第3話「ブリエの男」
「な、なんでいるの?」
「1人は怖かったから着いてきちゃいました、」
アマネははにかみながら言った。
「そっか!そりゃ仕方ない!まあ話が早いや、この子がMYUのアマネちゃんです!」
凛はまるで自分の妹を紹介するような慣れた口調でアマネを説明した。
「そんな、こんなところに来たら、こ、殺されるかもしれないのに」
春音は震えた口を開いて呟いた。
「わあ、ほんとにツノ生えてる、MYUは割と可愛いんだな、」
そんな春音をよそにブリエの男は呑気なことを言った。
「どうしたらいいでしょうか、」
「うーん、俺人殺すのは嫌だからなあ、」
ぶつぶつと独り言を言いながらアマネのツノを犬の耳を触るようにモミモミしていた。しばらくの沈黙の後微笑みながら彼は口を開いた。
「あ、わかった!じゃあ君もPomeに入ろうよ、」
「え?」
「よくない?ツノ隠しちゃえばバレなそうだし、MYUに帰る手がかりが見つかるかもよ、」
「それはそうですけど、」
「いいじゃんそれ!アマネ!頑張ろうぜ!」
名案を思いついてすごいだろと言わんばかりのキラキラとした笑顔で凛と彼はハイタッチを交わした。
「凛、さすがにそれは、どうなの?」
「なんか、面白そうじゃん」
「大丈夫!俺が上に話をつけてくるさ!」
「好きにしてくれ。」
「…MYUに帰れるなら、なんでもします!」
先程まで震えていたのがうそのようにその瞳はまっすぐ前だけを見つめていた。
「おっけい!交渉成立だね、じゃ、ちょっくら行ってくるか、」
「どこにですか?」
「上の人と話してくるよ、まあ待ってて、」
と言い残すと彼は先程のように時計をセットし、どこかへ消えていった。不思議な部屋に取り残された3人は誰一人口を開こうとはしなかった。凛は面白いことが始まったことによる興奮。春音はこの先どうして行くかを見すえ、アマネはそんなふたりを興味ありげに眺めていた。この沈黙を破ったのはアマネだった。
「Pomeってなんですか?」
3人ともトントン拍子で話が進むので忘れていたのだった。
「よく、意味のわからない隊に入ろうと思ったね」
「いや、断ったら帰る手段を失うから、仕方なかった、」
はにかみながら言ったその言葉には重みがあった。
「Pomeは、簡単に言っちゃえば超能力部隊ってやつかな?よな?はる」
「まあ、合ってると思うよ。」
「オリジンのみなさんは超能力を持ってるですか?」
「それは、持ってないよ」
凛は春音の様子を伺いながら、先程よりひとつ下がったトーンで話を続けた。
「俺たちはさ、簡単に言っちゃえば普通のオリジンじゃないわけよ」
「なんていうか、人造人間?機械?武器?みたいな感じ」
「えっと?それはどういう」
凛は自分たちにあった言葉を見つけるのに苦労していた。すると、黙り込んでいた春音が凛に微笑みかけてからゆっくりと口を開いた。
「僕達は人の形をした兵器なんだよ、超能力という攻撃力を持った自我のある武器ってことかな」
「だから、一応生き物なんだろうけど、倫理観はぶっ壊れてるよね」
「ああ!そうそうそんな感じ!ありがとうはる」
「説明は僕の方が適任だろうから。」
春音の話を理解しだしたアマネはみるみる青ざめていった。
「な、なんでそんなこと!」
「オリジンは地球に元々居た生物と言われてるんだ。地球は生物が住むには快適すぎたらしくて、力がまったくない。」
「そう!でも科学技術はあったっぽくて、オリジンのトップたちが作ったわけ、超能力部隊Pomeを。」
「ど、どうやって」
「俺達もよくわからんけど、なんか、母親のお腹の中を再現できる機械で育てるらしい 。それでその途中で遺伝子操作して力を生み出すとかなんとか。」
「凛さんもはるさんも親は居ないってことですか?」
「あ、いやなんでもない、です。」
単純な疑問として口から出てきたその言葉が2人与える力に気づいたが、凛も春音もアマネが想像した様子ではなかった。
「いないよ!でもいいの俺にははるがいるし!親よりも俺ははるがいてくれてよかったと思う」
混じり気のないキラキラと輝いた笑顔だった。
「僕も別に。そんなことで悲しんでたらもうとっくにこの世にはいない、かな?」
