第1話「オリジン」
「ヒーローなんてやりたいやつがやればいいでしょ?じい」
じいと呼ばれたその男は何か言いたげに顔を曇らせていた。
「それもそうだね。ヒーローになんてならなくていい。でもね凛、君は戦わなくちゃいけない。」
「どうして?俺は夢があるの!じいが言ってくれたんじゃない!世界の全てを知ろうって!」
「そうだ。だから戦うんだ」
「それはさ、…僕がPomeだからなの?Pomeとして生まれたから戦うの?」
じいはふわっと笑い凛の頭に手を置いた。
「じゃあ、こうしよう。凛が戦う理由がわかったら、世界の全てを教えよう。」
3020年。宇宙では一気に星の崩壊が起こり、時は隕石落下期を迎えた。隕石と星の崩壊により星に住んでいる生物は生きる場所を失い、住む星を獲得するべく残っている星を攻め、領土争奪戦が始まった。なぜか星の崩壊を免れた地球は
5つの生命体が統括するようになった。そして今、3100年。
「とうとう来てしまった、なんで僕が。ヒーローになりたいと思ったやつだけが戦えばいいんだ。どれだけ僕達が…」
凛の隣で青ざめた春音は入隊式に着ていく制服を着ながら、言った独り言には不満がこもっていた。
「ストップストップ!ブツブツどうしたよ、入隊日にネガティブになってても意味は無い!」
「どうして死が近づく決定的な日にネガティブじゃないのかがわからないよ。僕はあんな人たちのために命をかけられるほどできた人間じゃない。」
凛は春音のこの顔は本当にいやがってるとわかっていた。また、この話題になると春音が必ず暗い空気を纏うことは嫌になるほど理解していた。春音の肩に手をおき、元気づけるように声をかけた。
「でもさ、やっとわかるんだよ!誰かが言ってたことが!」
「凛、またその話?知ってどうするのさ、」
「ええ、世界の全てが知れるんだよ?それに、知らないことがあるって言うのがなんかイライラすんだよ!」
春音は凛にもう何回言ったか分からないセリフを吐きながら首を傾げた。
「というか、矛盾してない?戦う意味を知るために戦うってどういうこと?」
「それはあれだよ、その、卵が先でもにわとりが先でもどっちでもいい的な、」
少しの沈黙を終え、春音は苦笑した。
「意味わからないや、やっぱ変だね、凛は。」
「はあ!?俺はおかしくねえ!なんではるは知らないことがあることに平然といられるのかが分からないなあ。」
凛はこんなにも広い自分が生まれてきたこの星に誰よりも目を輝かせていた。どんなに自分が換えのきく存在で人々から嫌われ続けようとも。
「明日生きてるのかも分からないのに、世界なんて、生きている理由さえも分からないよ、僕はまだ。」
自嘲気味に笑う春音に凛は顔を強ばらせながら言った。
「おい、それは違うだろ。俺は言ったはずだ、お前が生きる気力が出るまで、」
「わかってる!わかってるよ、ちょっと弱気になってた」
「だから怒らないで。お願い、僕が悪かった。」
春音が明らかに震えていることに凛は気づいた。
それが自分のせいで起こってしまったことも凛は十分に理解していた。
「いや、違うんだはる、ごめんそんなつもりじゃなかった。大丈夫!俺ははると一緒にいるよ、家族だもん」
優しい声で言葉を続けた。
「というか!俺はさ、その時の記憶がなんか断片的にしかわからないって言うか。誰なのかも分からないし、」
無言で歯を磨き出した春音との間には気まずい空気を蔓延っていた。先の言葉は話題を変えようとしている感が明らかだったが2人にとって都合が良かった。やがてソファに戻ってきた春音は何事も無かったように言った。
「でもその時っていうのもどのくらいの時か分からないんでしょ?」
「でもPomeからは出てないしきっと中の人間だよ!会えるかもしれないんだ!」
「そっか。凛の夢だもんな。というかさ、遅刻するかもそろそろ」
「うわ、長話しすぎた急ご、」
入隊式までの時間は残り20分となっており、今から着替え出す凛には少々時間が足りなかった。
着替え終わり、部屋を出た頃には、正規ルートを通っても間に合わないことは明らかだった。
凛はいつも探検したい時に通っていたある道を思い出した。
「はるこっち!」
「わかった、けどほんとにあってる?」
「だ、大丈夫だろう。」
「ん?」
何かが砕けたような不穏な音がかすかに聞こえた。凛は新しい出来事と出会うかもしれないこのワクワクした音に胸を躍らせていた。この道ではよく楽しいことが起こるのだった。
