第5話「菅野」
ドアを叩く音が廊下に響き、中からは承諾の声が聞こえた。ドアを開けると丸い水槽のようなものが並んでおり、その中には小さな生命体がいた。
それを男に声をかけた。
「菅野さん、折り入って話があります」
「雨汰のくせにやけに丁寧だね、どうしたの?」
作業をやめ、体を雨汰の方へ向けた。
「今日の式で乱入してきた彼らのことです。」
菅野と呼ばれたその男は静かな笑顔を向けていた。雨汰が事の顛末を詳細に話したが男は顔色ひとつ変えず頷いた。
「いいんじゃない?ブリエの雨汰が面倒見るなら心配ないと思うよ?1人のMYUに何か出来るとも思わないしね。でも面倒ごとは増やすよな!」
この言葉を聞いて雨汰はハッとして口を開いた。
「菅野さん寝てますか?休憩してください。」
「久しく寝てないかもな、言う通りにするよ、」
「それにしてもいるんだろ?黒髪が。」
静かな笑顔のまま言葉を続けた。
「ああ、彼のことですか。確かにPomeで黒髪は初めて見ました。俺が1番黒要素強いって感じだったので、」
「そうだろ?今までのここでの研究で黒髪を作り出せたことはないんだよ、」
今の菅野の顔はあきらかなる含みのある笑顔だった。
「じゃあ彼は一体。」
「研究の余地がありそうでしょ?研究対象が二人いるんだから、あの彼もそこの班に入れるとしよう。これがMYUの子を殺さない条件かな、」
そういうと菅野は仕事に戻った。
「わかりました。では失礼します、」
「おっと、検診忘れないでね?」
雨汰は了解の旨を伝え、瞬間移動した。
雨汰の移動した先は先程とは違う寮だった。寮というよりも大豪邸の一軒家といったところだった。
玄関で靴を脱ぎ、自分の部屋へと向かってる途中、部屋から出てきた人と出くわした。
「おかえり立花。なんかまた首突っ込んでんの?」
雨汰を立花と呼ぶこの女性は真っ白の髪の毛をしていた。
「ただいま。えもう白峰知ってるの?」
今日の朝首を突っ込んだはずなのに、もう知られていることに少し驚いていた。
「だって、菅野さんが使いを出してわざわざ知らせてきたんだもん」
「え、菅野さんが?早すぎでしょ。」
今日中にバレていたことなどどうでも良くなるくらい情報の伝達が早く、嘲笑していた。
「まあ立花だから、許されたよね多分。」
「なんで?」
「菅野さん、立花とあと鳴巴だけなんか検診とかで呼び出してさ、絶対お気に入りだって。」
半分羨望の眼差しのようなものを雨汰は感じた。
「そうかな。でも首突っ込んだからにはやらないとな」
「そんな意気込まなくても、もう来週にはあるでしょ、縦割り。」
「あ!」
雨汰は自分がこんな大事なことをすっかり忘れていたことにも驚いていた。
「忘れてちゃだめだよ。多分立花はその子たちの班を見るんでしょ。」
「ああ多分そうだと思う。え、それってクープル事にやるやつだっけか。」
「そう、まあ本当はギルドごとだけどね。ってえ、まだ見つかってないの?」
白峰は驚きと非難の目で雨汰を見ていた。
「だって、連絡一切つかないし、まあ仕事だから来るか。さすがに」
「有澄はなんというか良くも悪くも一直線だもんね、」
「そんなところにやっぱり憧れちゃうんだよな」
「にやけんな!あほ!いやそんなことよりもまだケンカ続いてるわけ?」
白峰は探偵のような素振りで雨汰に聞いた。
「ケンカってわけじゃないんだよ。ちょっと俺の言動に配慮が足りなかったんだと思う。あいつが誰よりも強くなりたいって思ってるの知ってたはずなのに、」
雨汰は何かを思い出しているかのように手を握りしめた。
「そっか。でも立花だってあんなことがあったあとだし、」
「慰めとかいらんよ、」
雨汰はそのまま俯いたままだったため白峰は言葉をかけかねていた。
「まあよし!いっちょ頑張りますか!」
「立花、そうね。私も頑張らなくちゃ、ね。」
そう言い合うと2人は別れの言葉をつげ、それぞれの部屋へと戻って言った。




