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エッシャーの城>>報酬>>5

 目が覚めてから暫くはぼんやり聞くに回っていたが、そのうちアレクはあることに気が付いた。

「そういえば、イワンは?」

 見覚えのあるメンバーの中で、イワンの姿だけが見当たらない。健在そうに見えて、怪我を隠していたのだろうか。モーゼスは苦笑を浮かべ、アレクの肩を叩いた。

「そもそも来ると思う? あのオッサンが」

 賑やかな場所とは縁遠い男だ。勝利を祝っているにしても、いつものようにどこかで一人、スキットルを傾けているに違いない。モーゼスの類推に異を唱えるものは、一人としていなかった。

「アーレクっ! どうしちゃったわけ? いきなり有名人じゃん」

 いきなり後ろから抱きつかれて、アレクは間の抜けた声を上げた。

「ラ、ラーニャ? わざわざ迎えに?」

 振り向いた頬に滑らかな吐息が触れ、細く見えない針を刺し入れた。指先まで毒が回り、振りほどくことも叶わない。 

「そーだよ、だって遅いもん」

 アグラーヤは真顔で白を切った。無邪気な蒼い瞳の淵に、アレクの顔が揺らめいている。生温い囁き声が耳の穴に潜りこみ、舌先で脳をくすぐった。

「アレクってさ、やっぱり、タダもんじゃなかったんだね。聞いたよぅ、アレクには何でも分かっちゃうんだって?」

 行こっか。アグラーヤは腕をほどくと、アレクの肩を残した掌に釣り上げられ、見えない繰り糸に命じられるまま、座れる場所を探すと言っていたが、歩きだしたレフ達はどの辺りにいるのだろうか。アグラーヤの声は先に会場を離れ、よく行く店で妙に明るく気前のいい待ち合わせだと答える二人はしばらく歩き続け確かに見慣れたバルに入る何かの合図を店員に通された二階の部屋には大きな赤いソファが低いテーブルを挟んで向かい合い、柔らかく手触りのよいクッションに埋もれた。

「レフ達は、まだ来ていないらしい」

 既に蝶を象ったテーブルの酒瓶の上に置かれ皆、遅いな菫色のキャンドルが光を受けて心なしか爛々と輝く瞳に体が熱っぽい炎の裾は藍染の溜息に吹きかけ儚げに薄闇を踊ったシャツワンピの上で踵が刻まれるところを返事は待ってアグラーヤを大きくのけぞるのが見え、ソファの生地に片足で上げた背もたれの奥に黒光りする皺がねじれてしまい暇だし、裾だけで始めちゃおっかと二人を押しのけた。

「飴色の酒にそれも注ぎそうなグラスを置いたままに俯いたアグラーヤの前だな」

 この前アレクの目を買ったばかりの足首に入ってペディキュアだというが、見せびらかしたにしては全然軽く振らない花の咲き誇る眼差しが波に言い訳しているのを部屋に吸い寄せアレクは一気にグラスを傾けながら見とがめた途端、白い中心に呑まれたソファと同じくらい赤い。

「アレクを下した隣に両手で囁いて跳ねる音が大丈夫」

 腰は耳元から立ち上がってアグラーヤに縋りつくと袖の染みに蜜で捉えた指先を動かし膝が小さな押しつけに聞こえたその時。アレクは遠い声に呼ばれた。

「ごめん、忘れてる用事があった」

 これ以上、ここに居てはいけない。アグラーヤの腕を振りほどき、アレクは赤い部屋から逃げ出した。妙に贅沢な調度品。始めから用意されていた火酒。あれがただの個室に見えていたのだから、アレクも相当に間抜けだ。階段の手前で一度だけ振り返り、そしてアレクは見てしまった。扉の隙間から、先ほどとは色の違う二つの炎が覗いている。悲鳴すら凍り付いて、喉からは険しい息しか出てこない。店を飛び出し、自室まで坂を駆け下りても、背中に植え付けられた怖気が消え去ることは決してなかった。

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