「それもそうだよな」
「私、ごめんなさい」
「いいってことよ!これからPomeに入るんだし、ちょっとでもみんなのこと知っといた方がいいでしょ?」
「うん、ありがとう!」
「それにオリジンに比べたらアマネさんなんて、」
春音はそうつぶやくとフードをかぶり黙ってしまった。
「とりあえず、クープル、ギルド分けがあるから、そろそろ移動しないとな!」
「でも、角出っぱなしはさすがにまずいんじゃないの?」
アマネには遠くから見ても認識できるほどのしっかりとしたツノがおでこから生えていた。
「あ、あのこれはお、折れません!ごめんなさい」
「え?」
アマネの言葉に2人は目を見合わせ、5秒程の沈黙の後凛は大爆笑した。
「あははははは!そんなことするわけないじゃん!隠し方だよ考えてるのは」
「さすがに僕達でもそれ折るのはちょっと」
先程のくらいオーラが嘘かのようにくすっと笑った。
「まあとりあえずなんか、探してみるわ」
すると凛は目を瞑り両手を頭に当てた。
「これは、何をして、」
「大丈夫だよ」
ドアの開く音がした。しかし、そこには誰もたっていなかった。あったのは、フードの着いたパーカーだった。そのパーカーは幽霊のようになめらかに動いていた。
「お、きたきた」
パーカーはそのままアマネに近づき落ちた。
「これは、さっき使ってた超能力と言うやつで」
「そう!俺の超能力!くそ弱いんだわ!」
「とりあえずそれを着て式に向かおうか。」
凛と春音が歩き出すとそれに続くようにアマネも歩き出した。途中誰ともすれ違わなかったことは幸運だった。Pomeの式ともなれば政界のトップなどは多く参加する。会場の部屋には5分も掛からずに着いた。瞬間移動したところはそこまで遠い所ではなかったらしいかった。
「今回はこれだけなのか、」
会場を見渡すと同期と思われる人が目視できるだけで12人だった。
「そうだね、思ったより少ない。」
―――最後に集まったのは10歳の時だったはず。その頃には25人はいたのに。みんな、死んだのか。
「俺らの代は最初30で始まったんだよな確か?」
「うん。いつもより多くて話題になってたからね」
およそ15年前、まだPome計画が批判されていた頃に比べて受け入れられつつあった年。圧倒的なPomeの勝率。自分たちが戦わなくていい安心感から非難はほぼ無くなっていた。そんな時、1年に生み出すPomeの数を30に増やしたのだった。
「結局、多く作っても生き残った数は変わんないのか。」
2人の話が小耳に入った周りのみんなも静かになり、あたりは音を発すれば死んでしまうと思うほど静まり返った。そんな時、近くにいた少年が1人凛へ向かってきた。正確には凛の後ろのアマネに近づいていたのだった。
「なあ凛。その後ろの子誰だ?」
「え、あ、えっとこの子はあれだよ。」
嘘のつけない凛はどっと冷や汗をかいていた。
「この子は同期で上が秘密裏に育ててたって!」
ここは日常のように春音が凛へ耳打ちした。
「へー。そんな特別なやつ雪村の他にいたんだな。」
「ああ、懐かしいな雪村!」
「そうだな。ってえ、女のコじゃん!」
その声は圧倒的力を持って広がっていった。
「女の子が同期にいるのか?」
「Pomeの女の子って何年ぶりだ?」
多くのヒソヒソ声はひとつの大きな塊となってアマネに届いていた。
「あの凛さん。女の子はオリジンでは珍しいのですか?」
「あ、いや、正確にはPomeに珍しいかな。体の構造とか体力的に戦闘用に作られた俺たちは基本男なんだよ。」
「じゃあ、私なんてすぐにバレてしまうのでは?」
「それは平気かな、多分。突然変異って形で56年に一人くらいのペースで生まれるから。」
「そうなんですね、」
また口を開いた春音は少し陰った顔をしていた。
「でもやっぱり死んでしまうことが多くて。Pomeの中にいるのは今は多分5人。400人中ね。」
「5、5人ですか。」
「でも確か、最近女の人で初めてブリエになった人がいなかったっけ?」
「うん。確かいたはずだけど。」
「まあアマネはそんなこと気にしなくていいってことよ!」
屈託のない笑顔を向ける凛を見たアマネは微笑んだ。