「なあ、今変な音しなかった?メガネ割れた?」
「ああ、聞こえたけど、僕のメガネじゃないよ」
「でもなんか割れたみたいな。…あっちからじゃね?行ってみよ!」
「なあ、凛待てって!遅れちゃうぞ!それにそんなに近づいたらまずいよ」
「そんなん怒られるだけだろ、行くぞー」
わくわく。生きてさえいれば、何回も味わうこのゾクゾクする気持ち。凛はその感情の高まりに興奮していた。道のりに進んでいくと、思わず鳥肌が立つような凍りついた空気と共にいつも遠くから見ていた壁が現れた。
「…凛、こっちはやっぱりダメだよ、結界がある」
「結界か。」
そこにはどこまでも続いていく土地を真っ二つに割っている黒い影があった。
5つの生命体が共存できている一因であった。
「触れないように少し離れて行こう!」
「本当に結界はすごいな、こんなに離れてるのに気を感じる」
さっきから初めて感じるような重い圧力を2人とも感じていた。離れていくと言っていた凛だが、離れるどころかだんだんと結界へ近づきながら歩いていた。凛が明らかに嘘をついていることを春音は悟っていたが、黙っていた。
「なんか、わくわくするな!」
「僕は別に、でも凛が行くなら俺も行く」
にこにこした凛とは裏腹に暗い顔をしていた春音だったが、覚悟が決まったのか今はもう清々しい顔をしていた。
「でも、危ないかもよ?」
「何言ってんの、僕たちなんて常に危ない状況で生きてるでしょ?あと、約束があるから。」
「わかった。必ず悪いようにはしない」
約束。はるがまだ、見つけられていないことに凛は少し責任を感じていた。未だに春音を縛ってしまっているかもしれないことにも。
「凛どうした?さっきまでのわくわく!って感じじゃなさそうだけど、」
「いや!なんでもない!音のした方ここら辺だと思うんだけどな、もうちょい近づこう、」
「というか!凛が悪いようにしなかったことなんて、数回しかなくない?」
「あれ、そうだっけか?俺の記憶にはない!」
音のした方へ無言のままひたすらに進んでいく。
「ねえ、ここまで来るとMYUの町が少し見えるかもしれないよ」
「まじか!!初めて見る!」
結界には近づく人があまりいないから、見たことある人はあまりいないらしかった。でもMYUはここらへんにはいない。ただ、薄くだが結界の向こうの街並みが見えるようだった。
「なんの音だったのかな?まさかMYUが近くにいるんじゃないか??」
「見てどうするの、相手は敵で僕たちを倒そうとしてくるんだよ?戦ったって勝てるわけ、」
「でも、なんか見てみたくない?それに敵って、あくまで同じ星に住んでる同士だぞ?」
「確かに地球に住んでる生命体はどこも他の生命体に干渉はしていない。」
「だろ?普通に友達になれるかもしれなくね?」
「でも危険だよ、もう戻ろう、それにこの結界があるんだよ、いるわけない。今ならまだ式には間に合うよ。」
春音は好奇心が働くと一直線に追いかけようとする凛に慣れており、なだめ方も知っていた。
それに春音は思っていたよりも危険そうな雰囲気を察知していた。凛は結界を遠い目で眺めながら何かを考えているようだった。
「ん〜。わかった、なんも収穫無さそうだしな、」
納得入ってなさそうな顔だったが、春音の言葉にうなずいて返した。結界から背を向け春音の方へ歩き出した。後ろに迫る物音にも気づかずに。
「凛!後ろ!」
「え?」
凛が振り向くと、頬に拳の当たった音ような鈍い音が響き渡り、目の前の少女はぶつかった先の結界を通り抜けてきた。
「お、お前なんで結界を。戻ってこい!どうなってやがる!」
「なあ兄貴、これはやばいって、逃げよう!」
「ああ、なんか騒ぎになったら面倒だ、だってこいつあれだろ?」
結界の向こうに見える男2人は焦った様子で少女をこちら側に残しいなくなってしまった。
「なんで、結界が動いてないんだ?」
「あの、たすけ、」
助けを求めるような懇願した顔から一瞬でハッとした顔になった少女には小さな角がついていた。
少女は怯えるように凛から後ずさり、結界にぶつかりそうだった。
「とまって!ぶつかっちゃうよ。え?すげえ!ちっちゃいツノが生えてる!!見ろよ!」
「…感心してる場合じゃない、どうしてオリジンに入れてるんだ、MYUが。」




