訴えながら身を竦めた。柔らかな肉の下に、小さな骨と熱い血を感じる。どれほどの厚かましさがあれば、この期に及んでまだ自分に傷つく権利があると思えるのだろうか。力任せに肩を押さえつけられ、裏切り者の呻き声がスプリングの軋みと重なった。苦し紛れに腕を掴まれたが、細い指は張り付くばかりで肌に食い込むの力もない。両脚を持ち上げて肩に担ぎ、汚れた捧げ物を容赦なく串刺しにする。何度も、何度も。欲を満たすためでさえない、報いを与えるための仕打ちだ。

「お願い、もう――」

 許すものか。許されるものか。たとえ命が尽き果てても、暗い炎がこの体を衝き動かすだろう。罵っても責め立ててもおよそこの世で語られる言葉にはならず、獣じみた雄叫びだけが頭蓋骨を突き抜ける。

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 カルラは訳も分からぬまま声をふり絞って命乞いを続けたが、打ち据えられる度に背もたれへと追い込まれ、ついには呻くことも出来ないほど押しつぶされてしまった。蒸気の猛りが生臭い手拍子を掻き消し、どれだけ竈を掻き回してもを熱いばかりで手ごたえの一つも感じない。一向に火は収まらず肉を嬲り続けたが、不意に芯から震えが駆け上がって来た。

 違う。アレクは咄嗟に蛭を引き抜き、生温かい毒がベッドの上にまき散らされた。これは誰だ。この臭いの主は。薄闇の中、穢れが湿った光を放っている。後少し気づくのが遅ければ、汚れていたのはシーツではなかった。

「どうし……て……?」

 カルラは息も絶え絶えに、物欲しげな眼差しで男の背後を見つめている。諦めの底から干からびた滑稽味が湧き上がり、唇の隙間からたどたどしく零れ落ちた。笑うほかない。後少しどころか、とうに手遅れだというのに。何をこんな浅ましい女のためにあくせくしていたのか。

「ずっと騙してたんだな……カルラ」

 それがいつから続いているのか、考えるのも馬鹿々々しい。夢の残骸を見下ろし、冷やかな言葉を浴びせた。

「アレクさん――」

 もうここには、アレクなどという男はいない。これはアレクではないし、ここにアレクの居場所はないのだから。気づくとテラスに一人取り残され、暫く木戸の前に蹲って自分の影を眺めることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