第9話「縦割り②」
「ハモったな、名前」
雨汰は有澄に近寄りながらそう微笑みかけた。
「あ、雨汰。久しぶり。」
「うん!久しぶり!こんなに会わなかったのは初めてかもな!」
「確かに、そうかもね。うん。」
有澄の顔はなかなか普通の色には戻らなかった。
「なんでそんな照れてるの?」
「べ、別に!ハモったのが恥ずかしかっただけ」
有澄は少し怒ったような声で反論した。
「そっか!」
そのまま会話は終わり2人はぎこちなく距離をとった。
「あ、雪村!!ほら、2人ともやっぱり来たでしょ!」
凛は春音とアマネへ顔を向けた。
「やっぱりってなに?俺が来ると予想してたのか?」
「そう!絶対来るって信じてたぞ」
「そーかよ、」
雪村はあきれたような顔をしていたが凛からニヤニヤとした視線を感じて、笑を浮かべそうになるのを堪えていた。
「え、雪村ってなに私たちの受け持ちだったの?」
有澄はどちらの会話も終わったのを見計らって発言した。
「そうそう。それよりもそっちのふたりが一緒に来た方が俺たち的には分からないんだけど、」
「ああ、途中であったから道案内みたいなことしただけ」
有澄は本当のことは話さないようだった。
「まあいっか、じゃあ俺たちも始めるぞ、縦割り訓練」
それぞれ戦闘服に着替えサモンを起動した。
雨汰の説明によると、クープルごとに作戦を立て先輩クープルを倒すという訓練らしかった。
超能力は使用可能で使う銃弾は人への被害がないものに変わっているそうで完全装備で挑むことが出来た。
「こんなに装備したところで組むのがお前じゃ勝てるもんも勝てないんだが?」
雪村は何の悪気もなく当然のごとく話しかけた。
「お前デリカシーないだろ」
「デリカシーだ?事実言ってるだけだろ。あと名前なんだっけか」
話すたびに春音は苦手という意識が増していった。
「…、黒水だ。」
「黒水か、まあお手並み拝見だな」
春音、雪村ペアは雨汰と、凛、アマネペアは有澄と戦うことにした。凛ペアはまだ作戦を立ててるらしかったが雪村は速攻で雨汰に突っ込んで行った。
「サモン解除!5.6.2 グラセ・アイシクル!」
固まった弾は雨汰に向かって最短距離でまっすぐ飛んで行ったがぶつかったのは奥の壁だった。
「はあ?どこいった?なんだ?」
雪村は突然目の前から消えた雨汰に酷く動揺していた。そんな雪村を手で制しながら春音は周りを見渡した。
「飛ばすな、立花さんの超能力はワープだ。」
春音は雨汰がワープしたとされる場所を予想し、そこに狙いを定めた。深い深呼吸をして腕に手を伸ばす。
(大丈夫だ、黒水春音、ただ技を放つだけ、)
「サモン解除、2.8.2 エクスプロジオン」
弾を手で上からなぞり、銃の中に入れ、3発放った。放った弾は炎を纏い、徐々にその火は大きくなっていった。3つの弾はそれぞれがぶつからずにちょうど雨汰が現れた場所の手、足、肩を吸い込まれるように飛んでいった。雨汰から少しの動揺を感じたが、瞬時に元の笑顔に戻り時計をセットした。
(なるほど、炎はおとりか!時限爆弾になってるんだな、面白い。でも俺は負けない!)
「水色くん良い観察眼だね、でもそんな普通の弾じゃ手で止められる、」
と言い放つと、弾の目の前を手ではらった。すると飛んできた弾全てから炎が消え、下に落ちた。
雨汰は一息つきながら2人の元へ歩き出した。
「2人ともまあ」
「立花さん、気をつけてください。吹っ飛ばされないように」
春音は雨汰の言葉を遮りそう言うと時計の針を3に合わせた。
ドバン!!!激しい爆発音とともに雨汰の周りは煙で何も見えなくなった。
「ゲボっ、けっむいな。」
しばらくして煙の中から1つの影が春音達に近づいた。
「なんで?爆発に巻き込まれたはずじゃ。」
春音は今までに見た事のないような大きな声を出した。
「いやあ危なかった。ちょっと!俺の超能力がワープだって忘れてない?短時間で移動したから煙の中から出れなかったけども」
雨汰は体に降りかかった灰をはたきながら春音の目の前に立った。
「ああ、そうでした。さすがにブリエは強いですね」
春音は戦う意思をなくしたのか銃をしまい雨汰こことを見上げた。
「2人ともなかなか見込みがあるね、特に水色くんはすごいね、後輩にこんなに焦ったのは初めてかもな!」
雨汰はそう言いながら春音の頭をくしゃくしゃした。
「黒水春音です。あとそれやめてください。」
春音は下を向いたまま雨汰からやんわりと距離をとった。
「俺はだめだめでした、やっぱり俺は弱い」
雪村は雨汰のことを真っ直ぐ見つめて言った。
「ダメダメじゃないぞ、俺がワープできるからカウンターに強いだけであって他の人には結構有効だよ、即時攻撃!」
雨汰は元々の笑顔をさらにクシャッとして指を鳴らした。
「それにしても春音の射撃の正確性は目を見張るものがあるな、俺よりも高いかもな」
「ありがとうございます、射撃は少し得意な気もします」
雨汰は頷くと有澄たちの方へ向かった。残された春音は一切雪村の方を見る気配はなかったが、雪村は悔しそうに春音に見つめ、背後に立った。
「おい、」
「近いんだけど、なに?」
春音は冷めた目で雪村を見た。
「お前のことを超える。お前みたいなやる気のないやつに俺は負けない。」
そう言い放ち、装備を外しながら帰路へ歩き出した。春音は何も言葉を発さず、ただ雪村を静かに見つめていた。
(僕に勝ったって、それでどーするっていうんだ、くだらない)




