第6話「雪村」
「おはよう、凛」
春音は眠そうな体を無理やり動かして共同スペースの机に座った。
━━また一日が始まった。毎日死にたいと思う。事故でも事件でもなんでもいい。いなくなりたい。誰かに心配されたい。誰かの心に深く刻まれたい。そんなことを思っても行動なんか起こせやしない。生きる理由なんて、
「おはよー!」
「ははっ」
凛の言葉は不思議な力を持っている。何気ないただの会話でも僕に力をくれる。
「なんで、笑うんだよー!」
「なんでもないよ、」
「変なやつー」
でもやっぱり、僕は凛を守れるのだろうか。こんな僕なんかに。
「凛、僕なんかが宇宙人に勝てるのかな」
ぽつりとつぶやいた。
「ん?突然だなー。それはわからないけど、凛も俺も何があっても死なないかな!」
「どうしてそう言いきれるの?」
「まあなんとなくだけど、はるがいてくれたら俺は多分勝てるって気持ちが湧くからかな、結局は気持ちの問題!」
凛はそう言うとガッツポーズをしたままどこかへ歩き出した。
―凛は本当に強い。僕が欲しい言葉を全部くれる。僕もそんな人間になりたくて。凛にそう思って欲しくて。そうだ、今死んだら凛からもらっただけになっちゃうんだ。あげないと。いっぱい貰ったもの返さないと。まだ死ねない。
「あ!言い忘れてた今日来るって」
「誰が?」
「はるのクープル!!」
「…やっぱ死のうかな」
凛は冗談だと思ったがあまりに顔が沈んでいるので少し心配になっていた。
「まあ、そんな怖い人じゃないことを祈ろう」
その後、アマネも支度を終え、3人は寮の特別室に集められていた。
「あのどんな人が来るか凛さんも聞いてないんですか?」
「俺達も聞いてないんだよね、俺たちの事情を知ってるかもよくわかんない。」
すると、凛の携帯がなり、何かが雨汰から送れてきた。
「「ギルドの仲間の名前がわかったよ!名前は雪村朱晴だって!」」
「ってえー!雪村ってあの雪村?」
凛はこれ以上ないほど興奮していた。
「雪村、」
「誰ですか?凛さん」
凛と対照的にアマネはぽかんとした表情をしていた。
「アマネは知らないだろうけど、はるも知らないの?あれだよ!8年前くらいに話題だったさ、Pome同士で結婚して初めてできた子供だよ!」
「8年前、か。その頃はテレビとか見てなかったから。」
この春音の発言で一瞬の沈黙が訪れたが、それをなかったこととするように凛が元気な声で言った。
「すごいんだぞ、Pome同士の子供も超能力を持てるっていう証明になったんだし、」
「そうだ!俺はすごいんだぞ、よくわかってんじゃん」
「え」
3人が声を揃えるのも無理はなかった。目の前に突然ピンクに黒メッシュの髪色をした男が話しかけてきたのだから。その男は、みんなの視線を感じないのか普通に空いてる席に座り話し始めた。
「俺はブリエになるためにここにきた。足を引っ張るな。」
1番苦手なタイプ。春音は雪村を見た瞬間にそう感じていた。やはり、雪村と言ってもPomeだからなのか、顔はとても整っている。それでいて他人を見下すような話し方をしてくる。
「ブリエになるのか!!いい夢だね」
「夢?叶えたいとかじゃない。叶えなきゃいけない義務だよ。」
目つきが少し悪くなった気がした。
「難しいことはよくわかんないけど、俺は天ヶ瀬凛!これからよろしくな。」
「雪村、朱晴。15歳。」
「やっぱ同い歳か!髪の毛がピンクだから炎とかそっち系?」
Pomeの人々は無理な遺伝子変化によって髪色、目の色が変化してしまう。そしてだいたいその色は超能力と繋がるところがあるのだ。
「俺は氷結。髪の色はよくわかんない」
「おお、じゃあはると似た感じか。突然変異的なね。」
「一緒にしないで、」
春音は明らかに雪村に敵意を持った目を向けていた。
「ほら、はるとアマネも自己紹介して」
「アマネです。」
「黒水春音」
自信なさげにそうつぶやく春音に雪村の顔は少しひきつった。
「ほんとに特別班なのか?お前は。」
「い、いや、そんなの、知らないし」
春音の呼吸はだんだん荒くなり、過呼吸気味になっていた。
「はる平気?特別班ってなんだ?」
「お前らも知らないのか?俺は言っておくが群れる気はない。ギルドに入らなきゃ行けないらしいから一応入る。それだけだ。」
雪村は席をたち、部屋から出ていこうとノブに手をかけた。
「どうして群れないの?」
そんな雪村を止めるように凛は問いかけた。
「群れるなんて弱いやつのやることだよ」
そう言った雪村の顔は怒りを持っていた。
「雪村は、群れて弱くなったことがあるの?」
「そんなことあるわけない。俺は弱くない。」
「じゃあ雪村は何を持って弱くなるって思ってるの?」
真剣な顔で聞く凛に雪村はさらに苛立っていく。
「何が言いたいんだよ、」
「ってことは雪村くんはむれてもいいんじゃない?」
「は?」
「何かについて否定したり、無駄だってわかるのって結局やってみて振り返った時にわかることでしょ?まだ何も分かってないのにやらないなんてことある?」
凛は雪村に万遍の笑みを向けた。
雪村の顔はなにかに気づいたようにハッとした。
「っ、もう知らねえ、勝手にしろ。」
そう言い放った雪村は荷物を持って部屋へ行ってしまった。
「凛、平気?」
「いや、大丈夫よ!それにしても面白い子だったなあ」
「なんて言うか、どんな星にも同じような人はいるんですね、」
「まあ、雪村として大変だったのかもしれないよな」
「それにしても凛は煽りすぎだよ。あんな質問攻めにされたら僕だっていらいらするよ」
春音は先程の具合は治ったのか、笑いながら言った。
「知らないことは聞く!これ鉄則だよ。」
「凛さんは好奇心が強いのですね」
「そうそう。昔から好奇心王って呼ばれてたから。」
「あ、それ内緒だろ!でも、どうしてあんな機嫌悪かったんだろうな」
凛の言葉の後、あたりはしばらく静かだった。
「僕が弱そうだったからかもね、」
そううつむく春音。
「そんなことないだろ、だってはるは、」
「やめて、」
凛の言葉を遮るように春音は大きな声を出した。
「ごめん、まあ次のギルド訓練でわかるだろあいつも」
「な!なんですかそれは。」
珍しくアマネが凛へつめよった。
「なんか、3学年くらい上の先輩たちがついてくれて実習を行うらしいよ、」
「それに、あいつも来るのか…」
「まあなんとかなりますよ!」
アマネは凛と春音の前では柔らかく笑うようになっていた。
「だな、頑張るっきゃない!」
「そう、だね、」
3人はそう言うと凛が歩き出したのに続いて帰った。戻った寮には雪村がいたはずだが部屋から出てきていないのか3人と会うことは無かった。
長く続く暗い廊下には1人が歩く音だけが響いていた。その音はやがて止まるとドアが開く音がした。
「今日は誰かな?」
研究をしている最中の菅野はそう声を出した。
「俺はPomeに入る。」
「ははは。あの頑固お父さんを説得できたのかい?」
菅野は振り向きながら雪村へ話した。
「父さんはどうにかする。俺はブリエにならなくちゃいけないんだ、入れてくれ」
雪村は深々とお辞儀をしながら懇願した。
「しゅ、いや朱晴だったね。まったく読みにくい名前つけちゃって。そんな丸くなっちゃってどうしたの?僕に頭を下げるなんてよっぽどじゃない?」
にやにやしながら雪村へ言葉を続ける。
「あ、そうだ。今回ちょっと面白い特別班があるんだよね、そこだったらいいよ入っても。」
「特別班?なんでもいいから入れて欲しい」
「じゃあ家を出る支度をしてね。Pomeは寮生なんだ。それと一応試験も受けてもらうよ。あの試験をね。」
「待ってください、菅野さん。あの試験は一般人には不可能です。」
菅野は手を突然掴まれた。
「はは、雨汰、突然出てくるのやめてくれ。」
「菅野さんを見に危険が迫っているのかと思いまして。」
「朱晴は強いから平気だよ。成功作だ立派な。」
菅野は意味深な笑顔を浮かべていた。
「絶対受かってみせます。」
「じゃあ決まりだね、」




